僕と彼女の小説ライフ

ヌマサン

第5話 窓

昼休み。教室や廊下、食堂、運動場に体育館。

図書室以外は生徒たちで大賑わいだ。そう、図書室以外は。

「滝平君、人……全然来ないね……」

「そうだね……」

みんな教室とかでゲームしたり、SNSのチェックなど色々と忙しいのだろう。

現在、図書室に居るのは僕たち図書委員を含めると7人。

図書委員以外にいるのは女子3人。……姉さんとその友達2人だ。

3人は静かに勉強している。さすがは受験生といったところか。

そして、朝倉先輩と沖石先輩は本の返却と整理をしている。本を運ぶ力仕事は沖石先輩が行い、朝倉先輩が丁寧に棚へと本を戻していく。

そして、僕と上崎さんでカウンター業務をしているのだが、誰も来ないため暇を持て余している。

――ガチャ

思わずうたた寝しそうになるほど静かなこの場所に、突如として扉が開閉する音が響き渡る。

誰かと思って見れば、澄本さんだ。

「あの……絵に関係する本とかってありますか?」

「上崎さん、どこか知ってたり……」

「はわわ……えとえと……」

……あ、これダメなやつだ。それと上崎さん、動きが完全に不審者だ。

「あ、えっと……」

待ってくれ。今さらながら、カウンター二人が人見知りってヤバくない!?ダメな奴じゃん!?

「絵の本ならこっちよ」

朝倉先輩が澄本さんの肩を優しく叩いて本棚の方へと案内していった。

さらに、去り際に朝倉先輩は僕たちの方へウィンクをしていった。

「ダメだ。全然喋れなかったよ……」

「私も全然喋れませんでした!」

上崎さんは薄紅の瞳を輝かせながら僕の方を見つめてくる。しかし、初対面の人とあんなにコミュニケーションが取れないのはマズい。

僕たちが担当しているのはカウンター業務だ。いつまでも人見知りのままではいられないのだ。

「二人とも、大丈夫だった?」

澄本さんと一緒に本を探しに行っていた朝倉先輩が戻ってきた。

「貸し出しの手続きをお願いします」

そう言って澄本さんの手から一冊の本が手渡された。

「わ、分かりました」

僕は澄本さんから受け取った本の貸し出しの手続きを手早く済ませた。

「は、はい、どうぞ。貸し出し期限は2週間なのでそれまでに返却するようにしてください。期限が来ても手続きをすれば貸し出しを延長することも出来るので、その辺りは安心してください」

「あ、ありがとね。あと、お疲れ様」

そう言い残して澄本さんは図書室を出ていった。何だろう?気を使われちゃったのかな?

「そうだ、二人とも」

澄本さんが出ていったタイミングで朝倉先輩から話しかけられた。

「今週の日曜日は予定とか空いてるかしら?」

「私は空いておりますけど……」

「僕も空いてますけど、何かあるんですか?」

まあ、兄さんが帰ってくるんだけど、それだけだしね。

「隣町の本屋さんに行こうと思ってるんだけど、一緒にどうかしら?」

「……それって図書委員の仕事ですか?」

上崎さんがすかさず質問を返す。

「ええ。図書委員の仕事の一つの選書よ」

ああ、そういえばそんな仕事もあったな……

「それじゃあ、僕は行きます」

「私も行きます!」

「それじゃあ、決まりね」

こうして、僕と上崎さんは朝倉先輩と一緒に隣町へ本を買いに行くことになった。

「朝倉先輩、一つ質問してもよろしいでしょうか?」

「別にいいわよ。何かしら?」

「沖石先輩は日曜日は行かれないのですか?」

言われてみればそうだ。図書委員の仕事なら何故沖石先輩は行かないのか?朝倉先輩の話を聞いていれば、僕たち三人で行くような言いぶりだった。

「沖石先輩に限った話じゃないのだけれど、3年生は大学受験があるから行かなくてもいいのよ。それに……」

「それに?」

「沖石先輩、ああいう見た目だから女の子と歩いてるだけで職務質問されちゃうのよね……」

沖石先輩、それは可哀そうな話だな……

「あ、そういえば二人の連絡先をまだ聞いていなかったわね」

僕と上崎さんは朝倉先輩とRINEラインを交換した。

ちなみにRINEラインは、24時間、いつでもどこでも無料で好きなだけ通話やメールが楽しめるコミュニケーションアプリのことだ。

「それじゃあ、詳しい日時はまた送るわね」

朝倉先輩はそう言って、スマホをポケットに閉まった。

そんな時、僕の服の袖をか弱く引っ張られた。

「あ、あの、滝平君。私とも……」

上崎さんが何か言いかけた時、図書室の電気が消え始めた。

「おい、そろそろ時間だぞ。早く戸締りするぞ」

沖石先輩が図書室の電気を消し始め、そのまま僕たちも図書室の戸締りをして教室に戻った。

それにしても、上崎さんは何を言いかけたんだろう……?

僕たちは昼からの授業を受けて、放課後に再び図書室へと向かった。

図書室にはすでに朝倉先輩がいた。

「あら、滝平君。もう来てたのね」

「あ、朝倉先輩。お疲れ様です」

僕は挨拶をして図書室の電気をつけた。

「朝倉先輩、電気付けないと目が悪くなりますよ?」

「そうね。気を付けるわ」

朝倉先輩はそう言って床に置いてある本をカウンターの上に載せた。

「先輩、これは?」

積み上げられた本はどれも損傷はなく、いかにも新品といった感じだ。

「これはさっき届いた新書よ」

なるほど、道理で綺麗なわけだ。

「それじゃあ、日曜日は本を買いに行く必要なんてないんじゃ……」

「これは春休み前に発注していたものよ。配送がトラブルで遅れていたの」

朝倉先輩はそう言って本をジャンルごとに並べていく。

「それで、日曜日に行くのは新しく生徒と他の図書委員から要望があった本よ」

なるほど、そういうことだったのか。納得納得。

「それと、来月からは貴方たちにも要望を書いてもらうから、そのつもりでね」

それは大変だな……。よくよく考えれば図書委員って意外と忙しいんだなぁ……。『本好きだし楽そうだから図書委員にしよう』とか思ってた自分をぶん殴ってやりたい。

「失礼致します」

扉が開く音と共に図書室に上崎さんが入ってきた。

「あら、上崎さん。いらっしゃい」

「朝倉先輩も滝平君も先に来ていらしたのですね」

「ええ。そうだわ、二人もこの本にラベルを貼るの手伝ってくれないかしら?」

朝倉先輩はそう言いながら、どんどん下に置いてある段ボール箱から本を取り出していく。

僕も上崎さんも戸惑ったが、ラベル貼りを手伝うことに。

結局、放課後の業務はそれだけだった。別に図書室に人が来なかったわけではない。自習をしに来る生徒が5,6人ほどいた。

だが、誰も本を借りなかった。だから、業務はラベル貼りだけだったのだ。

「それじゃあ、6時だし戸締りして帰りましょうか」

沖石先輩は「細かい作業は苦手なんだ」と言って、ずっとカウンターで勉強をしていた。

「それじゃあ、俺は帰るからな」

僕たちが戸締りしている間に、沖石先輩は帰ってしまった。

僕が窓を閉めに行こうとすると、すでに窓はすべて閉まっていた。上崎さんと朝倉先輩は向こうで段ボールを解体している。そして、窓際の席に座っていたのは沖石先輩だけだった。

ということは沖石先輩が閉めていってくれたのだろうか。

「意外と沖石先輩って優しい人なのかな」

僕はそんなことを思いながら、段ボール解体組を手伝いに戻った。

そんな窓から差し込む月明りは穏やかで、星は青白く輝いて美しかった。

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