配属先の先輩が超絶美人だけど冷酷すぎて引く

笑顔付き

第22話 戦い

管理者からの話が終わる頃には朝になっていた。
ウェルシェパードは言った。

「連続で申し訳ないけどパイオニアの次はユーフェミアだ。忘れてるといけないからもう一度説明すると、この盗聴されてる魔法通信で宣戦布告し、保有するSC全てをかけて勝負する。そして勝ったらユーフェミアを捕縛しSCを回収。尋問し本拠地を割り出したら強襲。負けたら逃走時の転移反応を辿って本拠地を見つける。以上」
「作戦に疑問はありませんが人選はどうするんですか?

その質問に花宮愛華が答えた。

「私が行きます」
「いや駄目だ、許可できない」
「何故です? 実力的には十分だと思いますが」
「殺してしまう可能性があるからだ。君は敵の排除は経験あっても手加減は未経験だ。だから今回は銀河くんに行ってもらう」
「わかりました。全力を尽くします」
「銀河くんは管理者から出力制限解除されても、それを蹴るほどの勇者だ。人を傷つけない事に関して筋金入り。だから彼に任せたい。彼ならば必ずユーフェミアを倒し、捕縛してくれるだろう。分かったかな」

確認すると全員が頷いた。それだけ銀河の行動には信頼が置かられているのだ。

「よし、じゃあ行動開始だ」

銀河は空気を大きく吸い込んだ。そして吐く。準備を整えて言う。

『僕は第08魔装救助部隊の綺羅星きらぼし銀河だ。SCをかけて勝負がしたい。こちらが持っている数は六つ全てを賭ける。場所はドラゴンと戦ったあの海上だ。そこで今日の九時に待つ』

現在は早朝五時なので四時間後だ。

「これで、来ますかね。ユーフェミアは」
「十中八九来るだろう。あれだけSCに固執していたんだ。ラフィーアがユーフェミアをよこさないわけがない」
「ですよね」

金剛征四郎の言葉に銀河も頷く。
銀河は拳を握る。これがユーフェミアを救う為の最終決戦。ここで負けたら心を救うことが出来ない気がした。真正面から打ち砕くことで言葉ではなく行動で見せるのだ。
ユーフェミアを救いたがっている男がいる事を。

「銀河さん少し良いですか?」

花宮愛華が問いかけてきた。

「この前病院でユーフェミアを治療した事あったこと、覚えていますか?」
「勿論」

銀河は覚えていた。念願だったユーフェミアを病院に連れて行って治療する事が出来たのだから。しかし、それが今更なんだというのだろう?

「その時の検査結果です」
「これは……」

銀河は絶句する。あまりにも酷い内容だったからだ。

「内臓の半数が活動停止……? 骨もボロボロ? 脳は萎縮してる。どうして生きていられるんだ?」
「恐らく魔法と薬物強化です。それとマジックアイテムで戦える最低限の活動ができるようにしてると推測できます」
「ドーピングのフルコースですね。そんなことをすれば彼女の寿命が」
「寿命なんてどうでも良いのでしょう、彼女の母親ラフィーアにとっては」

それは正しく的を射た答えだった。実の娘を虐待し、無理矢理戦わせるような人間が、寿命なんて気にする筈がなかった。使い捨ての道具にさえ思っていないだろう。そういう種類の人間だというのはこれまでの情報から分かっている。パイオニアの思想に心酔して死んでいった者達の事も覚えていないのだろう。

「救わなくては」
「モチベーション、上がりました?」
「上がりました」

時間はすぐに経った。その間、銀河は海上で待っていた。勿論ただ待つだけではない精神集中していた。空気を吸い込み、吐く。その動作をゆっくりと確実に行って全身に酸素を満たしていく。
魔法陣が展開され、ユーフェミアが現れる。

「来てくれて嬉しいよ、ユーフェミア」
「SCは持ってきましたか?」
「まぁ、そう急がずに。話をしよう」
「話?」
「そう、話だ。会話だよ、ユーフェミア。何でも一方的に、高圧的な態度を取れば要求が通るとは限らない」
「なら力づくで」
「できるのか? 制限解除すれば君を殺す事だってできる。あのドラゴンの腕を切った一撃見ただろう。あれが本当の実力だ」

わざとユーフェミアが激昂した話題を掘り返す。
これは銀河の作戦だった。わざと相手を激昂させるような話題を持ち出す事で冷静さを失わせて勝てるようにする戦略だ。銀河とユーフェミアの実力はほぼ同等。その中で情報を抜き取りつつ勝つ為に考えた。
パキリ、と力が籠る音がした。ユーフェミアの持つロングソードが震えている。

「本当の実力を、使えるなら初めから使っている筈です。でも使っていない。なら条件がある筈です。例えば市民に被害に出るような強力な個体が現れた時のみ、とか管理者……? さんとかに言われてるんじゃないですか?」

銀河、絶句。
全て読まれていた。

「私にそこまでの力はありません。だから貴方は全力を出せない。違いますか」
「……」

その通りだった。細かい部分は違うが概ねその通りだった。だからそれを認める事にした。否定しても何の意味もないと感じたからだ。それよりも気になることができた。

「その通りだ。僕は本気を出すことができない。管理者に制限されている。それに僕自身も、君の命を奪いかねない力を使うつもりはなかった。前回はドラゴンの腕を落とした時、君は激昂した。自分のことをなめていたのかと怒っていた。にも関わらず今日は怒らない。どんな心境の変化があったんだ?」
「私は気付いたんです。貴方は馬鹿だって」
「……えっ?」
「馬鹿で単細胞で」
「え? ええ?」
「お人好しで。優しい人だって」
「おおぉ、おお、そっか、ありがとう」
「だからこそ、貴方は私を殺さないように加減してくれる。それが貴方の敗因です!」

そう言ってユーフェミアは飛びかかってきた。ロングソードが振るわれる。それを魔力ブレードで迎え撃ち、拮抗状態へ持っていく。ユーフェミアは腹部を蹴り飛ばし、銀河から距離をとった。そしてその後、飛行魔力の推進力で一気に肉薄する。
鋭い突きが銀河の腹に突き刺さった。だがガードジャケットの防御で大事には至らない。だが重い一撃だったのは事実で、銀河は咳き込む。

「まさに速攻という感じですね、話をするつもりはないのか?」
「十分議論は尽くされたと思います。これ以上一体何を話すというのですか?」
「君の母親についてだ」

瞬間、ロングソードが鼻を掠めて通り過ぎる。ロングソードと魔力ブレードで何度か剣戟を繰り返し、距離をとったところでまた話し出す。

「君の母親、ラフィーア・エルトリックは大罪人だ。パイオニアを組織し、多くの人を殺した」
「うそ、パイオニアは慈善団体だって母さんだ」
「少なくともこちらではテロリストだ。悪辣な自爆特攻によって何人もの罪のない人々が命を落とした」
「そんな……」
「更に君も被害者の一人だ」

加害者だといわれると思ったのだろう。ユーフェミアは「被害者?」と首を傾げている。

「そう君も被害者だ。成人していない子供に最低限の栄養も与えず薬とマジックアイテムと魔法で成長させ、戦わせる。更に虐待まで行われている。これは立派な被害者だ。それでも君は母親の為に尽くすのか?」
「優しい時もありました。善い人であった時もあったんです、だから私はその時の母さんに戻ってほしい! その為に私は戦う!」

ユーフェミアは、飛行魔法で上空へ一気に飛翔した後、ロングソードのっ切っ先を銀河に向けて詠唱を開始した。

「魔法陣展開、多重展開、目標を固定、魔力収束開始、チャージ完了、誤差修正」

ユーフェミアが特大の魔法を使おうとしていることは一瞬で分かった。だが銀河はその場から動かず呼びかけ続けた。

「こちらへ来い! ユーフェミア! 君も罪を犯した。自分の意志でラフィーアの凶行に加担してしまっている。だからその罪を償った後で、平和な生活を送るんだ!」

銀河へ魔法通信が入る。

『管理者から綺羅星きらぼし銀河へ。超極大の魔力反応を検知。生命安全のためミッションの破棄を推奨、出力制限を解除した魔力ソード砲にてユーフェミアの殺害を推奨。貴方の死亡は管理者に取って大きな損失となります。自身の身の安全を最優先にしてくてださい』
「お断りします! そんな安全圏から呼びかけるだけでは彼女の心に届かない! 私はこの技を受けて、お返しに極大の魔法をぶつけます。それが私の、僕の覚悟です!!」

強引に通信を切る。
空を見上げれば、いくつもの魔法陣が重なり合い、星空のようになっていた。
そして。

「シルヴァリオ・ストライク砲撃版」

銀の奔流が銀河を飲み込んだ。

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