バッドエンドは全力でぶち壊す!

血迷ったトモ

第27話 難聴系主人公?

「ち、違うから!今のは、話の流れで筋肉を見ただけだから!」

 悠人に指摘されてしまった為、夏帆は顔を真っ赤にして言い訳する。

 だが視線は泳ぎ、分かりやすくワタワタしてるので、説得力はゼロである。

「ほほう。夏帆さんは、そんな奴だったのか…。」

「そんな目で見ないでぇ!って、そういう話をしに来たんじゃなくて、雄貴君には、色んな競技に出て欲しいの。」

 ジト目の雄貴にたじろぐが、驚異の精神力をもってそれをねじ伏せ、自身の要求してくる。胸囲は無いのだが。

「今、何か変な事、考えなかった?」

「いや、何の話だ?」

 小さくても女という事か。鋭い勘で、雄貴の不穏な考えを察して、厳しい目付きをしてくる。

 そんなに鋭い勘を持っているなら、雄貴の内心を察して、悠人を連れて、早々に退散して欲しいものであるのだが。

 取り敢えずすっとぼけながら、どうしようかと考える。このままでは、夏帆√のイベントの渦中に、巻き込まれてしまう恐れがある。
 現段階において、色々とストーリー進行が狂ってる為、それは何としてでも防ぎたい事態だ。

「百田は…「夏帆って呼んで。」あ、あぁ、夏帆は、体育祭で優勝したいのか?」

 名字で呼ぼうとした悠人の口を塞ぎ、有無を言わせぬ笑顔で、名前呼びを強制する。
 別にこれは、悠人に既に気があるとか、そういう事では無く、Aクラスの生徒、全員に対してお願い・・・している事だった。

 先程から雄貴も名前で呼んでいるのには、そういう理由があった。

 その理由を深く知ってる雄貴は、初対面の時から言われるまでも無く、名前で呼んでいるので、夏帆からの好感度が若干高かったりする。

「うん、優勝したい。私は、運動が大得意だから、体育祭とか凄い好きなの。」

 良い表情で言い切る。

 だが理由はそれだけでは無いのだ。しかし、少なくとも今は、そこに言及する事はしない。

「なるほどな。協力してやらないのか?」

「う〜ん、まぁ、少し位なら良いけど…。」

 何だかここで夏帆のお願いを断るのは、人として駄目な気がしてしまい、ついそんな事を言ってしまう。

「ほ、ホント!?ありがとう!」

「のわっ!あ、暑苦しいって!」

 ぱあっと笑顔の花を咲かせて、勢い良く抱き着いてくる夏帆を、何とか振り払おうとするが、案外力が強くて離れてくれない。

 流石に人は選ぶが、このようにスキンシップしてもOKと判断した人間には、とことん引っ付いてくるのが、夏帆の表の・・性格だった。

ー好感度は普通より大分高めかい!俺、何かしたっけか!?ー

 『ウラデリ』において、夏帆の好感度はスキンシップで、大体測れるのだが、抱き着くのは結構親しい友達ぐらいに思われている証拠であった。

 因みに、肩などの身体を叩いてくる⇒ハイタッチ⇒腕に抱き着き⇒抱き着き⇒通常抱っこ⇒相手の方を向いて抱っこの順に、好感度が高くなってゆく。今は、上から3番目である事が分かる。

 まぁゲームでなくても、ここまであからさまに距離が近くなれば、当然に分かるだろうが。

「こらそこ。今は一応授業中何だから、イチャつくのは後にしなさい。」

「は〜い。」

「あ、すみません。…イチャついてませんが。」

 少し騒がしくし過ぎたのか、美香に咎められてしまった。

 若干、誤解を受けてるようだが、ここで強硬な態度で否定しても、ただの友人とのスキンシップと考えてる夏帆を、傷付ける事になるので、弱々しく軽く否定するだけにしておく。

「それで、雄貴君にはリレーとかを中心に、少人数が選抜される系の種目に出て欲しいな。」

 甘えるように腕に抱き着いて、そんな事を言ってくる。

「あ〜うん。適当にその辺は任せるよ。ただ、アンカーだったり、何個も出場とかは止めてくれよ?」

「あはは。アンカーとかについては、他の人が揃ってから決めるけど、種目数はそんなに多くしないから安心してね。」

 何だかんだで、すっかり夏帆のペースに呑まれてしまったが、彼女の力になるのは吝かでは無いというのが本心なので、この際、諦めるとするかと、少し落ち込む。

「頼むよ?もしとんでもない状態だったら、10分間くすぐりの刑だからな?」

 巫山戯て笑いながら手をワキワキと動かす。

「えぇ。その手の動き、何かセクハラっぽいよ?というかこちょこちょとか、普通にセクハラだよね?」

「…すまん。確かに女の子に対して、配慮の欠けた発言だったわ。」

 つい、妹に対して・・・・・接するのと、ほぼ変わらない言動をしてしまったと気が付き、目を見開いて驚きながらも、即座に謝る。

「え、あ、そんなに謝らなくても良いのに。私と雄貴君の仲じゃん。」

「俺と夏帆さんの仲って言ったって、そんなに仲良かったっけか?」

「ひ、酷いよ雄貴君。私との関係は、遊びだったて事なの?」

「ヲイ。人から誤解を受けるような発言をしないでもらえる?」

「いたっ。」

 こうしてコントのようなやり取りが出来るのが、夏帆の良い点だった。

「2人とも、付き合ってんのか?」

 外から様子を見ていた悠人からの言葉に、雄貴は引き攣った笑みを浮かべる。

「ははは。面白い事を言うな。残念ながら、俺に彼女は居ないんだな。自分で言うのもあれだけど、俺、結構酷い性格してるからな。」

 具体的には、誰であろうと夏休み明け、若しくはNHSの片がつくまでは、中身は別の人間であることを告げない事や、人の恋路を裏から操って、自身の望むように調整しようとしている事だ。

「え〜、雄貴君は良い人だよ?凄く優しくて、気遣いも出来るし。」

「そ、そうか?」

「うん、そう。…ラ…多そうだし (ボソッ)。」

「え?何か言ったか?」

 難聴系主人公みたいな返しをしてしまうが、雄貴の聴力をもってして聞こえないという事は、ほぼ声に出してないのと同じなのだから、仕方が無いだろう。

「ううん。何も言ってないよ?」

 笑顔で言い切られてしまい、追求など出来る筈もなく、『そっか』としか返せないのであった。

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