バッドエンドは全力でぶち壊す!

血迷ったトモ

第46話 涙

 時刻は23時前。観光を終えて帰ってきた雄貴達は、夕食 (女性陣は汗を流す為に、夕食前にシャワーを浴びている)を摂ってから、ボードゲーム等をしばらく楽しみ、そろそろお開きにしようとしていた。

「う〜ん…運悪過ぎて、何にも言えない。」

 直前まで行われていた、人生ゲームの結果に、苦笑いの雄貴。

「プレイしてて、こっちが申し訳なくなる程、借金を背負ってたな。」

 同じように苦笑いを浮かべている悠人。

 普段ならこの辺りで、シンシアから慰めの言葉でも飛んできそうなものだが、残念ながら彼女は、由橘乃を連れてどこかへと行ってしまっていた。

「さてと、コーヒーでも淹れようと思うんだが、悠人も飲むか?」

「そうだな。折角だから、俺も飲むとするか。」

 夏帆と咲は、自身の部屋に戻っているので、雄貴はキッチンに入り、手早く二人分用意する。コーヒーミルとか、物々しい器具が用意されていたが、小市民な雄貴が手に取ったのは、もちろんお安めなインスタントコーヒーであった。

 湯を沸かし、ものの2,3分で淹れ終えて、ソファに腰掛けて待つ悠人の元へと運んでやる。

「何か入れる?」

「いや、このままで良いかな。」

「ん、りょーかい。」

 コーヒーを飲み、ただぼんやりする2人。たまにはこんな時間も悪くないなと、雄貴は思う。ゲームの世界なのだから、イベントが発生するのは当然であり、それらはプレイヤーにとっては楽しいものだろうが、そこに生きる者には大変な出来事だ。

「そういえば。」

「ん?どうしたんだ?」

 急にボソリと言葉を発した悠人に、雄貴は聞き返す。

「いや、副会長時と安曇さんは、一体何の話をしてんだろうなってさ。」

「あーなるほど。実際の所は分かんないけど、大体予想は着くな。」

 夏休み後のイベントではあるが、恐らくはそれが関係した話をしているのだろうと、当たりをつけている雄貴。

「どんな話なんだ?」

「あぁそれは、先輩が安曇さんを、次期生徒会役員にならないかと、勧誘してるんだろうよ。」

 夏休みが明けた後には、生徒会選挙が開催される。そこでシンシアは生徒会長に、由橘乃は副会長に立候補する。主人公である悠人は、ルート分岐によっては、シンシアや由橘乃の選挙活動に協力し、奔走する事となるのだ。

「へぇ、なるほどな。それなら納得だな。」

「安曇さんは、成績優秀、Sランクの超能力者、更には人格とルックスにも恵まれているからな。生徒会としては、欲しい人材だろうよ。」

「ベタ褒めやん…。それ、あんまり本人に面と向かって言わない方が良いぞ?」

 雄貴が恥ずかしげもなく、由橘乃を褒めるのを聞いて、引き気味で忠告をしてくる。

「そうか?けど、否定しないって事は、悠人もそう思ってるんだろ?」

「…ノーコメントで。」

 チラッと、リビングの出入口の方を見た悠人が、何故か言葉を濁す。

「え?誰か居たのか?」

「多分。人影が見えただけで、誰が居たかは分からないけど。」

「ひぇっ……。」

 万が一、さっきの言葉を本人に聞かれたら、と考えたら、『何言ってんのよ!!』と何故か顔を真っ赤にした由橘乃に、首を絞められる様を幻視してしまった雄貴。

 誰に聞かれたのか確認するために、大慌てで立ち上がり、リビングから飛び出す。廊下を見渡すが、誰の姿も無い。

 見失ってたまるかと、人影が2階に行ったと予想し、足早に階段へと向かって下から見上げると、こちらを動揺したように見ている、夏帆の姿が、そこにはあった。

「夏帆…さん?一体「何でも無いよ!」え、いや、何でも無くはないだろ…。」

 その尋常じゃ無い様子に、『一体どうしたんだ?』と聞こうとした雄貴を遮り、悲鳴にも聞こえる声で言う。

「ほ、本当に何でも無いから……。ご、ごめん!」

「え…?」

 よく見ると、目には涙を浮かべており、普段の夏帆からは想像もつかない程、弱々しいその様子に気を取られ、雄貴の脇を通って逃げるのを見逃してしまう。

「お、おい、雄貴。一体どうしたんだよ?もも…じゃねぇや。夏帆がすげぇ勢いで、玄関から外に飛び出してったけど。」

 声が聞こえたのか、リビングからひょっこり顔を出して、戸惑った様子の悠人が、玄関を指差しながら言う。

「……は?外に?それはちと放っておけないな。探すの手伝ってもらえるか?」

 声を掛けられた事により、再起動を果たした雄貴は、慌てて走り出す。

「あ、あぁ、分かった。」

「助かる。」

 状況を詳しく知らないのに、即断即決で協力をしてくれる悠人に、短く感謝の言葉を告げてから、外に飛び出すのだった。


 別荘を飛び出してから、夏帆は必死に走った。

 -どうして……。-

 抑えきれない感情に、心の中で憤る。普段なら蓋をして・・・・、笑顔で覆い隠して・・・・・、一瞬表情が曇るかもしれないが、直ぐにいつも通りに戻るはずだった。

 だが今回は、タイミングが悪過ぎた。シンシアと由橘乃の会話を聞いてしまい、それが生徒会への勧誘の話であった。更には、由橘乃が生徒会に相応しい・・・・と、雄貴が褒めているのを聞いてしまった。

 たったこれだけの出来事で抑えが効かなくなり、飛び出してしまったのだ。表面上だけでも取り繕えば、雄貴を驚かす事も無かっただろうに。

 そう思うと、自分が更に・・嫌いになる。

 頬を伝う涙を拭う事もせず、必死になって走り、そうこうしている内に、気が付くと、砂浜で呆然と立ち尽くしていたのだった。

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