バッドエンドは全力でぶち壊す!

血迷ったトモ

第44話 ガマ

  食後に少しの間、休憩時間を挟んだ後、一行は付近にあったガマへ、足を運んでいた。

「おぉ、雰囲気あるな。」

 入口を見て、思わず声をあげた雄貴に、ピッタリとくっ付く少女が居た。

「…あ、あんまり早く歩かないでね?」

「わ、分かった。」

 勿論、夏帆である。まだ入る前だというのに、既に雄貴の腕にしがみつき、若干だが痺れを感じるほどの力を込めているのだ。

 こんなんで、この先大丈夫なのだろうか。

ーえ、中で泣き出したりせんよな?だとしたら、流石に手に負えないんだけど。ー

 酷い言い様だが、事実、女性の扱いに慣れてない雄貴では、右往左往するのがオチだ。気の利いたセリフなんて、欠片も出てくる訳が無いのだ。

 なのでせめて、泣かれないように、必死に努力するのみである。

「ま、閉じ込められたとしても、必ず俺が助けるから、安心して。」

 若干、くさいセリフとなったが、一応これは本心でもあるので、どうにか最後まで言い切る。

「う、うん。ありがとう。」

 少し顔を赤らめながら、礼を言う夏帆。それに対し、雄貴は心臓が一瞬高鳴るが、何とか鎮めて平静を保つ。

「「「「……。」」」」

 その様子を言葉を失って見ているシンシア達の心の内は、全員同じものであった。

ーえ?2人は付き合ってるん(ですか!?)ー

 とまぁ、当然の反応である。2人の様子は、まるでカップルそのものだった。

「ん?みんなどうしました?何故立ち止まってこちらを見てるんです?」

「…い、いや、お前ら、絶対に付き合ってんだろ?」

「は?いやいや無い無い。俺が?ハッハッハッハッハッ…って、前も同じやり取りしたよな?」

「し、したね。その時も否定したと思うけど、私と雄貴君は、付き合ってなんか無いよ?うん。」

 皆の気持ちを代表して悠人が質問すると、高笑いしながら否定する雄貴と、どこか歯切れ悪く答える夏帆。

 恐怖により、あんまり、口が回らないのだろうか。

「そ、そう言えばそうだったな。…さ、入りましょうか。」

 話が平行線になりそうだったので、諦めて後ろを向き、シンシア達に声をかける。

 皆一様に、困惑した表情であったが、これ以上、深く聞くことははばかられたのか、取り敢えずは頷く。

「え、えぇ、そうね。あ、咲先輩。足元に水たまりがあります。」

「あ、ホントだ。ありがとう。」

 猫耳だからか、水が苦手なのだろうか。大きく遠回りして、避けて通る咲。

 それを機に、ようやく全員が動き出すのであった。


「ここは、防空壕になってたりするんですか?」

「いえ、こちらは使用されなかったみたいですね。しかし、海は近いので、米軍による攻撃がされてますので、あ、あそこにドラム缶がくっついてますね。」

 現地での案内人として、シンシアが雇った、福地ふくちという女性が、雄貴の疑問に答えてくれる。

 何も分からずに見るより、適宜解説があった方が楽しめると、わざわざ気をつかってくれたのだ。

「お、確かにくっ付いてるな。」

「あの中にガソリン入れて火をつけて、ガマに放り込んだんです。そして、爆発してあんな所まで、吹き飛んだ訳ですね。」

 福地の指さす方向を見て、思わず呟いた悠人。日常生活では見られない、物珍しい光景だからだろう。

「……こちらの世界も、似たようなものか。」

「何か言いましたか?」

 雄貴の呟きに、引っ付いて余裕の無い夏穂では無く、シンシアが反応する。

「いえ、何でもありません。先に進みましょう。」

「そうですか?」

 誤魔化して先に進もうとする雄貴。だが、福地から待ったがかった。

「あ、そちらは深い穴があるので、お気を付け下さい。落ちれば、まず助からないと思います。」

「あ、そ、そうでしたか。」

「雄貴君、気を付けてね?」

「アンタ、案外抜けてるわね。気を付けなさいよ?」

 目をぱちくりさせて、足を止める雄貴。そこに、苦笑いの咲と由橘乃から注意されてしまった。

 雄貴なら滑落しても、恐らく生きてられるだろうが、引っ付いてる夏帆は、無事では済まないだろう。なので、うっかりで落ちては、笑えないのだ。

「す、すみません。」

「この石を、あちらに投げますと……とまぁ、このように、凄い深いのです。えっと、私が先導しますので、皆さんは後から着いて来て下さいね。」

 実際に穴がある方向に石を投げた福地だったが、たっぷり15秒は無音であった。

「「「「「「はい。」」」」」」

 危ない場所である事を完璧に理解したので、全員で返事をする。青い顔をしている、夏帆までもが返事をしている。

「夜目が効くから、ボクが前に行くよ。」

「石田先輩、ありがとうございます。」

 猫は夜目が効くというが、やはりそうなのだろう。自信満々な様子で、雄貴の前に出てくれる咲。頼もしい限りであった。

「そういえばアンタ、対策課はどうしたのよ?仕事とかあるんじゃないの?」

「あ、それならシンシア先輩が、何とか掛け合ってくれたみたいだね。お陰で沖縄に居る間は、ゆっくり出来そうだよ。」

 本人への連絡はギリギリになった割には、異様に手回しの良いシンシアにより、雄貴はオフをもらっていた。オフと言っても、Sランクの超能力者2人を警護する、といった名目上の仕事はあるのだが。

 それはそうと、ゴールデンウィークの忙しい中、優斗達対策課の人間は、目をぐるぐる回しながら働いてることだろう。

 その手回しに苦労して、忘れたという事であるだろうから、責められないのだが。

「ホント、先輩には感謝しないとだな。」

「え?どうしました?」

「いや、こんな機会を用意して下さって、先輩には感謝しか無いなって話です。本当に、ありがとうございます。」

「な、何か照れますね。私が皆さんと遊びたいので、用意した機会ですので、気にしないで下さい。」

 照れ臭そうに笑いながら言うシンシアは、とても可愛く、つい顔が赤くなってしまったが、暗闇のお陰で気付かれる事無く、ほっとする雄貴だった。

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