バッドエンドは全力でぶち壊す!

血迷ったトモ

第20話 俺じゃない。よく見てくれ。

 あれから1週間が経過し、4月15日月曜日となった。入学式は、シンシアのスピーチも含め、恙無く終わり、雄貴にも出動要請がかからない、至極平穏な日々が続いた。

 しかしここに1人、朝っぱらから心の内に、暗雲が立ち込める人物がいた。

ーな、何で先輩は、悠人に話しかけないんだ!?死んじゃった男の子に似てるんじゃ無いのかよ!?ー

 教室の机に突っ伏して、頭を抱える。そう。シンシアの行動が、ゲームのシナリオとは全く違う方向へと向かっているのだ。

 1-Aとなり、ヒロインズはほぼ全員揃ってる中、それでも上手く行かないので、気分は最悪である。

ー代わりと言っちゃあれだけど、最近校内で俺を見かけたら、死ぬほど話したそうに、じっと視線を送ってくるし!俺じゃなくて、悠人を見て下さい!ー

 言えれば楽であるが、残念ながらそれが出来ないからこそ苦労してるのだ。

「お、雄貴。おはよう。」

「ん、あぁ悠人か。おはよう。」

 顔を上げ、気の抜けた挨拶を返す。

 今のところは、悠人は自身に話しかけてくる以外は、ほぼ全て原作通りの行動をしてくれていた。これが唯一の救いであろう。

お陰で、悠人は上手い具合にとある人物から、少し目を付けられており、原作通りであれば、そろそろ一悶着起きる筈である。

「…何か、嫌な事を考えて無いか?」

「気の所為じゃ?それよりも今日は1限目から、悠人の苦手な日本史だろ?さっさと予習を始めた方が良いぞ〜。」

「…寝るから問題無い。」

「問題だらけだな。ま、テスト前に泣き付いてきたら、ラーメン1杯で手を打ってやろう。」

「そうか、助かる…。」

「いや、良いのかいって、もう寝てるわ。の○太君なみだな。」

 机に突っ伏して、直ぐに眠りにつく悠人。その堂々っぷりには、起こすのが悪く感じられる。

 因みに雄貴は、文系に特化した頭をしており、特に歴史系は、高校3年間で1度もテスト勉強した事が無くても、9割方は答えられる程であった。

ーん?彼女・・が近付いて来てるぞ?これはまさか、イベント勃発か!?ー

 ここで、学園モノ定番の、とあるイベントが発生する兆候を捉えた雄貴は、興奮気味に、机の下でこっそりガッツポーズをとる。

 そんな雄貴の視線の先で、少し青みがかった・・・・・・髪の女子が、悠人の机の前に立った。

「田貝悠人!どうして貴方は朝からそう、やる気が無いの!?」

「…君は…誰だ?」

安曇由橘乃あずみゆきのよ!ぶつかっておいて、挙句にし、し、し、下着まで見ておいて、何て事を言うのよ!」

「だから、見てないぞ?」

 皆さんも何となく察してるとは思うが、彼女こそが、八坂刀売神やさかとめのかみという超能力を持つ、『ウラデリ』最後のメインヒロインである。

 由橘乃とは、入学式の翌日の4月9日に、電子書籍を端末で読みながら登校してる際、角でぶつかって、その下着を見るという、ラッキースケベイベントが発生している。

 悠人は見ていないと言い張るが、ゲームを見た雄貴には分かる。

 線やら何やら、色々と見てはいけないモノまで見てしまっているので、暫くは頭から離れてない筈だ。

ーおぉ…お約束だな。しかし、目の当たりにすると、少しハラハラするよな。ー

 不機嫌そうに文句を言う由橘乃を見て、少し恐怖を感じる。女性が怒鳴っている様は、中々に胃に悪いものがあった。

「…何よ?」

「…ん?俺の事?」

 ぼーっと見ていた雄貴に、何故か急に由橘乃が話しかけて来た。実に不機嫌そうである。

「どう見ても、アンタに話しかけてるに決まってるじゃないの。さっきからジロジロ見てきて、何か用でもあるの?」

 どうやら、ぼーっとしながら見ていたのが、彼女のお気に召さなかったらしい。

「いや、まぁ、目の前であんだけ大きな声を出されれば、そりゃあね?結構注目浴びてるみたいだし、少し声のボリュームを下げた方が…。」

 何と言い訳しようか迷い、曖昧な笑みを浮かべながら、当たり障りのない答えをする。

「わ、悪かったわね。…そういえばアンタは、コイツと仲が良いの?」

「まぁ比較的。普通の友達かな。」

「なら、あの話とかは聞いてないのよね?」

「…あの話?さっき言ってた、ぶつかったとか、そういう話?」

 何だか勿体ぶった口調の由橘乃に、首を傾げる。一体何が聞きたいのだろうか。

「そ、そうよ。男子って、そういう話が好きなんでしょ?なら、その、どういう下着だったとか…。」

「いやいや!そんな話はしてないって!そもそも、ぶつかったって話は、さっきが初耳だし!」

「本当に?嘘じゃないわよね?嘘だったらその時は、藻屑にしてやるわ。」

 睨み付けながら念押ししてくる。子供が見たら、ギャン泣き間違い無しの迫力である。

「怖ーよ!安曇さんと戦うとか、出来れば遠慮したい!」

 顔を引き攣らせながら言う。いつの間にか、自身が話し込んでしまっているが、本来ならここで怒りを爆発させ、悠人と戦う予定なのだ。雄貴が相手をするなど、絶対にお断りである。

「にしても、そんなに根に持たなくても。別にクマさんの絵がワンポイントで入ってる、少し高校生が穿くには子供っぽい物を見られたんじゃ無かったんでしょ?なら、事故って事で、平手打ちの1つでもして、手打ちにすれば良いのに。打ち・・だけに。はははは…は?あれ?そんなにギャグが寒かった?」

 寒い冗談で、話を流そうとしたが、どうも由橘乃の様子がおかしい。顔を赤く染め、ぷるぷると震えている。

ーあ、あれ?確か真っ白だった筈何だけど?…そういえば、尻もちついてたから、お尻側は見えなかったよな?まさか!ー

 そこまで考えて、さぁっと顔から血の気が引く音がする。どうにも、やらかしてしまった予感がする。

「あ、アンタ、どうして知っているのよ!?子供っぽくて悪かったわね!!!!」

 雄貴の予想は当たってしまった。教室中に由橘乃の大声が轟く。

「て、適当に言っただけで、はい、すみません!」

「許さないわ!アンタ、模擬戦でぶちのめしてやるんだから!放課後まで、首を洗って待ってなさい!」

「うぇぇぇ!?俺!?」

ー勝負を申し込む相手、俺じゃないだろ!?よく見て!悠人はあっち!うわ、他人のフリして寝てやがる!!!!ー

 激怒した由橘乃にぶちのめす宣言をされてしまった雄貴。

 今更口から出た言葉を取り消す事は出来ない。
 この後一日中、頭を抱えながら過ごす事が、決定した瞬間であった。

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