配属先の先輩が超絶美人だけど冷酷すぎて引く

笑顔付き

第8話 逃走

パイオニアについてもっと聞き出そうとする愛華だったが、言葉を発する前に尋問室の扉が開いた。そこから治安維持部隊の面々が現れる。彼らの表情は男を見下しきったものだった。

「尋問は終わりだ。管理者から通達が来た。パイオニア関連の情報を全て収集しろってな。方法は問わないらしい。だから脳から吸い出して終わりだ」
「そんな……! いくら準テロリストだとしても人権がある筈です!」

自業自得と思う一方で守らなければいけない命であることに変わりはないと、銀河は抗議する。治安維持部隊の男は鬱陶しそうに頭をかく。

「脳から直接情報を吸い出すのは、対象が死亡してしまう事から法律で禁止されているはずです!」
「それは人権がある時の話だろ。さっき問い合わせた。テロリストのパイオニアは勿論、候補者の準テロリストであっても人権剥奪。何をしても良いから壊滅させろって管理者から命令が出てる。お前だって知ってるだろ。法律よりも管理者優先だ」
「しかし!」
「そう騒ぐな。こっちだって嫌な仕事だとは思ってるんだ、だけど、誰かがやらなくちゃいけない事だ。さぁ、連れていけ」

治安維持部隊は銀河が捕まえた男を連れて行こうとする。しかし男は抵抗して連れて行かれるのを拒む。

「やめろ! 嫌だ、嫌だ、嫌だ! 死にたくない!」
「面倒臭い真似をするなよ、なぁおい!! 大人しくしろ!」

治安維持部隊は暴力を振るって大人しくさせようとするが、殴れば殴るだけ、蹴れば蹴るだけ抵抗は激しくなっていった。そしてベキリと骨が折れる音がする。それがどっちのものかは言うまでもない。
複数対一人。
全力の暴力と、拘束された上での小さな抵抗。

「ああああああああ!! 近づくな! 死にたくない! 死にたくない!」
「なっ、コイツ!」

男がそう叫ぶと、全身から鋭利な刃物が突き出し、治安維持部隊を切り裂いた。そして拘束を破り、尋問室を破壊しながら男は逃走を開始した。

「大丈ですか!?」

銀河は慌てず近くの治安維持部隊に駆け寄り、治療を施しながら、同じく治療している愛華に言う。

「あの男、刃を出す前腹が光ってました。恐らくSCはその中に」
「これで疑問が解けましたね。SCと凶器は食べていたから見つからなかった。私は治安維持部隊の治療をします、銀河さんはSCを回収してください」
「わかりました。行きます!」

治療を愛華に引き継いで、逃げていった男を追う。
ガードジャケットに変身した後、飛行魔法で一気に加速する。廊下にある障害物を避けながら、全身凶器だらけになっている男を発見する。そしてすぐさま背後へついて魔力ブレードを叩き込む。
背中から強い衝撃を受けた男は、地面とキスした。

『管理者から全隊員に通達。現在、SCを所持した男が尋問室から逃走。これを暫定的にエネミー1ワンと呼称。そして魔装救助隊の綺羅星銀河は、魔装自衛隊到着するまでエネミー1の足止めを、同じく魔装救助隊の花宮愛華は負傷した者の治療を命令します』
「魔装自衛隊の到着時間は?」
『およそ180秒』
「カップラーメンが作れますね」
『作りますか?』
「作りません。皮肉です」
『では健闘を祈ります。貴方の活躍次第で負傷者の数が増減するのをお忘れなく』
「最後の最後になんでプレッシャーをかけていくんだ管理者は」

銀河は使える魔法を考える。
魔力ブレード、治療魔法、飛行魔法、魔法通信、ガードジャケットの五つだ。どれも災害救助用に最適化されており、戦闘には不向きな魔法だ。しかしだからといって戦闘ができないわけではない。

少なくとも魔力ブレードは相手の攻撃を捌くだけの武器になるし、ダメージだってガードジャケットが遮断してくれる。傷を負っても治療魔法で治せば良いし、救援は既に呼ばれている。

問題は、あと180秒間耐えれば良いだけだ。

「……降伏しろエネミー1。SCを隠し持ち、テロリストになろうとした。そして更に治安維持部隊を傷つけた罪は償わなければならない! だから!」
「死ぬのは嫌だ。パイオニアに入りたかったんだ。そうすれば妻とも! 子供に会えるんだ! 邪魔をするなぁあああ!!」

腕から生えた巨大な刃と、魔力ブレードが激突する。力任せに振るわれる凶刃は高威力で、ぶつかる度に吹き飛ばされそうになってしまう。ガギン! と音を立ててエネミー1の刃を弾き飛ばすが、その度に銀河は大きく体力を消耗する。
狂気を迸らせて叩きつけられる攻撃は、あらゆる損得を度外視した一撃となる。残りの体力や、体の事は考えず、ただ力任せに振るだけ。それ故に速く、鋭く、強い。

「妻と子供!? 君には妻と子供がいたのか!? 名前は!」
「リーンとフォリネ。だが死んだ。お前たちのせいで!」

一際強い一撃を受けて銀河が吹き飛ばされる。だが、そんな中でも冷静さを失わない。銀河――ひいては魔装救助部隊は人を殺さない。魔装治安維持部隊や魔装自衛隊と比べて、使える魔法や出力を大きく制限されている。だからエネミー1の言い分はおかしいと銀河は思う。

だがエネミー1が魔装救助部隊が人殺しだというなら、それは直接的な意味ではなく間接的な意味である事を示している。つまり、救助しなかったのだ。

花宮愛華が良い例だろう。スコアの為に助ける人は選ぶ、そう言ってはばらない。実際に銀河は目にして来たし、これからもそうしていくのだろう。そして、その結果がこれだ。
遺族による復讐。
一般人のテロリスト化現象。

だが優先順位をつけて助けなければ死人は増える。花宮愛華の行動は最善だ。

『管理者より綺羅星きらぼし銀河へ。エネミー1の殺害許可。魔力ブレードの出力制限を解放。迅速な殺害による事態の収束を要求』
綺羅星きらぼし銀河から管理者へ。クソ喰らえ」

銀河は乱暴に魔法通信を断った。
殺す気など毛頭なかったからだ。綺羅星きらぼし銀河ぎんがの使命は、生き方は救命にこそある。敵を倒す事ではない。だから、目の前で暴れている相手の命を奪う事は可能であっても選ばない。
気絶させて捕縛する。そう決めた。

「リミットはあと120秒。大丈夫、僕ならできる」

魔装自衛隊にも殺害許可は下りるだろう。彼らは管理者と市民に害をなす存在を彼らは許さない。最短、最速、最小の労力で事態を収束させる。だから時間が来て、魔装自衛隊が来れば、目の前の相手は殺される。それは避けたかった。それまでには無力化したかった。だから立ち向かう。

「絶対、助ける。必ず貴方を」
「何を言っている! 気でも狂ったのか! 殺そうして来てるのはお前じゃないか!」
「違う! 助けようとしてるんだ! 降伏してくれ! 僕は魔装救助隊! 貴方の命を救いたい!」
「戯言を!」

刃が振るわれる。その攻撃を紙一重で避けながら、銀河は相手の懐に体を滑り込ませる。そして横腹に魔力ブレードを叩きつけた。だが効かない。腹から生えた刃でガードされてしまった。

「防御が硬い!」
『推奨・魔力ブレードの出力制限解除。エネミー1の殺害』
「僕はそんな命令には従わない」

剣戟は激しさを増していく。刃と刃がぶつかりあって激しい火花を散らした。何度もぶつかりあっているうちに、ボロッと相手の刃が刃こぼれし始めた。銀河の更迭の意思が相手の狂気を折り始めた証だった。
勝てる――そう確信した。

「お前が誰でも救うっていうなら、どうして娘は助けてくれなかった!? 妻は!? ちくしょう、ちくしょぉぉおおおお!!」
「それについては同情するが、ここで騒ぎを起こして良い理由にはならないんだ! すまない! 本当にすまない!」

刃が射出され全方位に飛び散る。一つ一つは弱々しいが、砕けた破片は小さな刃となって周囲をズタズタに切り裂いていく。
銀河は逃げ遅れた人を庇って全身でそれを受け止める。彼の強い意思で出来たガードジャケットはエネミー1の攻撃によっても傷一つつかなかった。
銀河は言う。

「さぁ、逃げるんだ」
「あ、ありがとうございます!」

逃げるのを見送ってから銀河は魔力ブレードに神経を集中させる。そして鋭く、強く、しなやかに磨き上げる。空気との接触で激しい雷光が走る。

「魔力ブレード最大出力・手加減版」

銀河は駆け出す。飛行魔法で一気に加速して喉元へ魔力ブレードを叩きつける。だが、しかし、それは防御されてしまっていた。数十枚の刃で首を覆ってガードしたのだ。
力で押し通そうとするが、びくともしない。火力が圧倒的に足らなかった。

「死ね」

巨大な刃が生成される。避ける事も防御する事ができない。直撃する。ガードジャケットがあるので死なないだろうが、ある程度のダメージを負う覚悟はしなければならない。

「ぐぺっ」

情けない声が男から発せられた。
その時だった。一筋の光がエネミー1を貫き、爆殺した。真っ赤な血と臓器が周囲に撒き散らされる。目の前にいた銀河は全身でそれを被ってしまう。こびりついた臓器の先ほどまで生きていた事を証明する温もりに寒気がした。

「良く耐えた。綺羅星銀河救助隊員。魔装自衛隊、エネミー1の殺害を完了。任務完了だ。出力の低い装備でよく戦った。君が繋いだ180秒で多くの命が救われだろう。これは勲章ものだ」

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