バッドエンドは全力でぶち壊す!

血迷ったトモ

第15話 殺人級

 口いっぱいにカレーを食べた雄貴は、幸せそうにもぐもぐしていたかと思うと、急に目を見開いて動きを止める。

ーか、辛い!?何で!?え?カレーって、こんな辛い食いもんだっけか!?でも何でか超美味いんだけど!?ー

「…?口に、合いませんでしたか?」

  冷や汗をダラダラ流しながら、動かない雄貴を見て、おずおずと聞いてくる。

「…ごくん。い、いえ、思ったよりも辛くて、びっくりしただけです。凄く美味しいです。」

 これは、シンシアが作ったから無理して言ってるのでは無く、本当に美味しいから言っているのだ。

 ただ尋常じゃなく辛い。とてつもなく辛い。舌がもげるのでは無いかと、一瞬思った程だ。

「ほ、本当ですか?」

「はい。もぐもぐ…うん。やっぱり辛いですけど、物凄く美味しいです。」

「良かったです…。以前、お父様に食べさせた時は、完食したものの、暫く舌の感覚が無いと言っていましたので…。」

ーまだ見ぬお父上!ご愁傷さまです!これ、人間には無理な食い物です!ー

 ヒリヒリする舌を洗い流す為、牛乳を口に含みながら、心の中で手を合わせる。

「頂きます…。うん、やっぱり美味しいです。」

「へ、平然としてますね。まぁ、自分の場合は、美味しいので食べられますが、多分、他の人には出さない方が良いかもしれませんね。辛すぎて、普通の人だと味を、一切感じられ無いかもしれません。」

「え?そうなんですか?」

 雄貴の言葉に、シンシアはキョトンとする。

「はい。以前、巫山戯て取り寄せた、ブート・ジョロキア並の辛さですので、下手したら、人死にが出ます。」

 雄貴も雄貴で、頭のおかしい事をしているのだが、自覚の無いシンシアは、非常に危険であった。

「え!?そこまでなんですか!?確かに、ブート・ジョロキアは入れてますが!」

「マジで入れとるんかい!良くお父上は無事でしたね!呼吸困難で死にますよ!?絶対に人には出さんで下さい!」

「そ、そんなぁ…。」

 ガックリと項垂れる。彼女としては、一切の悪気は無いんだろうが、とんでもない事態を引き起こす予感がしてならない。
 と、ここで、雄貴の脳裏に、とあるイベントが浮かんでくる。

ーあぁ、そうか!確か、先輩と出会ったばっかりのイベントで、飯を食いに行ったら、超激辛メニューを頼んで、そうとは知らずに同じで品を頼んだ主人公君が、悶絶するやつ!ー

 漸く思い出したのだが、シンシアは激辛な食べ物が大好きなのだ。かと言って、味覚が壊れてるとか、そういう事はなく、単純に美味しいと感じられる辛さの限度が、おかしいだけである。

「ま、まあ、自分は大丈夫なので、何時でもお付き合いしますから。それで我慢して下さい。」

 苦笑いしながら言う。

「うぅ…。ありがとうございます…。」

 涙目のシンシアを見て、雄貴は思わず胸が高鳴ってしまう。

ーおぉ、殺人級に超可愛い!…って、そうじゃなくて、主人公君にぶつけなきゃならんってのに、俺が食事の約束を取り付けてどないすんねんや。ー

 落ち込んでるシンシアを、見てられなくて、つい自然に口から出てしまったが、攻略中に彼女を部屋に招いて、食事なんてしようものなら、主人公君に嫉妬されてしまう。

 万が一にも無いだろうが、こういう事は、主人公君とシンシアを、くっつけるのに失敗した場合に、夏休み以降にするべきだろう。

「ま、暫く自分は個人的に忙しくなる予定なので、付き合えるのは、夏休み明けくらいになりそうでけど。」

「え?何かあるんですか?」

「至極個人的な事です。気にしないで下さい。」

 目をぱちくりしているシンシアに、曖昧な返事をする。彼女から嫌われたい訳では無いので、こうやって言及しておけば、多少相手が出来なかった位で、二度と一緒に食事などが出来ないという事も無いだろう。

「にしても、めっちゃ辛いので、大分汗をかいちゃいました。」

 額に汗を滲ませながら、少し襟元を緩める。中等部の制服は、ワイシャツにカーディガン、ネクタイなのだが、既にカーディガンとネクタイは脱ぎ捨てソファに掛け、ワイシャツ1枚だったが、それでも耐えきれない程の暑さを感じる。

「そ、そんなにですか…。」

 中に薄手の黒いTシャツを着ているのだが、それすらも脱ぎ去りたいが、まさかシンシアの目の前で脱ぐ訳にもいかず、ボタンを3つ開けるだけに留める。

 誰得感が非常に強いが、こうでもしないとやってられないのだ。

「はい。でも美味しいので、箸が…スプーンが進みます。」

 胸元の襟を掴んで、パタパタとしながら食べる。

ー辛い!けど美味い!確か、辛い物は1ヶ月に何度かしか食べないらしいから、主人公君も頑張って欲しいもんだよ。ー

 好きな人の為であれば、例えどんな事でも我慢して欲しいものだと、雄貴は思う。主人公君は、確か一口目でダウンするだろうから、シンシアは悲しんでいた筈だ。

 この世界においても、同じ事を主人公君がしたら、ケツを蹴り上げて、辛い物好きな体質に調教してやろうと、決意する。

 そんな彼の胸元を見て、湯気が出そうな程、顔を赤くしてる者が居た。

「…あ、あれ?どうかしましたか?顔、真っ赤ですよ?」

「い、いえ!何でもありません!普段よりも、辛くし過ぎたかな〜と思ってただけです!」

「あ、これは普段よりも辛いんすね。普通じゃなくて良かったです。あんまり辛い物食べ過ぎると、体に良くないですから。」

「は、はい。程々にしないとですね。」

 チラチラと胸元に目をやりながらも、勢い良く、しかし上品にカレーを食べていくシンシア。

 そんな彼女が激辛カレーを完食したのは、それから約5分後の事であった。

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