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おっしゃマン

クルト・ミュンツァーといふ男

「昨夜は誰をご寵愛だったのかね、ユルゲン君?」

 ガタイの良い中年の男が、―今朝、私の目覚めに立ち会った男だが―、食堂の中央の席から声を掛けてきた。開口一番良いご挨拶だ。だからといって、ここで言い返すのは得策ではなかろう。昨夜、何をしていたのか。これを私に言わせる事こそが、彼の戦略的目標なのだから。特に、資料を携帯していない今、徴税に関する報告をするのは自ら死地に赴くようなものだ。

「私をお呼びだったと伺いましたが、、、?」

「―君はもう少しユーモアが何たるかを理解する必要がありそうだ、違うかね?」

 そう言うと、ため息交じりに席を立ち、こう切り出す。立ち上がるときに胸のバッジ達がキラキラと繊細な輝きを放ち、彼の体重に耐えていた椅子を称賛した。

exehエクスィ村は知っているね?」

 聞いたことがある名前だ。確か同期の徴税官が担当していたはずだが、、、。彼が何かやらかしたのだろうか?

「今日の夜明け頃、そこから使いが来たのだよ。西の関所に。」

「―まあ、使いの馬が来た、というのが正解かもしれんが。」

妙に含みのある言い方をする。

「馬が来た、というのはどういう意味です?」

使者・・本人は殺されていたのだよ。―いや死んで・・・いた、というべきか。」

と、ニヤニヤする彼は同意を求めるような視線を私に送る。もちろん無視したが。

「では使いが何を伝えに来たか分からず終いということでありましょうか?」

「いや、彼は律義にも手紙を持っていたのだよ。―あれを。」

 隣に立つ執事が彼に手紙を渡す。その手紙はクシャクシャで、―ワインをこぼした後にできるシミのような、赤茶色っぽい模様が付いたそれは律義にも4つ折りにされていたが―、我が主の装いがそのみすぼらしさに拍車を掛けていた。

「村の教会からだ。失踪事件が起きているらしい。しかも何件も。」

開いた手紙の文面をなぞるように見つめる彼の顔には、領主としての責任が感じられた。

「被害者には君の同期のオプファー君も含まれているそうだ。」

そう言いつつ、彼が差し出してきた手紙を読む。それは次のような文面だった。


拝啓 クルト・ミュンツァー様

 親愛なる領主様。Exeh村の司祭、バァッハフントはとある問題に頭を悩ませております。
と言いますのも、最近、私達の村では住人が忽然と姿を消す事態に苛まれているのです。

本当に忽然と!!
まるで最初から誰も居なかったかのように。

既に5人の住人が失踪しており、住民達は怯え切っております。そのため彼らは満足に労働できず、このままでは今年、領主様にお納めする税を用意できるか心配です。
また、私達の村を担当していた徴税官、アンファング・オプファー様も数日前から行方が知れません。

私ども教会は、事件発生以降、毎晩神へ祈りを捧げておりますが、一向に事態が改善する様子は見られないのです、、、。

親愛なる領主様、どうか我らをお救いくださいませ。

                         Exeh村の司祭 バッハフントより


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