バッドエンドは全力でぶち壊す!

血迷ったトモ

第13話 社会的に死ぬ寸前

「〜♪」

「…。」

 ご機嫌な様子で、エプロンを着け、キッチンに立つシンシアを後ろから見て、何ともいえない感情が湧いてくる。手伝おうとしたが、丁重にお断りされ、手持ち無沙汰でソファに腰掛け、思考の海に沈む。

 感動のあまり、良く考えずに家に上げてしまったが、シンシアを学校などで知る者がこの状況を見たら、驚愕のあまり、1時間は固まった後、嫉妬の炎を勢い良く燃え上がらせる事間違い無しである。

 勿論燃やされるのは、雄貴である。何なら、筆者も彼が燃やさr…何でも御座いません。

ーはぁ〜。もう少しこう、何と言うか、距離を空けた方が、色々とやりやすいんだけどなぁ。ー

 イレギュラー過ぎる雄貴の存在が、ストーリーにどんな悪影響を及ぼすのかと、今からもう気が重い。

ーヒロインズの一部とは、既に交流は始めてる。比較的、主人公君をぶつけやすいだろう。…そういやぁ、俺はあのノート、何処に置いたっけ?ー

 今後の展開の構想を、頭の中で反復していたところ、ふと、キャラやストーリー情報を書いた、例のノートの行方が気になった。

ー寝室の机で見て、それから?リビングの机の上に置いて…置きっぱなしやないか〜い!ー

 キッチンから丸見えの、机の上に放置してある事に気が付いた雄貴は、こっそりと立ち上がり、回収を試みる。

「そういえば雄貴君って…何をしてるんですか?」

「あ、いや、喉が乾いたなぁと。あは、あははは。」

 だがタイミング悪く、何かを聞こうとシンシアが後ろを向いてしまい、抜き足差し足忍び足で動いてるのを見られてしまう。

 雄貴は誤魔化し笑いを浮かべながら、そのまま冷蔵庫に向かって、ペットボトルのお茶を取り出す。

 525mlなので、直で口をつけて、勢い良く飲む。そして、そのまま自然にノートが乗ってる机に向かい、腰をかけた。

「てっきり、後ろから脅かしに来たのかと思いました。」

「まさか。料理中の人にそんな事はしませんよ。」

「そうでした。雄貴君はそんな、考え無しの人では無いですよね。」

 納得したシンシアは、再び調理に集中し始める。

「はい。」

 ノートを手繰り寄せるが、机の上にはティッシュボックスしか無いので、シンシアの視線から隠す事が出来無いことを悟った雄貴は、もう危険を冒してでも、寝室に隠すしか無いと決意した。

 またまた音を立てずに、立ち上がり、ノートを手に寝室へと向かう。

「あぁ、さっき聞き損ねた事なんですが、雄貴君は…そのノートは何ですか?」

 だがまたしてもタイミング悪く、シンシアが振り向いてしまう。

「ひぃっ!」

「え?何をそんなに驚いているのですか?」

 表紙は茶色の無地のノートなので、それを見られただけは、何ともないのだが、コソコソしてた雄貴は、過剰に反応してしまった。

「え?いや、何でもないですよ?このノートを、片付け忘れてたので、先輩にだらしがないと思われたら嫌なので、片付けようとしてただけです。」

「勉強に紙のノートを使っているのですか?」

「は、はい。何か紙媒体じゃないと、勉強した気にならないというか…。資源の無駄遣いってのは、理解してるんですが。」

 この世界では、ノートは全て端末に纏められ、紙媒体のノートを使ってる学生は、あんまり居ないのだ。それでも、一定以上の年齢層には、絶大な人気を誇る為、ノートその物は消える事は無かった。

 というより、絶大な人気を誇る層は、雄貴の元々の年齢の世代以上である為、彼がノートを好むのは自然であり、事実、通常の勉強の際も、ノートは必須な物となっていた。

 だからこそ、シンシアの勘違いに乗っかったのだ。

「何を勉強してたんですか?」

「高校の数学を少し。まぁ、二学期までの内容なんで、初歩中の初歩ですね。」

 これも、高校の二学期分まで勉強したのは本当である。
 ここから先、勉強よりもストーリーの調整に、全ての時間を費やしたい雄貴は、苦手な数学を中心に、かなり予習を進めていた。まぁ、一度は習った内容である為、比較的苦労はしなかった。

「もう勉強を始めてるだなんて、凄いですね。どこか分からない所はありますか?」

「い、いえ、大丈夫です。」

「そうですか?一応これでも、勉強は比較的得意なのですが。」

 シンシアは残念そうに言う。雄貴の記憶が確かなら、得意どころの話ではなく、全国模試でも上位数パーセントに余裕で入る学力だった筈だ。

「勉強については、別の機会にお願いしても良いですか?今日は、もう何もせずのんびりするつもりなので。」

「…何か、物凄く焦ってる感じがするのは、気の所為でしょうか?」

 シンシアから教わるというのも、捨て難くて、抗いきれない魅力を感じるが、お願いしたら、この場でノートを広げるハメになる。
 そこ思いからか、シンシアに怪しまれてしまった。

「き、気の所為ですよ。あはは…。」

 無理矢理に笑顔を貼っつけて、そのまま自分の部屋に逃げ込む。
 そんな彼が手に持つノートを、シンシアはじっと見詰めるのだった。

「あっぶねぇ。これ見られたら、マジで社会的に死ぬところだったわ。」

 ドアを閉め、そのまま寄っかかった雄貴は、肩で息をしながら、呆然と呟く。

 最初期の方の記入には、ただ客観的な、思い出せる限りの『ウラデリ』の設定を書き込んでいた。しかし、1年前にシンシアに出会って以来、若干・・ではあるが、主観の入ったコメントまで書き込んでしまい、とても人に見せられる物では無かった。特に当人には見せられない。

 呼吸を落ち着かせた雄貴は、本棚では無く、机の引き出しの奥の方に放り込み、一息つくのだった。

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