第08魔装救助部隊〜この命は誰かの為に〜
第5話
◇
夜。
ある高台に人影があった。
銀髪の少女だ。全身に傷を負い、満身創痍であるがサーチ魔法を発動させてSCの在り処を探している。夜風が傷を抉り、風が吹く度に少女は痛みに喘ぐ。しかしその甲斐は無くSCの反応は表示されない。
少女の名前はユーフェミア。母親よりSCの回収を命令され、それを忠実にこなそうとしている。だが第08魔装救助隊と交戦してしまったので、SCの回収速度が遅くなり、少女は実の母親より罰を受けていた。
「う、うう」
ユーフェミアは自分の掌を見る。そこには大きな切り傷がある。母親によってやられたものだ。だがユーフェミアは目を瞑り、サーチ魔法に集中するように独り言を繰り返す。
「私は大丈夫。うん、そうだよ、SCを集めて母さんに渡したら喜んでくれる。だから大丈夫。頑張れユーフェミア。頑張れ、頑張れ」
その時、ある少年の言葉が蘇った。
『母親が君を傷つけた! 暴力を振るったんだ! 家族である君に!』
事実だ。
『そして命令をした! SCを取って来いと! まるで使い捨ての消耗品を見るような目で見つめながら! なんて酷い母親だ!』
事実だ。
『君は虐待を受けている!』
「そんなことは無い! これは! 愛だ!! 駄目な私に母さんが発破をかけてくれているんだ……そうだよね、そうなんだ」
『殴られたんだろう、その痣は!』
「やめて……!」
耳を塞ぐ。だが声は少女の心の中で反響し続ける。
『骨が折れてしまうくらい強く!』
ズキンと折れた部位が痛みだす。まるでその言葉を証明するように主張し始める。
『何度も、何度も何度も何度も!』
「痛い。痛い。痛い。胸が痛いの……もうやめて」
『ゴミを見るような目つきで見下ろしながら!』
鼓動が大きく脈動し、そして瞳から大粒の滴が零れ落ちる。
それを止める者はいない。誰も少女を助けない。思わず少女は言った。
「どうして? どうしてそんなひどい事を言うの?」
記憶にある母親は優しい存在だった。
一緒にピクニックに行った思い出。花で作ったブレスレットを嬉しそうに受け取ってくれた優しい笑みが浮かぶ。最近の母親は何か特別な研究に没頭していて、冷たいけれどそれは一時的なものに過ぎない。
SCを集めて研究が終わればきっと元の優しい母さんに戻ってくれる。それだけがユーフェミアの希望だった。その希望を打ち砕くように言葉を叩きつけてきた少年の姿が浮かび出る。
「貴方は一体何者なの……?」
そういえば、と少女は対面した時を思い出す。
一番最初。
あの少年と一番最初に出会った時に、高らかに言っていた言葉があった。
「綺羅星銀河……第08魔装救助隊」
綺羅星銀河……それが相手の名前。
自分の希望を砕こうとする怖い人の名前。
倒すべき相手の名前。
そして警戒するべき相手の後ろ盾。
第08魔装救助隊。
その名前にも聞き覚えがあった。
この街の事故や災害が起きた時に出動する部隊だった筈だ。SCを探すとなれば必然的にぶつかる事になるだろう。されを覚悟しなければならない。何度もぶつかる事になるだろう。邪魔をしてくるに違いない。そう思うと体が震えた。
「大丈夫、私は強い」
少女は自分に言い聞かせるように何度もその言葉を繰り返す。
幼少期から近接格闘戦から魔法射撃戦、飛行魔法を使った空中機動戦を叩き込まれてきた。魔法を強くする精神の高め方や、不利な状況でも諦めず逆転を狙う姿勢を要求されてきた。その訓練に全て答えて此処にいる。だから自分は強い。負ける筈がない。
綺羅星銀河?
第08魔装救助隊?
それがどうしたというのだろう。戦闘が主目的ではない非戦闘員の集まりに劣るわけがない。
前回の一件でだって動揺したもののSCは確保し、敵の目を欺いて逃走に成功している。事実だけならば何も問題は無い。
問題は一切存在しない。
「なのにッ、どうしてこんなに……ッ」
言葉では形容できない激しい感情が少女の中で渦巻く。
動揺した精神に引き摺られて、魔法が乱れる。乱れた魔法はただの魔力となって霧散し宙に消えていった。
頼れるのは自分だけ。
母は研究で忙しく、SCを納品する日にしか会うことが出来ない。
現地住民にもこんな危険物を回収しているといったら、公的な機関に頼るべきだと言われて第08魔装救助隊がやってくるだろう。
彼らと正面から戦って勝てる自信はある。だがそれでも彼らは非戦闘部隊。対テロを想定した実戦部隊が相手となればその勝敗は分からない。少なくとも数で負けているだけユーフェミアの方が不利なのは確実だ。
「ああッ、苦しい。苦しい。どうして。なぜ」
悲しみで潤んだ瞳が段々と憎悪の色に染まっていく。
「全部、彼が原因。綺羅星銀河。綺羅星銀河。綺羅星銀河」
私がこんなに辛いのも。
SCが集まらないのも。
母さんが私を見てくれないのも。
全部。
全部全部。
全部全部全部。
全部全部全部全部。
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部――――!!
「貴方のせいなの」
あふれ出る憎悪の魔力が全身を活性化させて、傷口から血液が弾ける。
「綺羅星銀河……貴方を生きたままバラバラにしてぼろ雑巾のように捨てます」
夜。
ある高台に人影があった。
銀髪の少女だ。全身に傷を負い、満身創痍であるがサーチ魔法を発動させてSCの在り処を探している。夜風が傷を抉り、風が吹く度に少女は痛みに喘ぐ。しかしその甲斐は無くSCの反応は表示されない。
少女の名前はユーフェミア。母親よりSCの回収を命令され、それを忠実にこなそうとしている。だが第08魔装救助隊と交戦してしまったので、SCの回収速度が遅くなり、少女は実の母親より罰を受けていた。
「う、うう」
ユーフェミアは自分の掌を見る。そこには大きな切り傷がある。母親によってやられたものだ。だがユーフェミアは目を瞑り、サーチ魔法に集中するように独り言を繰り返す。
「私は大丈夫。うん、そうだよ、SCを集めて母さんに渡したら喜んでくれる。だから大丈夫。頑張れユーフェミア。頑張れ、頑張れ」
その時、ある少年の言葉が蘇った。
『母親が君を傷つけた! 暴力を振るったんだ! 家族である君に!』
事実だ。
『そして命令をした! SCを取って来いと! まるで使い捨ての消耗品を見るような目で見つめながら! なんて酷い母親だ!』
事実だ。
『君は虐待を受けている!』
「そんなことは無い! これは! 愛だ!! 駄目な私に母さんが発破をかけてくれているんだ……そうだよね、そうなんだ」
『殴られたんだろう、その痣は!』
「やめて……!」
耳を塞ぐ。だが声は少女の心の中で反響し続ける。
『骨が折れてしまうくらい強く!』
ズキンと折れた部位が痛みだす。まるでその言葉を証明するように主張し始める。
『何度も、何度も何度も何度も!』
「痛い。痛い。痛い。胸が痛いの……もうやめて」
『ゴミを見るような目つきで見下ろしながら!』
鼓動が大きく脈動し、そして瞳から大粒の滴が零れ落ちる。
それを止める者はいない。誰も少女を助けない。思わず少女は言った。
「どうして? どうしてそんなひどい事を言うの?」
記憶にある母親は優しい存在だった。
一緒にピクニックに行った思い出。花で作ったブレスレットを嬉しそうに受け取ってくれた優しい笑みが浮かぶ。最近の母親は何か特別な研究に没頭していて、冷たいけれどそれは一時的なものに過ぎない。
SCを集めて研究が終わればきっと元の優しい母さんに戻ってくれる。それだけがユーフェミアの希望だった。その希望を打ち砕くように言葉を叩きつけてきた少年の姿が浮かび出る。
「貴方は一体何者なの……?」
そういえば、と少女は対面した時を思い出す。
一番最初。
あの少年と一番最初に出会った時に、高らかに言っていた言葉があった。
「綺羅星銀河……第08魔装救助隊」
綺羅星銀河……それが相手の名前。
自分の希望を砕こうとする怖い人の名前。
倒すべき相手の名前。
そして警戒するべき相手の後ろ盾。
第08魔装救助隊。
その名前にも聞き覚えがあった。
この街の事故や災害が起きた時に出動する部隊だった筈だ。SCを探すとなれば必然的にぶつかる事になるだろう。されを覚悟しなければならない。何度もぶつかる事になるだろう。邪魔をしてくるに違いない。そう思うと体が震えた。
「大丈夫、私は強い」
少女は自分に言い聞かせるように何度もその言葉を繰り返す。
幼少期から近接格闘戦から魔法射撃戦、飛行魔法を使った空中機動戦を叩き込まれてきた。魔法を強くする精神の高め方や、不利な状況でも諦めず逆転を狙う姿勢を要求されてきた。その訓練に全て答えて此処にいる。だから自分は強い。負ける筈がない。
綺羅星銀河?
第08魔装救助隊?
それがどうしたというのだろう。戦闘が主目的ではない非戦闘員の集まりに劣るわけがない。
前回の一件でだって動揺したもののSCは確保し、敵の目を欺いて逃走に成功している。事実だけならば何も問題は無い。
問題は一切存在しない。
「なのにッ、どうしてこんなに……ッ」
言葉では形容できない激しい感情が少女の中で渦巻く。
動揺した精神に引き摺られて、魔法が乱れる。乱れた魔法はただの魔力となって霧散し宙に消えていった。
頼れるのは自分だけ。
母は研究で忙しく、SCを納品する日にしか会うことが出来ない。
現地住民にもこんな危険物を回収しているといったら、公的な機関に頼るべきだと言われて第08魔装救助隊がやってくるだろう。
彼らと正面から戦って勝てる自信はある。だがそれでも彼らは非戦闘部隊。対テロを想定した実戦部隊が相手となればその勝敗は分からない。少なくとも数で負けているだけユーフェミアの方が不利なのは確実だ。
「ああッ、苦しい。苦しい。どうして。なぜ」
悲しみで潤んだ瞳が段々と憎悪の色に染まっていく。
「全部、彼が原因。綺羅星銀河。綺羅星銀河。綺羅星銀河」
私がこんなに辛いのも。
SCが集まらないのも。
母さんが私を見てくれないのも。
全部。
全部全部。
全部全部全部。
全部全部全部全部。
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部――――!!
「貴方のせいなの」
あふれ出る憎悪の魔力が全身を活性化させて、傷口から血液が弾ける。
「綺羅星銀河……貴方を生きたままバラバラにしてぼろ雑巾のように捨てます」
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