お久しぶりです。俺と偽装婚約してもらいます。~年下ワケあり生真面目弁護士と湯けむり婚前旅行~
20. 俺は、最低だ
──俺は、最低だ。
三十分後、朔也は葉月の寝顔を見つめながら自分を呪っていた。
あんなことがあったのに、葉月は安らかな表情で朔也の手を優しく握っている。
レイプ犯と被害者が同じ布団で眠るなんて絶対におかしい。
そうわかっているし、手を振りほどいて部屋を出ていくこともできる。
だが、朔也はその場から離れられなかった。
葉月の手は温かく、朔也のそれより柔らかい。
骨格は華奢で、力を込めたら折れてしまいそうだ。
こんな細い体を無理矢理組み敷き、欲望に任せて貪ったのだと思うと、自責の念で死にたくなる。
強引に純潔を奪われたのに罪をすべて被ろうとした葉月を思い出し、朔也は強く唇を噛んだ。
──この人は優しすぎる。他人のことばかり気遣って、傷ついても作り笑いして。
出会ったときから葉月はそうだった。
腫れ物扱いの朔也に怯えながらも「また会いたい」と笑いかけて、家族から反対されても一緒にいてくれた。
あの笑顔にどれだけ救われただろう。
再会したあとも、葉月の変わらない健気な微笑みに癒やされ、一方で心を乱されていた。
──俺にそんな資格、ないのに。
葉月からの好意にも自分の想いにも向き合わないよう努めていたのに、彼女に惹かれてしまうのが止められない。
いつも気にかけてくれる優しさだけじゃない。
危ういほど無防備なところ。隣にいると世界が楽しく見えてくるくらい純粋なところ。気弱なくせにたまに大胆なところ。
彼女を構成するすべてが好きだ。
もちろん、朔也を献身的に守ろうとしてくれる愛情深さも。
だが、だからこそ、一緒にいるわけにはいかない。
──俺は自分のためだけに善良な葉月さんを脅して、偽装婚約に巻き込んだ。
──それだけじゃない。心配してくれたこの人を……!
自身に対する怒りで鼓動がどんどん速まっていく。
「自分勝手な理由で人を傷つけるなんて朔也くんじゃない」と葉月が信じ切った目をしたときの苦痛が蘇り、また唇を噛んだ。
それに耐えられなくて、朔也は葉月を押し倒したのだ。
彼女の信頼も自分の葛藤も、全部ぶち壊してしまいたかった。
「朔也くん……」
不意に名を呼ばれ、情けなく心臓が跳ねた。
どうやら寝言だったようだ。葉月が寝返りを打ち、朔也の手首にもう片手をそっと寄り添わせてくる。
無意識なのだろうが、それは朔也を慰めているように思えた。
犯されたあと、まず彼女がそうしたように。
「……ごめんなさい、葉月さん」
眠っている葉月には届かないのに、言わずにはいられない。
こじらせた愛情や罪悪感、後悔、自分への怒りで、頭の中はもうぐちゃぐちゃだった。
勝手に手が葉月の頬を撫でようとしたのを引っ込める。
触れたいが、触れられない。
触れれば汚してしまうから。
三十分後、朔也は葉月の寝顔を見つめながら自分を呪っていた。
あんなことがあったのに、葉月は安らかな表情で朔也の手を優しく握っている。
レイプ犯と被害者が同じ布団で眠るなんて絶対におかしい。
そうわかっているし、手を振りほどいて部屋を出ていくこともできる。
だが、朔也はその場から離れられなかった。
葉月の手は温かく、朔也のそれより柔らかい。
骨格は華奢で、力を込めたら折れてしまいそうだ。
こんな細い体を無理矢理組み敷き、欲望に任せて貪ったのだと思うと、自責の念で死にたくなる。
強引に純潔を奪われたのに罪をすべて被ろうとした葉月を思い出し、朔也は強く唇を噛んだ。
──この人は優しすぎる。他人のことばかり気遣って、傷ついても作り笑いして。
出会ったときから葉月はそうだった。
腫れ物扱いの朔也に怯えながらも「また会いたい」と笑いかけて、家族から反対されても一緒にいてくれた。
あの笑顔にどれだけ救われただろう。
再会したあとも、葉月の変わらない健気な微笑みに癒やされ、一方で心を乱されていた。
──俺にそんな資格、ないのに。
葉月からの好意にも自分の想いにも向き合わないよう努めていたのに、彼女に惹かれてしまうのが止められない。
いつも気にかけてくれる優しさだけじゃない。
危ういほど無防備なところ。隣にいると世界が楽しく見えてくるくらい純粋なところ。気弱なくせにたまに大胆なところ。
彼女を構成するすべてが好きだ。
もちろん、朔也を献身的に守ろうとしてくれる愛情深さも。
だが、だからこそ、一緒にいるわけにはいかない。
──俺は自分のためだけに善良な葉月さんを脅して、偽装婚約に巻き込んだ。
──それだけじゃない。心配してくれたこの人を……!
自身に対する怒りで鼓動がどんどん速まっていく。
「自分勝手な理由で人を傷つけるなんて朔也くんじゃない」と葉月が信じ切った目をしたときの苦痛が蘇り、また唇を噛んだ。
それに耐えられなくて、朔也は葉月を押し倒したのだ。
彼女の信頼も自分の葛藤も、全部ぶち壊してしまいたかった。
「朔也くん……」
不意に名を呼ばれ、情けなく心臓が跳ねた。
どうやら寝言だったようだ。葉月が寝返りを打ち、朔也の手首にもう片手をそっと寄り添わせてくる。
無意識なのだろうが、それは朔也を慰めているように思えた。
犯されたあと、まず彼女がそうしたように。
「……ごめんなさい、葉月さん」
眠っている葉月には届かないのに、言わずにはいられない。
こじらせた愛情や罪悪感、後悔、自分への怒りで、頭の中はもうぐちゃぐちゃだった。
勝手に手が葉月の頬を撫でようとしたのを引っ込める。
触れたいが、触れられない。
触れれば汚してしまうから。
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