バッドエンドは全力でぶち壊す!

血迷ったトモ

第33話 お誘い

「ちょっと良い?」

 4月25日木曜日。昼休みに唐突に、由橘乃から話しかけられる。ゲーセンであった日以来、学校でも少し話すようになったので、比較的珍しくも無かったが、様子がおかしい。

 少しだけ緊張してるようだ。

「ん?どうしたの?」

 お弁当を食べていたが、一旦箸を置いて顔を上げて聞く。

「えっと、少し付き合って欲しいんだけど…大丈夫?」

「…おぉ、白昼堂々告白とは、中々になるな。」

 雄貴の対面で惣菜パンを食べていた悠人が、意外そうな顔をして言う。

「ち、違うわ!アンタ、何言ってるのよ!」

 顔を真っ赤にして叫ぶ由橘乃。彼女もこの手の話に弱いようだ。

 というか、悠人はそろそろこういうイジりは止めた方が良いんじゃないだろうか。揶揄う相手が暴力系ヒロインなら、とっくにぶっ飛ばされてるだろう。

「もう止めてよね!」

「ぐえっ!」

 …時既にお寿司…じゃなくて、遅し。赤い顔のまま振るった由橘乃の右拳が、悠人の腹に突き刺さる。

「お、おい悠人。…まぁ大丈夫か。」

 彼の丈夫さは折り紙付きである。『ウラデリ』内において、生身で彼の耐久力に勝る人間を、雄貴は知らない程だ。そういう訳で、机に伏した悠人を放置して、脱線した話を戻す。

「今日の放課後?荷物持ちぐらいなら付き合うけど、流石にシベリア送りとかはやだなぁ。」

「誰が共産党指導者よ!」

「処すのは…。」

「処すって何よ!?物騒すぎない!?」

「あ、こっちは通じないか。」

 シベリア送りの方も、実際に行われた方を知ってるだけで、どちらもこの世界では、元ネタとなった漫画も、それを使ったコラも存在しない筈である。

「まあまぁ。エキサイトし過ぎだよ?」

「誰のせいよ!…って、そんな事を話に来たんじゃないの。」

 色々と叫びたい気持ちをぐっと抑える。感情に引っ張られて暴走しがちな由橘乃にしては、結構珍しい事である。

「呼び出しかかったら抜けるかもしれないけど、一応は空いてるから問題無いよ。どこ行くん?」

「えっと、この間とは別の筐体で、新譜面追加されたから、一緒にどうかなと思ったのよ。」

 「あぁ、あの『ジェットコースターのような疾走感が楽しめる』やつだね。頭のぶっ飛んだBPMの曲だったっけ?」

 雄貴の記憶が確かなら、コンポーザーが、BPM早い人2人による合作だったので、果たして人間がやるレベルに収まってるか不安である。

「そうなのよ。アンタの運指を参考にしたいから、ちょっと一緒に来て欲しいの。」

「あ〜、なるほど。まぁ近い内に行くつもりだったし、丁度良いかもね。放課後に行こうか。」

「ありがとう助かるわ。」

 雄貴としても、1人で行くよりも、2人で一緒に遊んだ方が楽しいので大歓迎である。

「悠人もどうだ?」

 そして更に、ここで悠人も誘い、2人の距離を縮めようと画策する。
 
 由橘乃と悠人のいざこざは、残念ながら最初期に不発に終わったが、ストーリー展開によっては恋人同士になるのだ。こうして機会さえ設ければ、ワンチャンあるかもしれないと、淡い期待を懐く。

「んー、俺は良いかな。ちょいとやっておきたい事あるし。」

 だが残念ながら断られてしまった。確かこの時期でやっておきたい事だと、体育祭当日のあの事件・・に関してだった筈なので、それは外せないだろう。

「そうか。悠人も音ゲーの沼に引きずり込みたいから、気が向いたら来てくれよな。」

 殴れた腹を擦りながら、パンを食べ始めた悠人の肩を叩きながら言う。

 その様子を見ていた由橘乃が、変な顔して呟く。

「…アンタたち、何か似た者同士って感じだよね?」

「「え、そうか?」」

 唐突な呟きに、思わずハモる2人。

「身に纏う雰囲気っていうか、何か秘密がありそうな感じかな?」

「秘密ねぇ。確かに幾つか話してない、衝撃的な事実は何個かあるけど、必要無いから言ってないだけなんだけどな。」

 腕組みしながら雄貴は言う。絶対に言えない秘密があるにしても、それ以外はオープンに行くつもりだ。その為、あんまり秘密主義を気取るつもりは無かった。

「同じくそうだな。」

ーいやお前は秘密ばっかり・・・・・・やろ!ー

 心の中で全力のツッコミをする。悠人には、人には絶対に言えない、重大な秘密が幾つもあり、物語内で明かされた際は、多くのプレイヤーが驚かされただろう。というか、驚かされた者の1人が雄貴であった。

「ふーん秘密があるのは言っちゃうのね。ま、人には秘密の2、3は普通にあるだろうし、別に良いんだけどね。」

「ん?なら、別に俺と雄貴が似てるっていうのに、理由が無くなるんじゃないか?」

「あ、そういえばそうね。…う〜ん、それなら、たまに本心を話してない風というか、よく分からない表情してるように感じるのが、似てるところかな?」

「そ、それはただのディスりじゃないかな?」

「う〜ん、まぁ兎に角、言葉じゃ言い表せないけど、何だか共通した雰囲気があるのよ。」

「…どう思う?」

「んな事言われてもな。まぁ確かに俺と雄貴は背丈とか似通ってるし、そういう所じゃないか?」

「そうだな。言われてみれば、結構似てる所が多いな。」

 雄貴の身長は173センチ程だが、ほぼ悠人と同じであり、また、体格も痩せ気味で筋肉質というのも共通している。髪もお互いに戦闘に邪魔にならない程度の長さなので、もしかしたら後ろから見たら、区別がつかないかもしれない。

 客観的に見れば、確かに似てると言われるのも、頷ける事であった。

「そういう事じゃ無いんだけど…。」

 だがしかし、由橘乃は納得していないようで、小さくそう呟いたのだった。

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