日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~
第45話 ヴァンパイア
「……呉宮……さん?」
水槽が砕け散って、その中から出てきたのは呉宮さんだった。
俺は呉宮さんを見た途端、ギルドが襲撃された後、家にやって来たユメシュの見せた宝玉の映像がフラッシュバックした。
「呉宮さん!」
「お姉ちゃん!」
俺と茉由ちゃんが腹の底から大声を出して呉宮さんを呼んだ。
しかし、呉宮さんが振り向くことは無かった。
「呉宮さん!」
俺はたまらず呉宮さんの元へと駆け寄った。てっきりギケイが阻止しようと動くかと思っていたが、動く様子は見られない。
ならば、今のうちに呉宮さんを助け出してここを離れよう!
「呉宮さん!」
俺が近くで名前を呼んでようやく気が付いたのか俺の方を振り向いた。
「……え?」
確かにそこに居たのは呉宮さんだったのだが、どこか違和感を感じた。
だが、違和感の正体は呉宮さんを見て、すぐに分かった。
呉宮さんの瞳が赤く光っているのだ。いつもの黒い瞳ではない。
呉宮さんは俺を見つけると俺の方に飛び込んできた。
俺はその勢いに耐え切れず、後ろ向きに床へと倒れこんだ。その際に腰を石畳の床で打ってしまったが、呉宮さんに会えた喜びもあってか痛みも緩和されているような気がした。
だが、俺は呉宮さんに押し倒された格好になっており、俺は焦った。
「く、呉宮さん……?これは一体……?」
俺がそう言っても顔色一つ変えない呉宮さん。嫌な予感がして振りほどいて逃げようと腕に力を籠めるもピクリとも動かせない。俺はこの世界に来てから武器であるサーベルを振っているから多少なりとも力が付いてきているはずなのだ。それなのに呉宮さんに力で負けるのはどうもおかしい。
そうしている間に俺の目の前に呉宮さんの白く透き通った美しい顔が近づいてきた。一瞬、見惚れてしまいそうだったが、今は見惚れている場合ではないと己を律した。
呉宮さんはといえば、何も言わずに俺の右肩に顔をうずめてしまった。
呉宮さんの髪が俺の髪にかかる。しかし、液体の中に居たからか変な匂いがした。学校で会った時のような爽やかな匂いはしなかった。
その直後、俺はチクリと首筋から注射針でも刺されたような痛みを感じた。
「呉宮さん……?何を……」
俺が目を隅にやると呉宮さんが俺の首筋に噛みついているではないか。
「……何だ?頭がクラクラする……!」
直後、乗り物酔いにでもあったかのように頭がクラクラする感覚に陥った。
そして、俺は首筋から何やら液体が垂れていくような感覚があることに気がついた。
目を端までやってかろうじて見えたのは赤色の液体が流れ出しているということ。
「……まさか、これは俺の血なのか!?」
俺が叫ぶと拍手が部屋中に響き渡った。
「正解でござるよ。よく分かったでござるな。そう、それはそなたの血でござる」
ギケイの声だ。呉宮さんで隠れて姿は見えないが、確かにギケイの声だ。
「我がギルドマスターは彼女に吸血鬼の血液を輸血したのでござるよ。そのおかげもあってか日光の当たらない場所でだけ吸血鬼の吸血能力と身体能力を使うことが出来るようになったのでござる」
……わざわざ解説してくるあたり、すでに勝った気でいるのだろうか。
そう思ったのと同時に俺はさっきのギケイの言葉から、先日ウィルフレッドさんの部屋で読んだ本の内容を思い出した。
今のギケイの解説が正しければ呉宮さんは吸血鬼の吸血と身体能力を使えるようになっただけ。つまり、吸血鬼になってしまったわけではない。
そして、吸血鬼もアンデッドの部類に入るのはすでに知っている。なので、さっきの悪魔の死体たちのように光属性の魔法を当てるとドロドロに溶けてしまうわけではない。
ウィルフレッドさんの本には書かれていた『数百年前に吸血鬼の血を人に輸血する実験を行ったイカれた宗教団体があった』らしく、この状況はその時のデータと酷似している。
実験では吸血鬼の血を輸血した人間に光属性の魔法や日光を当てると吸血鬼としての能力が一時的ではあったが解除された……と確かに書いてあった。
……失敗すると一大事だが、俺はこのまま血を吸い続けられては死んでしまう。
俺がやられれば、次は茉由ちゃんやディーン、エレナ、セーラさんの4人の誰かが血を吸い取られてしまう。いや、そうならないために呉宮さんを攻撃する決断に踏み切る可能性もある。俺はみんなにそんな決断をさせたくない。
そして、これ以上、呉宮さんの体で好き勝手させるわけにはいかない!
俺はこうした勝手な思いから、決断をした。何の決断かと言えば、呉宮さんに光属性で攻撃することだ。
俺はその決断の元であるものに光属性を付加した。
その直後、呉宮さんは悶え苦しみ始めた。
「お姉ちゃん!?」
背後で茉由ちゃんが驚いたように大声を上げているのが聞こえる。
俺が光属性を付加したもの。それは……俺の血だ。呉宮さんは光属性を付加された血を吸ってしまったのだ。
ここからは一か八かの賭けである。現状、これしか策が無いのだ。
呉宮さんの体から白い煙が噴き出している。一瞬、失敗したかに思えた。失敗すれば、俺が呉宮さんを殺したことになる。
『失敗したらどうしよう』とかそういった考えが頭の中をグルグルと駆け巡る。しかし、呉宮さんの体が解けていったりする様子はない。
そして、呉宮さんは苦悶の表情を浮かべていたが、力が抜けたのか、ペタリと床に尻もちをついてしまった。瞳の色も赤ではなく黒に戻っていた。
「呉宮さん!」
俺は何度も足と足が絡まりそうになりながらも、やっとの思いで呉宮さんに駆け寄った。
「……あれ?薪苗……君?」
「良かった……!」
俺はいつもの呉宮さんを見て安心したからか、涙がとめどなく流れてくる。
「薪苗君、どうしたの!?大丈夫!?」
「ああ、大丈夫。それより立てる?」
俺は呉宮さんに手を差し伸べる。
「うん、ありがとね」
呉宮さんは俺の手を握ってゆっくりと立ち上がった。正直、俺も倒れそうなほどに体が不調を訴えていた。でも、呉宮さんに心配をかけたくなかったからその事は胸のうちに秘めておくことにした。
「薪苗君、ここは……?」
呉宮さんからの質問に対して俺は手短に事情を説明した。
「……詳しいことは後でも大丈夫?」
「うん……分かった。あと、助けに来てくれてありがとう」
その時の呉宮さんの女神かと見間違うような輝きの笑顔に俺は魂を持っていかれそうになった。
「それじゃあ、みんなのところに……」
俺はさっきまでギケイが居た場所を目視すると、ギケイが居ないことに気が付いた。
まさか……!
俺は茉由ちゃんたちのいる方を振り向く。みんなは青ざめた表情をしているがそれ以外で変わったところはなかった。
「……!」
その直後に俺は腹部に火のような疼痛が走るのを覚えた。
俺はその時、自分の腹部に短刀が突き刺さっているのを理解した。……ということは、短刀から床へ流れ落ちていくのは、俺の血か。
「薪苗君!」
「先輩!」
「直哉!」
「「直哉さん!」」
みんながそれぞれ俺の名を呼ぶ。
しかし、俺にはその呼びかけに答える力は……もう、なかった。さっきの吸血で血が減っていたのにさらに負傷による出血。俺は満足に立つ力もなかった。
ドサリと俺は床に横向きに崩れ落ちた。
もう体のどこにも力が入らない。
名前を呼ばれても返せない。頭はまだ動いているのに、意識はあるのに。
……せっかく、呉宮さんに会えたのになぁ。
「薪苗君!しっかりして!」
呉宮さんが俺の側まで駆け寄ってきてくれる足音が聞こえる。
「聞こえているでござるか?直哉とやら。そなた、隙が多すぎるでござるよ。そなたはここで仲間が死んでいく様を見届けてから死んでもらうでござるよ」
……そのためにあえて急所を外したのか。残酷な奴だ。
にしても、俺はもうダメらしい。もう指の一本も動かせない。
「ゴホッ!」
「薪苗君、口から血が……」
……ダメだ。視界もかすんできた……。呉宮さんがどんな表情をしているのか、もう分からない……。
「薪苗君……?目を閉じちゃ……!」
俺は呉宮さんのその言葉を最後に何も聞こえなくなり、視界から光が……消えた。
水槽が砕け散って、その中から出てきたのは呉宮さんだった。
俺は呉宮さんを見た途端、ギルドが襲撃された後、家にやって来たユメシュの見せた宝玉の映像がフラッシュバックした。
「呉宮さん!」
「お姉ちゃん!」
俺と茉由ちゃんが腹の底から大声を出して呉宮さんを呼んだ。
しかし、呉宮さんが振り向くことは無かった。
「呉宮さん!」
俺はたまらず呉宮さんの元へと駆け寄った。てっきりギケイが阻止しようと動くかと思っていたが、動く様子は見られない。
ならば、今のうちに呉宮さんを助け出してここを離れよう!
「呉宮さん!」
俺が近くで名前を呼んでようやく気が付いたのか俺の方を振り向いた。
「……え?」
確かにそこに居たのは呉宮さんだったのだが、どこか違和感を感じた。
だが、違和感の正体は呉宮さんを見て、すぐに分かった。
呉宮さんの瞳が赤く光っているのだ。いつもの黒い瞳ではない。
呉宮さんは俺を見つけると俺の方に飛び込んできた。
俺はその勢いに耐え切れず、後ろ向きに床へと倒れこんだ。その際に腰を石畳の床で打ってしまったが、呉宮さんに会えた喜びもあってか痛みも緩和されているような気がした。
だが、俺は呉宮さんに押し倒された格好になっており、俺は焦った。
「く、呉宮さん……?これは一体……?」
俺がそう言っても顔色一つ変えない呉宮さん。嫌な予感がして振りほどいて逃げようと腕に力を籠めるもピクリとも動かせない。俺はこの世界に来てから武器であるサーベルを振っているから多少なりとも力が付いてきているはずなのだ。それなのに呉宮さんに力で負けるのはどうもおかしい。
そうしている間に俺の目の前に呉宮さんの白く透き通った美しい顔が近づいてきた。一瞬、見惚れてしまいそうだったが、今は見惚れている場合ではないと己を律した。
呉宮さんはといえば、何も言わずに俺の右肩に顔をうずめてしまった。
呉宮さんの髪が俺の髪にかかる。しかし、液体の中に居たからか変な匂いがした。学校で会った時のような爽やかな匂いはしなかった。
その直後、俺はチクリと首筋から注射針でも刺されたような痛みを感じた。
「呉宮さん……?何を……」
俺が目を隅にやると呉宮さんが俺の首筋に噛みついているではないか。
「……何だ?頭がクラクラする……!」
直後、乗り物酔いにでもあったかのように頭がクラクラする感覚に陥った。
そして、俺は首筋から何やら液体が垂れていくような感覚があることに気がついた。
目を端までやってかろうじて見えたのは赤色の液体が流れ出しているということ。
「……まさか、これは俺の血なのか!?」
俺が叫ぶと拍手が部屋中に響き渡った。
「正解でござるよ。よく分かったでござるな。そう、それはそなたの血でござる」
ギケイの声だ。呉宮さんで隠れて姿は見えないが、確かにギケイの声だ。
「我がギルドマスターは彼女に吸血鬼の血液を輸血したのでござるよ。そのおかげもあってか日光の当たらない場所でだけ吸血鬼の吸血能力と身体能力を使うことが出来るようになったのでござる」
……わざわざ解説してくるあたり、すでに勝った気でいるのだろうか。
そう思ったのと同時に俺はさっきのギケイの言葉から、先日ウィルフレッドさんの部屋で読んだ本の内容を思い出した。
今のギケイの解説が正しければ呉宮さんは吸血鬼の吸血と身体能力を使えるようになっただけ。つまり、吸血鬼になってしまったわけではない。
そして、吸血鬼もアンデッドの部類に入るのはすでに知っている。なので、さっきの悪魔の死体たちのように光属性の魔法を当てるとドロドロに溶けてしまうわけではない。
ウィルフレッドさんの本には書かれていた『数百年前に吸血鬼の血を人に輸血する実験を行ったイカれた宗教団体があった』らしく、この状況はその時のデータと酷似している。
実験では吸血鬼の血を輸血した人間に光属性の魔法や日光を当てると吸血鬼としての能力が一時的ではあったが解除された……と確かに書いてあった。
……失敗すると一大事だが、俺はこのまま血を吸い続けられては死んでしまう。
俺がやられれば、次は茉由ちゃんやディーン、エレナ、セーラさんの4人の誰かが血を吸い取られてしまう。いや、そうならないために呉宮さんを攻撃する決断に踏み切る可能性もある。俺はみんなにそんな決断をさせたくない。
そして、これ以上、呉宮さんの体で好き勝手させるわけにはいかない!
俺はこうした勝手な思いから、決断をした。何の決断かと言えば、呉宮さんに光属性で攻撃することだ。
俺はその決断の元であるものに光属性を付加した。
その直後、呉宮さんは悶え苦しみ始めた。
「お姉ちゃん!?」
背後で茉由ちゃんが驚いたように大声を上げているのが聞こえる。
俺が光属性を付加したもの。それは……俺の血だ。呉宮さんは光属性を付加された血を吸ってしまったのだ。
ここからは一か八かの賭けである。現状、これしか策が無いのだ。
呉宮さんの体から白い煙が噴き出している。一瞬、失敗したかに思えた。失敗すれば、俺が呉宮さんを殺したことになる。
『失敗したらどうしよう』とかそういった考えが頭の中をグルグルと駆け巡る。しかし、呉宮さんの体が解けていったりする様子はない。
そして、呉宮さんは苦悶の表情を浮かべていたが、力が抜けたのか、ペタリと床に尻もちをついてしまった。瞳の色も赤ではなく黒に戻っていた。
「呉宮さん!」
俺は何度も足と足が絡まりそうになりながらも、やっとの思いで呉宮さんに駆け寄った。
「……あれ?薪苗……君?」
「良かった……!」
俺はいつもの呉宮さんを見て安心したからか、涙がとめどなく流れてくる。
「薪苗君、どうしたの!?大丈夫!?」
「ああ、大丈夫。それより立てる?」
俺は呉宮さんに手を差し伸べる。
「うん、ありがとね」
呉宮さんは俺の手を握ってゆっくりと立ち上がった。正直、俺も倒れそうなほどに体が不調を訴えていた。でも、呉宮さんに心配をかけたくなかったからその事は胸のうちに秘めておくことにした。
「薪苗君、ここは……?」
呉宮さんからの質問に対して俺は手短に事情を説明した。
「……詳しいことは後でも大丈夫?」
「うん……分かった。あと、助けに来てくれてありがとう」
その時の呉宮さんの女神かと見間違うような輝きの笑顔に俺は魂を持っていかれそうになった。
「それじゃあ、みんなのところに……」
俺はさっきまでギケイが居た場所を目視すると、ギケイが居ないことに気が付いた。
まさか……!
俺は茉由ちゃんたちのいる方を振り向く。みんなは青ざめた表情をしているがそれ以外で変わったところはなかった。
「……!」
その直後に俺は腹部に火のような疼痛が走るのを覚えた。
俺はその時、自分の腹部に短刀が突き刺さっているのを理解した。……ということは、短刀から床へ流れ落ちていくのは、俺の血か。
「薪苗君!」
「先輩!」
「直哉!」
「「直哉さん!」」
みんながそれぞれ俺の名を呼ぶ。
しかし、俺にはその呼びかけに答える力は……もう、なかった。さっきの吸血で血が減っていたのにさらに負傷による出血。俺は満足に立つ力もなかった。
ドサリと俺は床に横向きに崩れ落ちた。
もう体のどこにも力が入らない。
名前を呼ばれても返せない。頭はまだ動いているのに、意識はあるのに。
……せっかく、呉宮さんに会えたのになぁ。
「薪苗君!しっかりして!」
呉宮さんが俺の側まで駆け寄ってきてくれる足音が聞こえる。
「聞こえているでござるか?直哉とやら。そなた、隙が多すぎるでござるよ。そなたはここで仲間が死んでいく様を見届けてから死んでもらうでござるよ」
……そのためにあえて急所を外したのか。残酷な奴だ。
にしても、俺はもうダメらしい。もう指の一本も動かせない。
「ゴホッ!」
「薪苗君、口から血が……」
……ダメだ。視界もかすんできた……。呉宮さんがどんな表情をしているのか、もう分からない……。
「薪苗君……?目を閉じちゃ……!」
俺は呉宮さんのその言葉を最後に何も聞こえなくなり、視界から光が……消えた。
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