話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

非公開日記

文戸玲

夫の非公開日記⑤~正しく生きる。それが円満の秘訣~

 
令和二年 九月三日 木曜日
 
 正しく生きなければならない。正しく生きないと人の信用を得ることはできないし,仮に悪事がばれないにしても,悪事を働いたことは自分が一番見ているのだ。そのことを肝に銘じて,絶対に背徳感を感じる行動をとらないようにしている。
 今日は自分を試される日がきた。人の秘密や表に出ないものを見てしまうことほどそそられることはないが,今日は見つけてしまったのだ。そう,妻の日記を。
 昔読んだ自己啓発書の一節がどうしても思い出せず(それもお金が貯まる人がしている生活習慣とかいうしょうもないものだ)普段は綺麗に整頓されただけのものをひたすら漁っていた。すると,旅行ガイドブックの間に明らかに本ではない薄手のノートが出てきた。表紙には何も書かれていないがそれがノートであることは一目で分かった。自分が書いたものか,だとしたらかつての自分はどんなことを残していたのかと急に興味がわいてきて,表紙をめくるとそこには

妻の非公開日記

と妻の性格を表したような几帳面な字で記されていた。考えてみれば日記を書くような習慣なんてなかったし,義務教育を終えて学校を卒業してからはノートを買うこともなかったのだから,無料プレゼントででも貰わない限りノートなんて手にしないし,こんなに手触りの良いノートを持っているはずもない。しかし,人の日記と分かっていて開いたわけではないのだから私は悪くはない。問題はこの後だ。非常に興味深いタイトルのこの日記を拝見させてもらいたい気持ちもあるが,それは日本男児の生き方としてどうなのかというもともとあったのかどこから湧いてきたのかも分からない正義感のようなものが謎に働いている。
 悩んだ末,これはプライバシーの詰まった形態のようなものだという結論にたどり着いた。相手の携帯電話を覗き見てよいことなど一つもない。そのようなことをして破綻したカップルを何組も見てきたが,滑稽なものだ。片方は自らの行いを極悪非道な人にあらずといった様子で糾弾され,片方は人権侵害,土足で人の心をへ入り込むようなものだと人権問題へと発展する始末だ。非常に興味深いところではあるが,私の選択はいつも正しい。だって今日までこの妻とともに生活することが出来ているのだから。
 私はそっと元の位置に妻の日記を戻した。

「非公開日記」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「エッセイ」の人気作品

コメント

コメントを書く