バッドエンドは全力でぶち壊す!

血迷ったトモ

第1話 抓っても覚めない夢はある

 雄貴は、全身に感じる謎の重さの為、重い瞼を持ち上げる。

「う…ん?寝ちまったのか?」

 あの後、翔太と一緒に談笑しながら登校し、1限目の数学を、真面目に聞いていた筈だったが、どうやら眠りこけてしまったようで、音を立てないように、ゆっくりと顔を上げて、周囲の様子を確認する。

「あれ?ここは、一体?」

 周囲は、見慣れた教室では無く、よく分からない、生活感あふれる子供部屋になっていた。
 その子供部屋の、勉強机で眠りこけていたようで、目の前には小学生向けの教科書が、書棚に押し込まれていた。

「こりゃ一体、何のイタズラなんだ?」

 狐に包まれたような気分に陥りながら、雄貴は椅子から立ち上がる。
 すると、視界に何か違和感を感じる。

「うん?何か机が高くね?天井もアホほど高いし。」

 キョロキョロと辺りを見回すが、部屋にあるもの全てが大きいような気がしてならない。

 ここまで来ると、某推理漫画の、頭脳は大人な小学一年生の展開と、全く同じものが予想出来た。

「おいおいおいおいおい。そんな馬鹿な。有り得ねぇって。…ん?アソコに姿見があるな。」

 嫌な予感を払拭すべく、焦る足取りで姿見の前まで歩く。

 なるべく映ってる自身の姿を見ないようにしながら、姿見の前に立ち、一呼吸置いてから、意を決して現実を見る。

「…はははは。ははははははは…。って、笑えねぇぞこれ!」

 呆然とする雄貴の目の前には、少しふくよかな体型をした、小学生高学年ぐらいの男の子が居た。
 いや、語弊があった。居たのでは無く、現在の雄貴が、その男の子であった。

 見知らぬ顔が、引き攣った笑いを浮かべているのを見ながら、ほっぺをギュゥッと抓る。

「…痛い。けど、全然覚めねぇぞ、この夢!誰だよ!夢だと思うならほっぺを抓ってみろとか言ったやつ!」

 誰が言い出したのか、全く分からないが、抓っても目が覚めないことに、雄貴は激しく憤りを覚える。普段ならこんな事でキレたりはしないのだが、流石にこの状況では、正常な精神状態を保つ事が出来なかった。

「まずこの体型はなんやねん!俺は小中と、『骸骨』、『ガリガ○君』とか言われて過ごし、高校に入ってからは、『ちょい細マッチョ』で通してきたんだ!」

 プニプニのお腹の肉を掴み、酷く絶望感を味わう。自分のせいでは無いのに、焦燥感と罪悪感から、何としてでも、早急に体型を元のものへと近づけるべく、行動したかった。

 鏡に映る顔は、それなりに整ってるように見えるので、痩せればモテそうだ。どうせ直ぐに覚める夢だろうが、折角なんだから、イケメンの気分を味わってみたかった。

 ご都合主義で、さっさと時間経過して、イケメンの本領発揮出来るようなイベントが起こらないかと期待しつつ、不貞寝する為にベッドに向かう。

「…あ!」

 叫んだ時にはもう遅い。慣れない身体で、足の出し方をミスったのか、足が床を滑り、雄貴は勢い良く後ろ向きに勢い良くぶっ倒れるのだった。

 その際、後頭部をしこたま打ち、気絶するのだが、これが今後・・の生活に、プラスに働く事を、まだ雄貴は知らなかった。


「…ここは、一体?」

 痛む頭を押さえながら、のそりと起き上がる。目を細めながら、明るい陽の光が入ってくる部屋を見回すと、さっきまで居た子供部屋では無い事が分かった。

「ここは、病院か?…はっ!?まさか俺、何かの病気になって、学校でぶっ倒れたせいで、変な夢を見たのか!?」

 イケメンの身体は惜しい気がするが、慣れ親しんだ物の方が、余程良いので、嬉しそうに笑いながら自分の身体を見下ろす。

「…はは。まだ夢を見てるみたいだな?」

 見下ろした先は、薄い毛布がかかってるものの、ある程度体型が分かったのだが、明らかに自分の細い体型ではない。

 起き上がったベッドの上で、暫く呆然としていると、ノック音も無く部屋のドアが開けられる。

「…あ、ゆうちゃん!」

「え?」

 入って来た妙齢の、緩い雰囲気の、長い黒髪の女性は、起き上がってる雄貴を見て、驚いた顔で駆け寄ってくる。

 知らない女性なのに、いきなりあだ名で呼んできたものだから、目を瞬かせながら、まじまじと見つめてしまう。

「ゆうちゃん?どうしたの?頭、痛むの?」

「はい、確かに痛みますが、貴方はどちら様でしょうか?」

 心配そうにしている女性に、疑問をぶつける。初対面なのに、いきなりあだ名呼びとはこれ如何に。
 すると、女性は顔を青ざめさせながら、声を震わせる。

「ゆ、ゆうちゃん?私よ?ママよ?わ、分からないの!?」

 その瞬間、雄貴は自身の失敗に気が付く。この身体の主も、『ゆうちゃん』とあだ名される名前であるのだろう。
 それを失念したせいで、この身体の持ち主の母親に、この異常事態を気付かせてしまった。ショックのあまり、一瞬だけ頭が真っ白になるものの、仕方無く正直にこの身体の記憶が無いことを伝える。

「…はい。何が何だかさっぱりです。私は何者ですか?そしてこの状況は?」

「まさか頭を打った拍子に、記憶が無くなっちゃったの!?」

 本来なら、もっと穏便に、家族にも気付かせないように、こっそりと馴染んだ方が良かったのだが、もう今更遅いだろう。

 だがそれでも、驚愕する女性を見て、後悔してしまうのだった。

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