僕と彼女の小説ライフ

ヌマサン

第1話 何だか小説を書きたくなりました。

僕は滝平幸人たきひらゆきと。どこにでもいる高校一年の帰宅部だ。

今日は4月10日、月曜日。今日は高校の入学式だ。

僕は今、満開の桜並木の間を通って校門へと向かっている。

周囲は友達同士で内輪ネタで盛り上がりながら、僕の横を元気に走り抜けていく。

別に一人で登校しているからと言って、友達がいない訳ではない。

俺の友達……木沢彰二きざわしょうじは遅刻の常習犯だ。だから、一緒に登校すれば僕まで遅刻してしまう。それだけはご免だ。

校門を抜けると右手に駐輪場。そして、正面には鉄筋コンクリート三階建て校舎があった。

そして、昇降口の前辺りに大勢の人が屯していた。理由はクラス分けの一覧が貼り出されている。

そんなただの紙を見て、あるものは友人と同じクラスになれたことを喜び、またある者は友人と別のクラスになり落ち込む。どうせ、休憩時間にでも会えるだろうに。

僕はそんな人たちを尻目に一覧表を見る。人込みで一覧表に近づくことが出来ないが、僕には何の問題もない。視力は両目ともにAだ。

「えーと、僕のクラスは……」

視線を3行あるうちの一番右の1組の欄から順番に目で追っていく。ちなみに「た」は大体真ん中より少し上くらいにあることがほとんどだ。

「……あった!」

2組
14.
15.……
16.……
17.滝平幸人
18.……
19.……
20.

どうやら2組になるらしい。出席番号は17番。

「キャッ!」

クラスと出席番号が分かったので、靴を履き替えるために下駄箱へ向かおうとすると、後ろからやってきた人たちに押し出されてしまい、誰かにぶつかってしまった。

「あ、あの、大丈夫ですか?」

僕はぶつかってしまった人に声をかけた。

ぶつかった時の声から女子だと思う。……っていうか、女子に話しかけるのって久々だな。

その女子は力を籠めたら折れてしまいそうな華奢な体躯に墨色の髪をカチューシャ編みにしている。

「あ、だ、大丈夫です……!ごめんなさい……!」

そう言って、その女子は目も合わせようとはせず、なぜか僕に謝って下駄箱の方へと走り去ってしまった。

僕はすぐに追いかけようとしたけど、人混みに遮られたせいで追いかけることは出来なかった。

どうしようもないことを考えるのも無駄だと判断した僕は下駄箱へと足を向けるとふと視界の端に何かが映った。

何かと思って、落ちているものを見てみるとノートだ。もしかして、さっきの女子が僕とぶつかった拍子に落としたモノなんだろうか?

もしそうなんだとしたら、僕が渡しに行くべきだろう。

ノートの表紙には小さく、丁寧な字で「上崎絢乃」と名前が書いてあった。

「"うえさき”……いや、"かみさき”?何て読むんだろう?あや……あやの?」

とりあえず、"うえさき”にせよ“かみさき”にせよ、出席番号は上の方だろう。

僕はもう一度、クラス分けの一覧をノートの名前と見比べながら、「上崎絢乃」という名前を探した。

そして、見つけた。

2組
1.……
2.……
3.上崎絢乃
4.……
5.……
6.

「2組の3番……って、同じクラスじゃないか!」

それと、前後があ行だから上崎かみさきさんじゃなくて上崎うえさきさんだな。

僕はとりあえず、急ぎ足で教室へと向かった。

ちなみに教室の並びは昇降口に近い側の教室から1組、2組、3組の順番だ。つまり、2組は真ん中だ。

「ここか……」

僕はドアを開けて教室へと入った。黒板には座席表が貼られていた。

クラスは全員で36人。座席は縦6×横6という配列になっている。

そして、教室の奥……窓際の一番前の席から出席番号順になっている。

……ということは窓際の列の前から三番目か。

でも、その席を見てもあの上崎さんはいなかった。

「カバンは机の上に置きっぱなしだ。……ということはどこかに行ったのかな?」

僕はそう思って自分の席へと向かった。

僕の席は窓側の列から3番目、後ろから2番目だった。なぜ一番後ろじゃなかったのかと思いながらも僕は着席した。

「後ろなら授業中も心安らかに過ごせるというものを……」

僕はとりあえず、カバンに上崎さんのノートを直した。

しかし、上崎さんが自分の席に戻ってきたのは朝のHRの直前だった。

すぐに渡せばいけるかと思ったが、先生が入ってきたため、それは叶わなかった。

HR中、僕はいつ上崎さんにノート返すかで頭がいっぱいだった。

HRが終了して、すぐに僕たちは入学式へと向かった。

春の風が吹き抜ける渡り廊下を通って体育館に入ると大勢の生徒がいた。

僕たち生徒は出席番号順に整列をして、ただ長いだけの校長の話を聞き、教室へと戻った。

教室に戻った僕たちは先生の指示で順番に自己紹介をすることに。先生の指名で、1番から始まり、2番と続く。そして、3番の上崎さんの番になった。

「えっと、わ、私、私は、う、う、う……」

上崎さんは緊張しているのか、全然話せていない。もしかすると人と話すのが苦手だったりするのかな?

そして、そんな上崎さんを見て周囲からクスクスと笑いが起こり始め、それを見かねたのか先生は上崎さんに着席を促した。

上崎さんは縮こまった様子で椅子に座っていた。

上崎さんが座ると再び自己紹介が再開された。

そして、2列目の1番前。7番のところで見覚えのある男の姿があった。

「木沢彰二です。遅刻常習犯ですが、これからよろしくお願いします」

彰二、自己紹介が上手いな……。周りは笑っているが、上崎さんの時の笑いとは違うものだ。

それからも自己紹介は続く。

「澄本紗弓です!趣味で絵とか描いてます!仲良くしてくれると嬉しいです!」

13番の人の自己紹介が終わった。もうすぐで僕の順番が来る。

「17番、滝平」

「はい」

僕の番がやって来た。大丈夫、昨日適当に練習したし!僕ならやれる!

「あ、えーと滝平幸人です。よろしく」

僕はそう言って静かに着席した。

やってしまったー!失敗だ!終わった!昨日3分も練習したのに!何で着席してから内容がスラスラ出てくるんだ!

僕の頭の中はそんなことがぐるぐると回っていた。

「次、18番、武淵」

「はい!」

その後の自己紹介とか何にも覚えてない。自分の自己紹介に対しての脳内反省会が忙しかったせいだ。

自己紹介の後、終礼をして今日はそこで解散になった。

僕は彰二を誘って帰ろうと思ったけど、彰二は他のクラスメートとすっかり打ち解けて

僕は終礼が終わってすぐに教室を出て、校門まで早歩きで帰った。

僕は駐輪場の脇を通り抜けながら、上崎さんの自己紹介のことを思い出していた。

そう言えば、上崎さんも自己紹介ミスしてたな……ってノート!ノート返すの忘れてた!

僕はそのことに気づき、急いで教室へ引き返した。

教室に戻ると教室を物色する影が見えた。

開け放されたドアから中に入る。

その人は机を片っ端から覗き込んで何かを探しているようだった。

「あの……上崎さん?」

僕が彼女の名前を呼ぶと彼女は思わず「わっ!」と声を上げた。

さすがに急に声をかけたのはマズかったよね……

「え、えっと……朝の人?」

朝の人……まあ、上崎さんも僕と同じで自己紹介でミスって頭が真っ白になってたんだろうなぁ。

「僕は滝平幸人って言います」

「あ、えと、私は上崎絢乃うえさきあやのです」

僕は上崎さんの薄紅の瞳を見ながら名乗った。

お互いの名前を言い終わると、肩の力が自然に抜けていくのと同時に安心感と達成感に包まれていた。

「えっと、上崎さんは何をしてたの?」

「の、ノートを探してて……」

「ノートってこれのことだよね?」

僕はカバンから上崎さんのノートを取り出して、机の上に置いた。

「あっ!それです!」

上崎さんは我が子を抱きしめるかのようにノートを抱きしめていた。

「朝、ぶつかった時に落としたみたいだったから……早く返そうと思ってたんだけど。遅くなってごめん」

「いえ!わざわざ返しに来てくれてありがとうございました」

上崎さんはそう言ってお辞儀をしたとき、勢い余って机の角に額をぶつけてしまった。

「だ、大丈夫?」

「はい、大丈夫です!」

上崎さんは「大丈夫」と言ったけど、おでこのところが赤くなっていた。

「上崎さん、少し待っててもらっていいですか?」

「え……」

キョトンとした様子の上崎さんを置いて僕はある場所に行ってきた。

「とりあえずこれで冷やしておいて」

僕は上崎さんに水で湿らせたハンカチを渡した。

「あ、ありがとうございます……」

その後、椅子に腰かけながらおでこをハンカチで冷やしてる上崎さんと色々と話をした。

趣味で小説を書いていて、どうやら僕が拾ったノートにその小説を書いていたんだそうだ。

僕は特別に読ませて貰ったりして楽しい時間を過ごした。

「私、そろそろ帰らないと。今日はいろいろとありがとうございました」

「僕の方こそ今日はありがとう。小説まで読ましてもらってしまって」

「いえいえ、ノートを拾ってもらったのでこれくらいは。それより、滝平君は小説とかは好きなんですか?」

「うん、好きだよ。普段はライトノベルとかしか読んでないけど」

「そうなんだ!それじゃあ、滝平君また明日!」

そう言って上崎さんはニコニコしながら教室を出ていった。

それにしても上崎さん、だいぶ明るい感じだったなぁ。もしかして、上崎さんって人見知りするタイプなのかな?

僕も小説とか書いたら、もっと上崎さんと仲良くなれたりするのかな。

僕はそんな期待を胸に抱きながら、家路についた。

この話は僕、滝平幸人と上崎絢乃が小説を書いたりしながら平和に高校生活を送っていく、そんな話である。

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