異世界ハーレム☆美少女これくしょん

笑顔付き

第七話

 先手を取ったのは襲撃者であった。人間離れした早さの拳がミストに迫る。ミストは本能的にこの一撃を喰らったら死ぬと察した。雷のパワーアタッチメントを向けて、落雷を直撃させても速度が落ちる様子はない。即座にサムライブレード型溶断ブレードを引き抜く。
 ミストはその場から動くことはしない。サムライブレード型溶断ブレードを構えたまま、刃を拳に添える。
 ――弾く。
 まるで、剣で打ち合うかのような甲高い音が森に響く。サムライブレード型溶断ブレードを受けているにも関わらず、全く焼き切れる様子がなかった。

『まさか、溶断ブレードだったとはな! 拳が焼けちまったよ』
「なんで溶けてないんだよ。おかしいだろ」
 
 一撃が必殺の拳をいなす。自分より遙かに強大な敵と戦った事があるミストにとって力だけの攻撃は恐れるものでは無い。むしろ単調な攻撃は有り難かった。その拳の防御力を除けば、だが。
 
 弾きとは攻守一体。敵の攻撃を防ぎながら、相手のスタミナを削っていく。最初は押していたはずの襲撃者の顔に焦りが浮かぶ。
 思わず襲撃者が体を引くと、眼前にはサムライブレード型溶断ブレードがあった。
 
「零閃ゼロセン」
 
 体を大きく捻り、相手の懐に瞬時に入り込む。サムライブレードの基本的な技。プレイヤーが独自に考えられた最適行動切断技であった。近づいて斬る。それを突き詰めた技だ。
 
『ぐぅ!?』
 
 攻撃を喰らった襲撃者は大きく態勢を崩し地に膝をつく。ハッと顔を上げると視界が真っ黒に染まった。サムライブレード型溶断ブレードが目に突き刺さる。
 
『ぎゃああああああ!!』
「これで、終わりだ!」
 
 目を潰したところで、そのまま真っ二つに切り裂く。ジュワ! と肉の焼ける音と共に二つになって割れた。血は出ず、黒いモヤが吹き出していた。

『終わらないんだなぁ、これが!』

 なんと襲撃者の傷はすぐに癒えた。ミストを突き飛ばし、その隙に傷を癒やす。わずか数秒で視界が戻った襲撃者は、”死”を感じた。
 
「零閃編隊・五機」
 
 近づいて斬る。その五連撃が放たれた。今度は五つの斬撃が襲撃者を襲う。サムライブレード型溶断ブレードの残光が光り輝く。バラバラにされた襲撃者は地面に散らばった。だが、真っ二つにしても再生した前科がある。
 ミストは大きく飛び退き、雷のパワーアタッチメントを構えた。そしてトリガーを引いて落雷を呼び出す。ドン! ドン! ドン! と三度の雷鳴が轟き襲撃者の肉体を粉砕する。

「これでどうだ」
『まだだ!』
「ここから蘇るか、化物め!」
『フハハハハハハハハ!!』

 襲撃者の高らかな哄笑を開始の合図として、襲撃者は両手の掌を背後に向けて魔法を発動した。魔法陣が手に浮かび上がり、そこから衝撃波が生まれる。
 衝撃波に自身の身体を乗せて、加速し、瞬間的に間合いを詰めてくる。
 
『ヒィィィィヒヒヒヒヒヒ!!!』
「魔法ッ!? さっきまでは手を抜いてたのか!」

 高速で迫りくる中、襲撃者は右腕を大きく振りかぶった。
 と同時に、左腕をミストの眼前に突き出す。二発の爆音が鳴り響き閃光と爆煙、そして土煙が巻き起った。
 目の前で弾けた強烈な閃光により一瞬瞬きを余儀なくされ、その間にミストの周囲は土煙に覆われ視界は全くきかなくなっていた。
 
(右手で閃光魔法、左手で土煙を起こしたというわけか。多芸な)
 
 頭が狂ってそうな発言や言動に反して慎重で、繊細だ。いや、そう切り替えたと言うべきだろうか。本能のまま攻撃するだけでは勝てないと悟ったのだろう。

 この土煙に乗じて、ミストを攻撃するつもりのようだ。
 可能性としては、右で地面を叩き付けた際に上空へと飛び上がり、ほとんどの人間の死角である直上からの攻撃――とミストの脳内は高速で予測していく。
 
『と、思うじゃん?』
 
 土煙を割りながら三時方向から、襲撃者が飛び込んできた。今度こそ本命だと言わんばかりに先ほどよりも右を大きく振りかぶっている。
 右手を叩き付けた時に角度をつけていた、のだ。衝撃波を加速器と運用したり、閃光魔法と併用したりなど、理性的な戦いが目立つ。
 ミストは思わず感心してしまった。
 だが。
 
「伊達にゲームやり込んでないんだよ!!」
 
 一歩だけバックステップを踏み、襲撃者の渾身の右ストレートパンチを回避する。
 全力の一撃を空ぶった襲撃者は、驚愕の表情を浮かべていた。
 
『んなッ!? なんっ……』
 
 作戦としては悪くない。視界を奪うのも、思考を誘導するのも、よく考えられていた。だが、所詮即席にしてはである。
 冷静にみれば、あまりにも荒が目立つ。
 襲撃者自身の着地音に、本命の攻撃を当てるための力を溜めて地面を蹴る音、土煙のゆらぎ。どれか一つでも十分なのに、いくつも場所を特定する要素が多く存在した。つまり、どこから攻撃を仕掛けてくるのか丸わかりだったのである。
 視覚を奪えば勝ちと思っていたのか、むしろ土煙が舞っていた方がわかりやすいくらいだった。
 そして何よりも。
 
「目くらましをしているのに奇声をあげて自分の位置を教えるのはゲームプレイの名残か? ミスター!」
 
 襲撃者は『プレイヤー』とよく口にしていた。それはつまり、自分自身もプレイヤーである自覚がある証拠ではないのか。ゲームなら奇声を上げたところで探知されない事が多々ある。探知をされても、攻撃とほぼ同時という事が殆どだ。しかしプレイヤー同士の戦いは違う。
 声を上げれば対応するし、音がすれば方向がわかる。

『ああああああ!!』
「零閃編隊・十機」
 
 襟首をぐいと引き、そのまま地面へと叩き付け、立ち上がれないように左手で首元を押さえつけた。そして間近でサムライブレード型溶断ブレード渾身の技を振るう。十の斬撃が襲撃者の体を粉々に粉砕した。

「まだ、だ」

 再び距離を取り、雷のパワーアタッチメントで感電させる。何度も雷鳴が轟き黒く変色して肉片が見えない程潰した。
 ミストは息を切らせながら肉片を見つめる。心の中で「もうやめてくれ」と願いながら。しかしそれは裏切られる。黒いもやになったかと思うと一瞬で再生して人型に戻った。

「勘弁してくれ」
『フハハハハハ、まだ負けんぞ、まだ』
「いいえ、終わりよ」

 突然、第三者の声がした。女性の声だ。紫髪が見える。
 サリアだ。

「何故、サリアがここに」

 疑問がミストの頭の中を駆け巡る。いや、いるのはおかしくない。だが何故このタイミングで現れるのかが謎だった。それに終わり、という言葉にも違和感があった。
 一体、彼女は何を知っている?

『どういう意味だ』
「こういうことです」

 サリアが魔法を発動させて放った。魔力弾の魔法だ。襲撃者は避けようとするが、その弾丸は追尾して襲撃者にヒットする。その瞬間だった。着弾点を中心に襲撃者の体がひび割れ始めた。

『な、なんだとォー!?』
「これは貴方のような侵入者を排除する魔法です。私達は貴方達のような存在を滅ぼす為に存在している」
『くっ、身体が解けて、力が、抜けていく。強制送還されていく。だがまた現れるぞ、ミスト。お前を殺す為に』
「無理です。今の弾丸で貴方の構成情報は覚えました。貴方はこの世界に二度と現れる事はできません。BANされたのよ、貴方は」
『ク、ソぉ』

 BANとは追放するという意味だ。世界から追放する、という魔法は襲撃者には効果覿面で、もがき苦しみながら、黒衣の襲撃者は消えていった。
 後に残るのはサリアとミストだけ。
 ミストはサリアに言った。

「すまない、状況を説明してくれ」
「はい。勿論です。静音の結界も解除されたようですし、宿に戻りましょう」

 サリアに連れられてミストは宿に戻った。

「説明して欲しい事は山ほどあるんだが、まずはあの襲撃者について知っているのか?」
「うん、知ってるよ。あれはダークライスといって」
「黒い米?」
「間違えた、ダークレイス。闇霊と呼ばれる存在。魔王の配下。殺す事に魂を捧げた狂信者。魔界からの刺客」
「あー、ダークレイスか。知ってるわ。めちゃくちゃ知ってるわ」

 ミストは思い当たる節があった。
 ゲーム時代では異空間の殺し合いと並んで人気だったコンテンツだ。魔界にいる魔王の配下となってレベルが近いもの同士をマッチングして戦わせる。それを侵入と呼んでいた。

 わいわい平和なパーティを狙って、この世界に侵入して、殺戮の限りを尽くすダークレイスは嫌われ者だったが、その報酬とダークなフレイバーテキストに惹かれ、行う者が絶えなかった。荒れる原因にもなったが、それも含めてゲームの世界観として受け入れられていた。

「ダークレイスはプレイヤーを殺す。私達はそれを止める為に造られたんです」
「造られた、つまりサリアはデザインベイビーやホムンクルスって事か?」
「惜しいですね。アンドロイドです」
「アンドロイド族か」

 アンドロイド族はマザーアンドロイドと呼ばれるものから生み出される種族だ。人間種の上位互換でゲーム時代は多くの者が選んでいた。デメリットとして定期的に魔力充電が必要というのがあった。しかしそれを上回る強さが存在した。

「それで、どうしてアンドロイドのサリアは俺を助けてくれたんだ?」
「それが使命だからです。ダークレイスを狩り殺せ、と。それにミストさんには個人的な恩があったから」
「恩?」
「初めての異空間での戦いの時に教えてくれたじゃないですか。あれは本当に助かりました。ありがとうございます。この辺りでダークレイスが出現したのは分かっていたけど、なかなか見つけられなくて困っていたところに、更によく分からない状況に陥ったものだから、不安だったの」
「ああ、あれが恩に繋がるのか。もしかして始めてこの辺りでダークレイスが出現したのって、総合商店街道が襲撃された頃?」
「ええ! その通り! もしかして襲われてた?」
「襲われてましたねぇ!」

 思い出すのは、総合商店街道で大剣を使っていた黒衣の襲撃者だ。ゲラルドと共闘して引かせたシーンだ。

「その時に駆けつけられなくてごめん」
「いや、いいよ。しかし、なるほどね。そういう事だったのか。何というか、災難だな。メインのダークレイス狩りの他に異空間のミッションに巻き込まれるんなんて」
「そだね。もうため息つきたくなっちゃうよ」

 サリアの視点から考える。
 ①ダークレイス討滅という使命の為に、出現した総合商店街道にやってくる。
 ②そしたら異空間のミッションに巻き込まれ、ミストの助言を受けてエルフの里を焼いた。
 ③ミッション後、宿にやってきて異空間のミッションの説明をミストから受けた。
 ④ミストとアイリスを探しにいってミッションの招集を受ける。
 ⑤『人類戦線第一支部サンドゥルク』で人外を壊滅させ、アイリスの両親の死に立ち会った。
 ⑥そしてミストと会話して、やっとダークレイスと立ち会う。

(遠回りし過ぎだな!?)

 サリアと情報交換していると、朝日が登ってきた。するとミストは立ち上がる。

「今日はこの辺で良いだろう。ダークレイス狩り、頑張ってくれ」
「うん、ありがとね」
「ああ、そうだ。この世界にプレイヤーは何人くらいいるんだ?」
「うーん、貴方を含めて五人くらいかな」
「五人か。その中で一番強いのは誰だ」
「あ。男の子だね。強さを気にするなんて」
「気になるさ。自分の同じ立場がいるなら、その中で誰だって一番になりたいのが人間ってものだろう」
「ミストさんが一番強いよ」
「それをかけて満足だ。もし何かあったら助けにいくよ」
「ミストさんも何かあったら助けを呼んでね」

 二人は拳をトン、と合わせた。

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