バッドエンドは全力でぶち壊す!
第10話 談話
「おぉ。これがコース料理ってやつですか。」
 豪勢なフランス料理を前に、目を輝かせる雄貴。今まで、こうした店に入った事すら無かったので、演技するまでも無く、素で喜んでいる。
「喜んでもらえて、頑張った甲斐ありました。」
「頑張った、ですか?」
 雄貴は目をぱちくりさせる。
「えぇ。後輩と夕食を食べに行くと、父に言ったんですが、その、はい。」
 苦笑いしながらも、その目には怒りの感情が浮かんでいるシンシア。
 それを見て、『あ、またか』と納得する。
「あ〜、なるほど。確かにここ個室ですし、親としては心配なんでしょう。そう怒っては、可哀想ですよ?」
 雄貴としては、精神年齢的には大人と言っても差し支えないので、何となくその気持ちは分かる。
「だって!お父様ったら、雄貴君の事を、そこら辺の浮ついた人達と、同じように見てるのよ!?」
 雄貴の落ち着いた物言いに、堪忍袋の緒が切れたのか、珍しく怒り始める。
 言葉遣いや態度から、大体の人は察せたと思うが、シンシアは超が付くお嬢様である。在日イギリス人であり、父親のアルフレッド・トリトンは由緒ある家柄出身だったが、若い頃に飛び出して来て、日本で複数企業を興し、いずれも大成功。
 そして、大の親馬鹿であり、娘の名前がCynthiaであるのに対し、誠実という意味合いの、Sincereという会社まで起業する程である。因みに業種は、ジュエリーやファッションである。
 結婚したら、結婚式で大号泣した挙句に、式場から誘拐するんじゃないかと、本気で思える程である。卒○の有名なワンシーンみたいだが、攫うのが父親では、観客から大ブーイングである。
「まぁまぁ。そりゃ、会った事の無い、どこの馬の骨とも知らん奴、信用なんて出来ませんよ。」
 一方で、この年頃の、親から縛られる人の気持ちも、十分に分かるので、諭すように宥める。
「…会いますか?」
「全力で拒否します!」
 どう見ても、本気の目で言ってきたので、雄貴は即答する。
 『娘さんと仲良くさせて頂いてます!』などと、挨拶しに行ったら、縊り殺されかねない。
「残念ですが、挨拶はまた今度という事で…。」
「挨拶!?しかも、また今度!?俺は結婚を約束した、恋人役でもさせられるんすか!?」
「…良いかもしれませんね。良い薬になるんじゃないでしょうか?」
「いやいやいや!そんな事したら、夕刊の一面に、『アルフレッド・トリトン氏、殺人容疑で逮捕』ってドデカく掲載されますよ!?」
  ボケたシンシアに、元気良くツッコミを入れる雄貴。暫くの間は、様々な調整に入らないといけないので、これが良い活力剤になりそうだった。
 この時ばかりは、何もかも忘れて、ゲームのキャラとしても、人としても好きなシンシアとのやり取りを、心から楽しむ。
「楽しそうにしてもらえて、とても嬉しいです。」
「…。まさか、最近の俺の様子に、気が付いてらしたんですか?」
 優しく包み込むような笑顔で言われ、雄貴は動きを止める。
「先輩ですから。」
「ははは。ホント、先輩には敵いませんね。高一とは思えません。」
 外では挨拶する程度で、周りに人目が無い時でも、軽い世間話や、シンシアからの愚痴ぐらいしか話さなかったのに、心情をほぼ正確に掴み取り、態々気を遣って、息抜き出来るように、個室のレストランを予約したのだ。
 しかも、こちらが断っても、そんなに気に病まないように、行先は了承するまで告げないという、驚異の徹底ぶりである。
 お陰で、雄貴のシンシアへの尊敬度が、100パーセントを突破しそうである。
ーこれ以上、惚れさせないで欲しいわ〜。ー
 正直なところ、雄貴は恋愛対象としてでは無く、シンシアを人間として、尊敬しまくってたのだが、少し恋愛感情が芽生えそうで怖い。
「あれ?何か雄貴君からの視線に、何か今までとは違うものを感じますね。普段通り、邪なものではありませんが。」
「鋭すぎません?気を遣って頂けて、感動してたんですよ。」
 あんまり鋭いのも困りものである。自身の内に芽生えかけた、小さな物を握り潰し、表面上は取り繕う。
「そ、そうなんですか?じゃあ、高等部に入ったら、校内でももう少し話して「ごめんなさい。」ですよね…。うん、分かってました。」
 にべもなく断る雄貴に、凄い悲しそうにする。
 全身から、仲良くなりたいオーラが出てくる人を、門前払いするのは心が痛いが、彼女には彼女なりの役割がある。非常に最低な事を言ってるのは自覚あるが、シンシアはシナリオ通り、主人公君と仲良くなり、恋仲になってもらう候補の1人である。
 自分なんかと仲良くなってもらっても、困るだけである。
 だがこんな様子を見せられては、心が非常に痛んだ。
「えっと、またこうして、食事とかに誘って頂けると、とても助かります。」
 微笑みながら言う。これから、キツい生活を強いられるだろうから、たまには自分自身へのご褒美として、息抜きタイムがあっても良いのでは無いだろうかと、少しシンシアに甘える事にしたのだ。
「え?良いのですか?」
「勿論ですよ、せんぱ…すみません。少し電話に出ます。」
 話の途中で、仕事用の端末が、着信を知らせる為に震え出したので、雄貴は眉を顰める。まだコースも始まったばかりで、折角楽しい時間を過ごしてたのに、これでは台無しである。
「はぁ…。はい、もしもし。」
 シンシアから電話をもらった時は違い、本当に嫌そうにため息をついた雄貴は、通話を始めるのだった。
 豪勢なフランス料理を前に、目を輝かせる雄貴。今まで、こうした店に入った事すら無かったので、演技するまでも無く、素で喜んでいる。
「喜んでもらえて、頑張った甲斐ありました。」
「頑張った、ですか?」
 雄貴は目をぱちくりさせる。
「えぇ。後輩と夕食を食べに行くと、父に言ったんですが、その、はい。」
 苦笑いしながらも、その目には怒りの感情が浮かんでいるシンシア。
 それを見て、『あ、またか』と納得する。
「あ〜、なるほど。確かにここ個室ですし、親としては心配なんでしょう。そう怒っては、可哀想ですよ?」
 雄貴としては、精神年齢的には大人と言っても差し支えないので、何となくその気持ちは分かる。
「だって!お父様ったら、雄貴君の事を、そこら辺の浮ついた人達と、同じように見てるのよ!?」
 雄貴の落ち着いた物言いに、堪忍袋の緒が切れたのか、珍しく怒り始める。
 言葉遣いや態度から、大体の人は察せたと思うが、シンシアは超が付くお嬢様である。在日イギリス人であり、父親のアルフレッド・トリトンは由緒ある家柄出身だったが、若い頃に飛び出して来て、日本で複数企業を興し、いずれも大成功。
 そして、大の親馬鹿であり、娘の名前がCynthiaであるのに対し、誠実という意味合いの、Sincereという会社まで起業する程である。因みに業種は、ジュエリーやファッションである。
 結婚したら、結婚式で大号泣した挙句に、式場から誘拐するんじゃないかと、本気で思える程である。卒○の有名なワンシーンみたいだが、攫うのが父親では、観客から大ブーイングである。
「まぁまぁ。そりゃ、会った事の無い、どこの馬の骨とも知らん奴、信用なんて出来ませんよ。」
 一方で、この年頃の、親から縛られる人の気持ちも、十分に分かるので、諭すように宥める。
「…会いますか?」
「全力で拒否します!」
 どう見ても、本気の目で言ってきたので、雄貴は即答する。
 『娘さんと仲良くさせて頂いてます!』などと、挨拶しに行ったら、縊り殺されかねない。
「残念ですが、挨拶はまた今度という事で…。」
「挨拶!?しかも、また今度!?俺は結婚を約束した、恋人役でもさせられるんすか!?」
「…良いかもしれませんね。良い薬になるんじゃないでしょうか?」
「いやいやいや!そんな事したら、夕刊の一面に、『アルフレッド・トリトン氏、殺人容疑で逮捕』ってドデカく掲載されますよ!?」
  ボケたシンシアに、元気良くツッコミを入れる雄貴。暫くの間は、様々な調整に入らないといけないので、これが良い活力剤になりそうだった。
 この時ばかりは、何もかも忘れて、ゲームのキャラとしても、人としても好きなシンシアとのやり取りを、心から楽しむ。
「楽しそうにしてもらえて、とても嬉しいです。」
「…。まさか、最近の俺の様子に、気が付いてらしたんですか?」
 優しく包み込むような笑顔で言われ、雄貴は動きを止める。
「先輩ですから。」
「ははは。ホント、先輩には敵いませんね。高一とは思えません。」
 外では挨拶する程度で、周りに人目が無い時でも、軽い世間話や、シンシアからの愚痴ぐらいしか話さなかったのに、心情をほぼ正確に掴み取り、態々気を遣って、息抜き出来るように、個室のレストランを予約したのだ。
 しかも、こちらが断っても、そんなに気に病まないように、行先は了承するまで告げないという、驚異の徹底ぶりである。
 お陰で、雄貴のシンシアへの尊敬度が、100パーセントを突破しそうである。
ーこれ以上、惚れさせないで欲しいわ〜。ー
 正直なところ、雄貴は恋愛対象としてでは無く、シンシアを人間として、尊敬しまくってたのだが、少し恋愛感情が芽生えそうで怖い。
「あれ?何か雄貴君からの視線に、何か今までとは違うものを感じますね。普段通り、邪なものではありませんが。」
「鋭すぎません?気を遣って頂けて、感動してたんですよ。」
 あんまり鋭いのも困りものである。自身の内に芽生えかけた、小さな物を握り潰し、表面上は取り繕う。
「そ、そうなんですか?じゃあ、高等部に入ったら、校内でももう少し話して「ごめんなさい。」ですよね…。うん、分かってました。」
 にべもなく断る雄貴に、凄い悲しそうにする。
 全身から、仲良くなりたいオーラが出てくる人を、門前払いするのは心が痛いが、彼女には彼女なりの役割がある。非常に最低な事を言ってるのは自覚あるが、シンシアはシナリオ通り、主人公君と仲良くなり、恋仲になってもらう候補の1人である。
 自分なんかと仲良くなってもらっても、困るだけである。
 だがこんな様子を見せられては、心が非常に痛んだ。
「えっと、またこうして、食事とかに誘って頂けると、とても助かります。」
 微笑みながら言う。これから、キツい生活を強いられるだろうから、たまには自分自身へのご褒美として、息抜きタイムがあっても良いのでは無いだろうかと、少しシンシアに甘える事にしたのだ。
「え?良いのですか?」
「勿論ですよ、せんぱ…すみません。少し電話に出ます。」
 話の途中で、仕事用の端末が、着信を知らせる為に震え出したので、雄貴は眉を顰める。まだコースも始まったばかりで、折角楽しい時間を過ごしてたのに、これでは台無しである。
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