僕と彼女の小説ライフ

ヌマサン

第8話 晩ご飯

「ジャンルは学園もの。それじゃあ、次はプロットを作っていきましょう」

「えっと、プロット……って?」

「プロットというのは、物語の筋……みたいなもののことです。まずは大雑把にどんな感じにするのかを何でもいいので書き出してみてください」

僕は上崎さんに言われるままに書きたい話をノートに書きだした。書き出すと言ってもそんなにすんなり書けるものでもない。

「2つ……ですか」

「これしか学校のイベントって思い出せないや」

ノートには“下校”と“登校”しか書いていない。

「滝平君……」

僕は上崎さんがプルプルと体を小刻みに震わせているのを見て、直感的にヤバいと悟った。

「滝平君!これはさすがにヒドイ!」

……言われてしまった。寂しい学校生活を送ってきた僕の中で学校のイベントと言えば、これくらいなものだ。

何せ、学校に行って帰る。それだけだ。

「他にも結構あるじゃないですか!」

そう言って、上崎さんはどんどん書き出していく。

入学式、卒業式、体育祭、夏休み、文化祭、体力測定、修学旅行、演劇鑑賞、球技大会、職場体験、始業式、終業式、カルタ大会、合唱コンクール……

上崎さんはどんどん学校行事を書き出していく。スゴイな……。

「後はクラブ活動とか委員会活動とかもありますし……学校行事ではないですけどバイトとかもアリだと思いますよ」

僕は2つしか出てこなかったが、上崎さんはあっさりと17個もイベントを出してしまった。

「上崎さん、こんなに思いつくなんて凄いね。尊敬するよ」

「そう言われると、何だか煽られてる気分にしかならないのですけど……!」

「ご、ごめんなさい……」

その後、僕は上崎さんの家で書き出したイベントを並べて大雑把なプロットが出来上がった。

「やっと、完成しましたね……」

「そうだね……」

僕はチラリと窓の外を見てみると、もうすでに陽が落ちて暗くなっている。

「もうすっかり暗くなっちゃったね」

「そうですね……。あの、滝平君。駅まで送りますね」

上崎さんはそう言って立ち上がった。

「あ、大丈夫だよ!もう暗いし、僕を送った後は上崎さん一人で夜道を歩くのは危ないだろうから!」

「でも……」

上崎さんはそこまで言って押し黙った。

「それじゃあ、上崎さん。僕は帰るよ」

僕はそう言って、帰ろうとするとスマホの着信音が鳴った。誰かと思って見れば加依姉さんだった。

「あ、もしもし姉さん?」

『あ、幸人?今日、私友達の家で勉強会して、その子の家に泊まっていくから。幸人、晩ご飯とか作ってくれてたんならごめん』

「ううん、まだ作ってないから大丈夫だよ。姉さんも気を付けてね。うん、うん、はーい。それじゃあ、また明日」

僕はそれを最後に通話を切った。

「今の、お姉さんからですか?」

「うん、友達の家に泊まるって」

「そうなんですね。滝平君、お姉さんがいらっしゃったんですね……」

上崎さんはそう言って悲しげな表情を浮かべていた。何か家族間で問題でも抱えているんだろうか?気にはなったが、詮索するのは良くないと思い、何も聞かなかった。

「上崎さん、それじゃあ僕は帰るね」

僕はカバンを持って、帰ろうとドアを半分ほど開けた。

「滝平君、待ってください!」

そのタイミングで上崎さんに呼び止められた。

「……上崎さん?どうかしたの?」

僕がそう聞き返しても上崎さんは俯いて人差し指をツンツンと突き合わせるだけで、黙ったままだ。僕は上崎さんが口を開くまで待つことにした。

しかし、そんなに待つことは無かった。

「あの、滝平君が良かったら……なんですけど……」

僕はその次の言葉が紡がれるのを待つ。

「い、一緒に晩ご飯……食べませんか?」

恥ずかしそうに顔を赤らめている上崎さんを見て、断らない理由がなかった。恥ずかしいのを我慢して誘ってくれたのだ。断るのは失礼だ。

「うん、それじゃあ、一緒に食べようか。……晩ご飯」

僕がそう言うと上崎さんは嬉しかったのだろうか、瞳をキラキラと輝かせていた。

こうして、僕は上崎さんと晩ご飯を食べることになった。

「それじゃあ、上崎さん。晩ご飯は何食べる?」

「あ、滝平君!私が作りますから!」

「え、でも……」

「私が作りますから!」

どちらが作るかで揉めたのだが、結果的に僕は上崎さんに押し切られた形に。

「それじゃあ、滝平君。何か食べたいものはありますか?」

「……魚、かな?」

「魚ですね!近くにスーパーがあるので買ってきますね!」

僕はそう言って買い物に行こうとする上崎さんの二の腕を掴んで止めた。

「あ、あの……滝平君?」

「僕も行くよ、買い物。こんな夜に女の子を一人で歩かせるわけにはいかないからね」

……そう僕は幼いころから姉さんに言い聞かされてきた。それに、家で晩ご飯を食べさせてもらうのだ。何もしないのも何か嫌だ。せめて荷物くらいは持ってあげないと。

「それじゃあ買い物、一緒に行きましょうか」

「うん、そうだね」

こうして僕と上崎さんは買い物に向かった。

「上崎さん、魚料理何にするの?」

「鮭ときのこのホイル焼き……かな?」

……おー美味しそう。でも、食べたことないからどんな料理か想像もつかないな……。

上崎さんは生鮭を2切れとしめじとえのきを1袋ずつ買った。これで値段は大体900円くらいになった。

「上崎さん、お金出すよ」

「いえ、気にしないでください。わがままを言って残ってもらってるのは私の方ですから」

そう言って、上崎さんは荷物も持たせてくれないし、お金も受け取ってもらえなかった。

これじゃあ、僕がついてきた意味は何もない。何か出来ることはないだろうか?

「それじゃあ、滝平君はそこで座って待っててくださいね」

家に着くなり、上崎さんはそう言い残して台所で料理をしていた。

「上崎さん、お風呂洗わせてもらっていいかな?」

「え、お風呂を洗ってくれるんですか!?」

上崎さんは驚いた様子だが、僕も言ってから後悔した。いきなり人の家の風呂を掃除させてください何て完全に変な人じゃないか!?

「それじゃあ、申し訳ないですけど、風呂洗いお願いしてもいいですか?」

「分かった。それじゃあ、風呂洗いやっておくよ。料理が出来たら呼んでくれれば」

こうして、僕は上崎さんのお風呂を洗った。洗い終えて風呂場を出ると、ちょうど上崎さんがちゃぶ台に配膳をしてくれていた。

僕はきちんと手も洗ってからちゃぶ台の前に座った。ちゃぶ台の上には鮭ときのこのホイル焼きと白米が置かれていた。

「上崎さん、いつの間にお米を?」

「この時間に炊けるようにセットしてたんですよ。でも、私一人分しかないので少ないかもしれませんが」

上崎さん、段取り良いよね……。僕にはこんなに段取りよくやれないや。

「上崎さん、将来いいお嫁さんになるよね」

――ゴトン

何かが鈍い音を立てて落ちた音がした。

顔を上げると上崎さんがご飯の入った茶碗をちゃぶ台の上に落としていたのだ。

「私が……良いお嫁さん……」

上崎さんはその後、ずっと顔を赤らめていたままだった。

僕は上崎さんに皿洗いくらいはやらせてほしいと頼み、皿洗いだけをした。

「それじゃあ、僕は家に帰るから」

「あ、うん、それじゃあ気を付けてね」

「気を付けるよ。それじゃあ、上崎さん。また明日ね。鮭のホイル焼きごちそうさま。美味しかったよ」

こうして僕はようやく家路に着くことが出来たのだった。

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