僕と彼女の小説ライフ

ヌマサン

第4話 声

朝。窓からは陽の光が部屋の中に入って来る。

また、窓を開けると澄んだ空気が部屋の中に充満する。

僕は寝間着から制服に着替え、身支度を整える。

「幸人、おはよー」

「姉さんもおはよう」

僕が洗面所で歯を磨いていると姉さんもあくびをしながら洗面所へやって来た。

「幸人、今週の土曜日に駿兄しゅんにいが帰って来るんだって」

駿兄――滝平駿平は僕と姉さんの兄で今は都内の大学2年で現役のプログラマーだ。

駿兄は、僕や姉さんの学費も全額出してくれている。本当にスゴイ兄だと思う。

しかも、勉強も出来て大学では特待生で入学した。そのため、学費が全額免除になっている。

兄さんも姉さんも勉強が出来るのに僕だけが勉強が出来ないのだろうか?全く、世の中不公平もいいところだ。

「そっかー、また何かお土産下げて帰って来るんだろうな~」

「そうね。駿兄もあれだけを除けば、完璧なのにね」

あれ、とは僕たち姉弟を溺愛していることだ。兄さんが帰ってきている間は、この家に静寂は訪れないのだ。

「それじゃあ、僕は学校に行くよ。姉さんも急がないと遅刻するよ!」

「そうね、私も急いで準備しなくちゃ!」

僕がそう言うと、姉さんはバタバタと慌ただしく学校の準備をし始めた。

「それじゃあ、行ってきます!」

「行ってらっしゃい!」

僕は姉さんの声を聴きながら、家を後にした。

――――――――――

僕は教室に着くなり、椅子に座ってうたた寝をしていた。別段、話す相手もいないし。

何分くらいたっただろうか。急に肩を叩かれた。それも何回も、何回も。

「……君!滝平君!」

僕は眠い目をこすりながら顔を上げる。すると、その前には上崎さんの顔があった。

「……どうかしたの?上崎さん」

「今日、図書委員の当番の人はすぐに図書室に集合してほしいって、さっき朝倉先輩が言ってましたよ」

朝倉先輩……ああ、瑠璃色の髪をサイドテールにしてた先輩だ。まあ、それくらいしか覚えてないんだけど。それはさておくとして。

「それじゃあ、僕たちも急がないと」

「そうですね」

こうして僕と上崎さんも小走りで図書室へと向かった。

図書室に入ると、朝倉先輩ともう一人の先輩がいた。歩いているだけで風紀委員に取り締まられそうな格好をしている金髪の大男だ。

「お前ら、遅いじゃねえか。やる気あんのかよ」

その先輩はギロリと紫紺の瞳をこちらに向けてくる。どうしよう、めっちゃ怖い。

「上崎さん、あの先輩の名前何だっけ?」

僕がひそひそ声で上崎さんに話しかける。

「え、聞いてなかったのですか!?」

上崎さんは驚いた様子で僕の方を見つめてくる。昨日の自己紹介の時の失笑されたのがショックで先輩二人の自己紹介を聞き逃したんだから。

「私もあの先輩のところはボーッとしてて聞いてなかったのですけど……」

……あ、ダメだこりゃ。

「沖石先輩、二人をそんなに怒ってやらないでくれるかしら?」

「ああ?俺に意見すんのかよ、朝倉?」

あのイカツイ先輩は沖石という人らしい。朝倉先輩が言ってくれなかったら、一生名前分からないままだったかもしれない。

……ていうか、話しかけて無事でいられる自信がない。

「あの先輩方、私たちは何のために集められたのでしょうか?」

「あら、上崎さん。放っておいたままにして悪かったわね。滝平君もこっちに来てくれないかしら」

朝倉先輩に促されるまま、僕は先輩の近くまで歩み寄った。

沖石先輩は不機嫌そうにポケットに手を突っ込んで壁にもたれかかっている。

「それじゃあ、まず今日やることの説明からね」

僕たち一年生組3人は朝倉先輩の説明に静かに耳を傾けた。

今日やることは3つ。カウンター業務と本の返却と整理、ホームページの更新だ。

ホームページの更新は上崎さんがすることになった。詳しいやり方は朝倉先輩が教えてくれるとのことだった。

カウンター業務は僕が行うことになった。ホームページの更新が終われば上崎さんも手伝ってくれるとのことだった。

本の返却と整理は朝倉先輩と沖石先輩がすることに決まった。

「やることの説明と役割分担は終わったわね。みんなチャイムが鳴る前に教室に戻りましょうか」

こうして朝の集会は終わり、僕と上崎さんは教室へと戻って一息ついていた。

それからは朝のホームルームに、授業を4つ受けた。

そして、当番である昼休みになった。

図書室が開くのは4時間目が終わって15分後だ。

そして、図書委員はそれより早くに図書室に入らないといけないので、僕は弁当を喉に詰めそうになりながらも10分で食べきった。

「上崎さん、先に図書室に行ってるから!」

「あ、はい。私もすぐに後を追いますので!」

僕は体育の授業の時とは違い、本気で図書室まで走った。

そして、僕が図書室に入ろうとすると中から声が聞こえてきた。

「ちょっと、沖石先輩……やめ……!」

……何か色っぽい声が聞こえてくるんだけど、これ入って大丈夫な感じなのかな?

「……ここで待ってることにしよう」

僕にはそんないかがわしいことをしている現場に踏み込む勇気は無いので、図書室の前の廊下で待機していた。

「滝平君、どうして中に入らないのですか?」

……どうしよう、何て上崎さんに伝えればいいんだ!?

「滝平君……?」

「あ、いや、何でもないよ」

僕は引きつった笑みを浮かべながらそう返した。

「それじゃあ、入りましょう」

そう言って、上崎さんは図書室のドアノブに手をかけた。

中では何も起こっておらず、僕の気のせいでした!

……そうであってほしい!

上崎さんがドアを開けて中に入っていく。僕もその後に続く。

「誰もいないみたいですね。でも、それなら何で図書室の鍵が開いていたのでしょう?」

「……さあ、な、何でだろうな……?」

上崎さんは僕の方をじっと見つめてくる。

「もしかして、私が来るのを……待っててくれたんですか?」

「うん、そうかもね……」

……結果的にそうなっただけなんだけど……まあ、いっか。

それにしてもあの色っぽい声を上げてたのって誰なんだろう?あとはこの部屋の中に沖石先輩がいるはずなんだけど……

「あら、二人とも来てたのね」

奥の本棚の陰から朝倉先輩がひょっこりと顔を覗かせた。

「滝平君、部屋の電気をつけてくれるかしら?」

僕は朝倉先輩に言われた通りに図書室の電気をつけた。

「上崎さん、パソコンの電源入れておいてくれるかしら?」

「はい、分かりました!」

上崎さんはカウンターの上に置かれているパソコンの電源を付けに行った。

僕は今しかないかと思い、朝倉先輩の方へ歩いて行った。

朝倉先輩は沖石先輩に本を積んだ台車を運ぶように指示をしていた。沖石先輩は文句の1つも言わずに台車を押していった。

「あの、朝倉先輩……」

僕はさっき聞いたことを小声で話した。

「ああ、あれのことね。そんなに私の声は色っぽかったのかしら?」

朝倉先輩はニヤニヤとからかうような笑みを浮かべながら、俯いている僕の顔を覗き込んでくる。

「……まあ、そうですね」

「そっか」

朝倉先輩は手を腰の辺りで組んで、本棚の近くまで歩いて行った。

先輩はあの時、何が起こったのかを話してくれた。

聞いてみれば、別段大したことじゃなかった。

本棚に入りきらない本を無理やり押しこもうとしている沖石先輩から本を取り返そうとしていただけだそうだ。

「ご期待に沿えなかったようなら、ごめんなさいね」

……結局、僕の勘違いでした。いやあ、何も無くて良かった。

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