配属先の先輩が超絶美人だけど冷酷すぎて引く

笑顔付き

第10話 邂逅

ユーフェミアは母の元へ帰るために支度をしていた。
SCの受け渡しと、提示報告の為だ。身なりを整え、美味しいと噂のお菓子を買って転移魔法を発動させる。転移魔法は空間移動する魔法だ。それで母のいる場所へ帰還する。

(母さん、喜んでくれるかな)

甘いものが好きだった記憶はない。だからお菓子を選んだ事は失敗したか、と不安が過る。だけどこれは気持ちの問題だからと、不安を振り払って転移魔法に意識を集中させる。
魔法陣が光って、景色が一変する。長い廊下に、巨大な扉がある。
街で見かけた幸せそうな家族。優しかった過去の母親。罰と称して暴力を振るうようになった今の母親。全ての母親への感情が混ぜ込まれ、気分が悪くなる。だけどそれを押し堪えて、凛とした表情で扉をノックする。

「ユーフェミアです」
「入りなさい」

部屋には母親が座っていた。
顔にシワがよっていて、不機嫌そうなのがわかる。それで体が竦む。まだ治らない傷がズキリと痛み出す。

「それで、SCは?」
「あ、あの、これ。もし良かったら食べてください」

瞬間、魔法弾が飛んできてユーフェミアの頬を大きく叩いた。勢いでお菓子が吹き飛び、床に散乱してしまう。それを踏みつぶしながら歩いて、母親はユーフェミアの首を掴む。

「ねぇ、ねぇ、ねぇ、聞いていて? 私の可愛いユーフェミア。私はSCは、と聞いたの。下らない食べ物に用は無いの。そんなものを買う暇があるなら一つでも多くSCを集めなさい」
「ごめっ、ごめんなさい。母さん。SCは2個集めました」

ユーフェミアから強引に奪い取り、しかしその数の少なさに母親は怒りを爆発させる。

「2個!? たった2個!? 前のと合わせてたった3個よ!! SCが管理者とかいうやつが支配する地域に散らばってからもう一週間経ってるの! わかる!? 一週間で10個あるうちの3個しか集められない無能なの貴方は!!」
「ご、ごめんなさい」

母親の拳がユーフェミアの顔面を強打し、地面に叩きつける。そして蹴り上げて、小さな体は床を転がって壁にぶつかる。

「ごふ、がはっ。でもね、魔装救助隊っていう変な人達もSCを集めてて、それでも私頑張ったんだよ。母さんの悪口を言う人もいたけど、その人に罰を与えたし」
「そんな事はどうでも良いのよこの屑!!」

力の籠もった踵が、ユーフェミアの横腹に突き刺さる。

「あがっ!?」

堪らず呻き声を出すユーフェミア。それすらも不快だと言わんばかりの表情で、母親は魔力ブレードを展開させる。

「悪い子には、お仕置きしなきゃね」
「嫌、嫌、やめて。ごめんなさい。許して。お願いします。許して」

魔力ブレードがユーフェミアの手のひらを貫いた。血が溢れ出す。母親は死なない程度にユーフェミアを切り刻む。自分の憂さ晴らしの為に死なない程度に傷を与え続けた。数十分経つとそこは血だらけで、ユーフェミアは微かな呼吸しか出来なくなっていた。
母親は最後に無言で骨を折ると、蹴り飛ばして魔法陣まで飛ばした。

「さぁ、早くSCをとってきなさい」
「わかり、ました。行ってきます」

転移魔法が発動し、元の場所へ送り返される。どしゃり、と地面に叩きつけられて、傷口が悲鳴を上げた。ユーフェミアは血だらけのまま身体を引きずって壁に背中を預ける。
息をするだけで全身が悲鳴を上げていた。

「母さん……母さん……!」

蹲り、自分の母親の名前を呼ぶ。
それに応える者はいない。

(どうして、あんな風になっちゃったのかな)

昔の母親は優しかった。ユーフェミアを慈しみ、育ててくれていた。だがある時から突然冷たくなって、何かの研究に取り憑かれてしまった。SCもその研究に必要だからと回収を頼まれていた。
愛してもらった分を返したい、その一心でユーフェミアは立ち上がる。そしてまた幸せな関係になりたい。それ願ってユーフェミアは魔力を滾らせる。そしてまた、SCを探す為に動き始めた。傷だらけの体を動かして。

「君、大丈夫かい?」

善良な一般人だ。
この街で平和だ。最近はテロリストによって騒がしくなっているが、それも管理者によって鎮静に向かっている。だから道の端で傷だらけの女の子が倒れてたら、誰か一人は声をかけてくる。それをユーフェミアは何度か経験していた。この街に来た当初、SCや母親の暴行によって意識を失って倒れる事が多かったので、よく声をかけられていた。だからその対処法も熟知していた。

「すみません。心配かけてしまって。でもこれは管理者からのご命令なので、心配なさらないでください」
「そう、管理者の。小さいのによく頑張ってるね。なら僕はいくよ、気をつけてね」
「はい。ありがとうございます」

そう、この街の人間は管理者と名がつけば何でもまかりり通るのだ。そして自分以外にこれを悪用する人間はいないらしい。管理者を信じ切っているのだ。SCを集める際に、先に住民に拾われた事があった。その時も管理者に言われて集めていると言えば渡してくれた。

「例外は、あの人達くらいか」

管理者の命令という言葉は絶対の意味を持つ。だから出来るだけ使用しないようにしていたのだが、あの魔装救助隊というのもSCを集めていた。それも恐らく本当の管理者からの命令で。
だからこの手を使わなかった。

「あの……男ッ、母さんを侮辱して……!」

拳を握る。力んだ事で全身が痛むが、それを無理矢理抑え込む。

「これは愛なんだ。この傷は愛。だから母さんは愛してくれてる。だってこんなに傷をくれたんだから。だからSCを集めなきゃ。愛に見合うように。SC、SC、SC」

そう自分に自己暗示をかけていく。脳味噌がとろけそうになるほど何度も何度も呟いて母親は愛していると認知を書き換えていく。
そうして街を歩いていると、再び声がかけられた。

「君、少し待ってくれないか」
(また……)

若干鬱陶しいげに声がした方へ振り返る。そして心臓が震えた。
そこにいるのは怨敵である――。

「綺羅星、銀河――!!」
「名前を覚えていてくれたのか。それは嬉しい。もし良ければこれからお茶でもしないかい?」
「誰がっ!」

咄嗟にロングソードを引き抜いて銀河に斬りかかる。しかしそれは横から割り込んできた魔力ブレードによって防がれてしまう。視線を魔力ブレードの主に移すと、そこには長髪の美少女がいた。

「あまり、事を荒立てないで下さい。私達は今オフなんです。SCもありませんし、貴方と戦う理由は無いと思いますよ。というか、私がいるのに他の女の子をお茶に誘うとか失礼過ぎるでしょう。謝って? 私に謝って?」
「仰る通りです。すみません」
「なんなの、こいつら」

ロングソードを構えながら鋭い目つきで銀河を睨みつける。

「僕と話をしませんか? お嬢さん」
「お断りします」
「即答ですね。相手があるのに別の女の子に手を出そうとする銀河さんにはお似合いです」
「花宮さんちょっと黙っててください。どうして駄目なのかな? もし気に障る事を言ってしまったなら謝る。だから話をしてくれないかい?」
「私は貴方が嫌いです。貴方は母が酷い人だと言いました」

銀河の視線がユーフェミアの傷に移る。そして銀河は言った。

「……すまなかった。憶測でものを言ってしまった」

そして銀河は土下座した。頭を下げて、プライドなんかかなぐり捨てて謝った。

「そうです。この傷は母の愛です。だから酷い母親なんかじゃないです。私に愛をくれる良い母なんです」
「そうだね、その通りだ。そのお母さんについて色々知りたいんだ。話してもらえないかい?」

ぼそり、と花宮愛華が言う。

「虐待を愛だと思い込むとは闇が深いですね」
「同意します。なんとしても目を覚させてあげなくては。これでは彼女の命が危ない」

本人の意思のよりも人命救助を第一に。あまりにも傲慢な思考は、やはり第08魔装救助部隊にいる人間はどこか本質的におかしいのだ。

「もし、SCが見つかったら、その時は私に譲ってください。それで話をします」
「わかった。その条件を飲もう」
「スコアに関係しないので構いません」

嫌いな相手だとしてもSCが関わるとなればそれを飲み込む。それだけ執着してる事がわかる。その理由を銀河は知りたかった。

「よし、じゃあ行こうか! 病院へ!

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