日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~
第24話 装備と剣技
俺たちはロベルトさんのいる鍛冶場にやって来た。
俺たちが鍛冶場に入るとそこでは何やらロベルトさんが急がしそうにしていた。ロベルトさんは鍛冶場に入って来た俺たちに気付いたのか、話しかけてくれた。
「お前さんら、こんなところに何の用だね?」
「ウィルフレッドさんの所で武器や防具を選んで来いと言われたのだけれど」
武淵先輩がいち早くその質問に明瞭な声で答えた。そして、それを聞いたロベルトさんは顎髭を右手でさすっていた。
「そういうことか。分かった。お前さんらの冒険者ランクは銅だったな。なら、この辺りにある奴から好きな奴を選ぶんじゃ」
「ロベルトさん!質問です!」
「何の質問じゃな?」
突然、茉由ちゃんがロベルトさんの指示の後、元気よくロベルトさんに質問をした。
「何か冒険者ランクって武器とか防具を選ぶことに何か関係があるんですか?」
「ああ、それはあるぞ。お前たちの階級は銅だから武器と防具も銅製のものに限られるんじゃよ」
……という事は青銅になれば、俺たちも青銅の装備が使えるってことか。
「ただし、銀と金、白金は別じゃ。銀はアダマンタイト製、金と白金はオリハルコン製の武器を使うんじゃよ。まあ、そんなことは今はどうでもいいじゃろうがな。とにかく武器を早く選んでおくれ」
「はーい!」
俺たちは金属が擦れる音を立てさせながら装備を選んだ。だが、全然決まる気配がない。それもそうだ。どういう武器が使いやすいのかとかも全く知らないのだから。
「それはそうとお前さんら、着替えてきたらどうじゃ?」
「……え?」
俺たちはお互いの服装を見て納得した。この世界に来た時に着ていた服のままだ。
「マスターの部屋の向かいの部屋に着替えがあるはずじゃ」
「何で着替えが?」
俺がロベルトさんに聞いてみるとこういう事だった。
昨日、俺たちの住む場所をラウラさんと探し回っている間にミレーヌさんが俺たち全員分の服を買ってきてくれていたらしい。
俺たちはすぐにその部屋に向かった。そして、ロベルトさんから聞いた通り服が一式置いてあった。そして、男女のどちらが先に着替えるのかという話になった。話し合いの結果、女性陣が先に着替えることになった。
「絶対覗いちゃダメだからね!」
俺たちは当たり前のことなので快~く了承した。
それから俺たちはドアの前の廊下で待っていた。俺は鍵穴と向き合い、寛之は壁際に座り込み、洋介は壁にもたれかかっている。
俺は洋介の方へと歩いて近づいた。
「直哉?どうしたんだ?」
俺は訳が分からなそうにしている洋介に耳元であることを囁いた。
「ああ、分かった」
洋介はそう言って大きく頷いた。そして、雷の精霊を呼び出した。
俺は右手の中に洋介の雷の精霊を持って鍵穴の所に近づいた。そして、鍵穴から中へと侵入してもらった。先ほど精霊に鍵穴に入れる大きさになれるのかどうか聞いてみた所、別に問題はないらしかった。なので、入ってもらった。
彼に与えた仕事は二つ。『部屋の鍵を入手し、開錠すること』と『ドアノブを回して押せば開くようにしておくことだ』
「まずは鍵を手に入れておくんだったYOな」
精霊はそう言って俺の視界から消えた。視界と言っても鍵穴から覗いているのだが。ここの鍵は外と内の両方から開けるので覗くと中が見えるようになっている。そして、開けるには内側の鍵を開けなければならないのだ。
「あったYO!」
そう言って精霊は鍵穴の向こうから見せてくる。俺は静かに頷き返した。
すると、視界が真っ暗になった。精霊が鍵を差し込んだのだろう。すると、微かにカチャリという音がした。そして、ドアノブが回った。どうやら上手くやってくれているようだ。
「寛之!ちょっとこっちに来てくれ!」
「直哉、どうかしたのか?」
寛之はマヌケにもこちらへと近づいてきた。
「ここを見てみてくれ」
俺は鍵穴を指さしながらそう言った。寛之は何も言わずに鍵穴を覗き込んだ。そして、俺は何も言わずにじっとその時が来るのを待った。そして、その時はやって来た。
「直哉!まさかお前、さっきから向こうを……!」
「そ~れ!」
俺は寛之を軽くドアの方へ押した。すると、寛之はドアの方へと倒れこんだ。ドアは寛之がぶつかった衝撃で開いた。そして、寛之は無様にも倒れこんだ。
「いてて……ヒエッ!」
寛之が顔を上げるとそこには鬼の形相をした3人がいた。
「最ッッッ低ッッッ!」
「へぶう!?」
寛之は3人にボコボコにされて廊下へ放り出された。そして、扉が大きな音を立てて閉まった。ちなみに精霊は寛之がボコられている間に洋介がこっそりと呼び戻した。それから少しして、再び扉が開いた。そして、紗希が真っ直ぐに俺の所にやって来た。
「先輩を中に入れたの兄さんでしょ?」
「な、何を言い出すかと思えば……」
俺は気まずいので天井を見上げた。
「今ので分かったよ。真犯人は兄さんだね。兄さんは逆さ吊りの刑だね」
「お、おい!ちょっと待っ……」
……マズい!何とかしなければ……!
「あら?どうかしたの?」
そこへ運よくミレーヌさんが通りがかった。
「ミレーヌさん、実は……」
「嘘はダメよ♪女の子の着替えを覗いた悪い子にはお仕置きしないとね」
まるでミレーヌさんには俺が覗いたことがバレてるような……?
「『何で分かったんだ』って顔してるから先に行っておくけど、私の魔法は“嘘を見抜く”魔法なのよ」
「オーマイガー……」
こうして俺は紗希たちが着替えていた部屋で1時間ほど紗希の残り香を堪能しながら逆さ吊りの刑に服したのだった……。
――――――――――
「はあ、ヒドイ目に合ったもんだ……」
「それは兄さんが変なことするからでしょ?」
俺たちは今ギルドの地下の訓練場にいる。
あの後、武器や装備は全員選ぶことが出来た。
俺は皮鎧を着て、左手に銅製の小型の丸盾を取り付けた。そして、武器はというと銅製のサーベルを2本腰に差している。そして、紗希に薦められるままに手袋も付けた。
そして、紗希の装備はというと俺と同じ皮鎧に銅製のサーベル1本だけだ。全身を守る鎧を薦めたのだが、本人的に身軽な方が好みなんだそうだ。
寛之はというと胸と肩の部分だけ銅製の金属板が付いていて後は布のブレストプレートを着ていた。武器は右手に持っている身長と同じくらいの長さの木製の杖。しかも、イキった主人公のようにマントを羽織っている。……ボロいけど。
茉由ちゃんはというと胸当てだけが銅製のブレストプレートを身に着けている。武器は片手剣を腰に差している。ちなみにサーベルとショートソードの違いは刃だ。サーベルは片方にだけ刃がついている。ショートソードは両方についているのだ。
そして、洋介はというと騎士のように金属板が全身を覆うフルプレートアーマーを装備しており、防御に重点を置いたものになっている。武器はと言えば、斧槍だ。長さは3メートル近くあるだろうか。なので、攻撃範囲が俺たちの中で最も長い。本人は何か作ってほしいものが有るらしいが、ロベルトさんに却下されていた。
武淵先輩は女性陣の中でも一際豪華な感じだった。鎧はドレスのようなものだ。名前はそのままドレスアーマーと言うらしい。一応捲れにくいように硬めの布を使用しているとのことだった。そして、武器は槍だ。長さは大体2.5メートルほど。
とまあ、俺たちの装備はこんな感じだ。そして、俺たちがここにいるのは魔法についてウィルフレッドさんからより詳しく聞くためだ。
「よし、まずは直哉の付加術から話すとしようか」
ウィルフレッドさんの話をまとめるとこうだ。
付加術は物質や生物に魔法効果を付加するものらしい。同じ系統に付与魔法が有るらしいのだが、それとの決定的な違いは時間だという。付与魔法は威力だけならば、付加術より高いものの何より時間がかかる。そのため戦闘中での使用は不可。戦闘に使いたいのなら事前に付与しておく必要があるらしい。ちなみに、付加術を使うものは付加術士と呼ばれるのだそうだ。
付加術はその逆で威力は付与魔法に劣るが時間がかからないため戦闘中に付加し直したりと、相手によって戦い方を変えられるのだそうだ。随分便利だな。
「次は紗希の魔法についてだな」
続いて紗希の敏捷強化魔法についての説明が始まった。話をまとめるとこうだ。
敏捷強化魔法は自らの動きを早くすることが出来る魔法でまさに戦闘向きの魔法だ。他にも移動や偵察にも使ったりするのが一般的なのだそうだ。
「紗希、高速戦闘とか出来るんじゃないのか?」
「それもそうだね。一撃離脱戦法とかに使えるね!ボクの剣技も十二分に発揮できるよ」
おそらく俺たち六人の中では我が妹は間違いなく一番強いだろうな。この中で武術とかそういったことをやったことがあるのは紗希だけだからな。
「その言い草から察するに、紗希は剣を扱ったことがあるのかね?」
「あ、はい!あります!」
ウィルフレッドさんは目を輝かせていて、何だか興味津々だ。
「よし、魔法の説明は後だ。お手並み拝見と行こうじゃないか」
……まさかまさかのこの流れで勝負ですか。ウィルフレッドさん……!
「実際に剣を扱ったことは?」
「無いですけど、木刀なら扱ったことあります!」
それを聞いて、ウィルフレッドさんはゆっくりと首を縦に振った。
「よし、そのサーベルで大丈夫かね?」
ウィルフレッドさんの問いに答えるように紗希は腰からサーベルを引き抜いて空を斬った。
「大丈夫です!」
「よし、じゃあ、先手は譲ろう。どこからでもかかってくると良い」
「分かりました!」
そう言って紗希は強く踏み込んでウィルフレッドさんとの間合いを詰めた。俺たちはその様子を見て驚いていたのだが、ウィルフレッドさんは表情一つ変えずに突っ立っていた。傍から見れば、気付いていないだけではないかと思っても仕方ないだろう。
紗希はウィルフレッドさんの背後に回っていた。そして、サーベルを首筋目がけて目にも止まらぬ速さで振り下ろした。俺たち素人の目線で見れば、確実に『決まった!』と思った。しかし、ウィルフレッドさんはそれを一瞥することもなく右手でサーベルの腹……つまり刃じゃない横の部分をつかみ取っていた。
「……実力のほどは分かった。剣技だけなら鋼ランクにも通用するだろうな」
ウィルフレッドさんは淡々と話しているが、紗希の表情は引き攣っていた。恐らくこうもあっさりと止められるとは思わなかったのだろう。でも、ウィルフレッドさんは白金ランクだ。むしろ、これで紗希が勝っていたらそれこそ大問題だろう。
だが、紗希は少なからずショックを受けただろうから、後で慰めてあげよう。
「紗希、君は今何才だったかね?」
「……16です」
紗希が消え入りそうな声で答えた。ウィルフレッドさんは紗希の前で片膝をつき、目線を落とした。
「そうか。私は16才でこれほどの剣技の者は見たことが無い。だから、自信を持ってほしい」
「……はい!」
ウィルフレッドさんは娘を諭す父親のような雰囲気を漂わせていた。紗希は瞼から今にも零れ落ちそうになっている涙を手で拭った。
「悔しいという感情を忘れるんじゃないぞ。これを糧に強くなれ。またいつでも相手をしてやる。出直してこい」
どうやら、俺が慰めてやる余地は無さそうだな。
「お前たち5人もいつでも相手してやるからな」
ウィルフレッドさんは俺たち一人一人の目を順番に見つめてからそう言った。俺たちはウィルフレッドさんの新たな一面を見れたことが何だか嬉しかった。
「そうだ、話が逸れたが次は誰の魔法の説明をする?」
「あ、私の魔法剣について教えてほしいです!」
茉由ちゃんが勢いよく手を挙げて名乗り出た。
「氷属性の魔法剣は剣に冷気を纏わせるものだ。近距離なら斬りあう、少し間合いがあるなら氷の刃を飛ばすのが一番無難だろうな」
「なるほど……」
茉由ちゃんはそう言って右手を顎に当てて考える仕草をした。
「どうかしたのか?」
「いえ、剣とか使ったことないからどうしようかと」
ウィルフレッドさんはそれを聞くとクスクスと笑い始めた。
「それだったら紗希に教わればいいじゃないか」
茉由ちゃんは『いいの?』と尋ねるように右隣にいる紗希の顔を見つめた。紗希はそんな茉由ちゃんを見て笑顔を返した。
「ボクは大歓迎だよ!相手が居ないとやりづらいからね」
二人は手を取り合って喜びあっていた。何度も二人で飛び跳ねるところの何と尊いシーンだことか。
その後、俺たちは立て続けに寛之の障壁魔法、洋介の雷の精霊魔法、武淵先輩の重力魔法の詳しい説明を聞いた。
「よし、お前たちで一度模擬戦をやるぞ」
俺たちが鍛冶場に入るとそこでは何やらロベルトさんが急がしそうにしていた。ロベルトさんは鍛冶場に入って来た俺たちに気付いたのか、話しかけてくれた。
「お前さんら、こんなところに何の用だね?」
「ウィルフレッドさんの所で武器や防具を選んで来いと言われたのだけれど」
武淵先輩がいち早くその質問に明瞭な声で答えた。そして、それを聞いたロベルトさんは顎髭を右手でさすっていた。
「そういうことか。分かった。お前さんらの冒険者ランクは銅だったな。なら、この辺りにある奴から好きな奴を選ぶんじゃ」
「ロベルトさん!質問です!」
「何の質問じゃな?」
突然、茉由ちゃんがロベルトさんの指示の後、元気よくロベルトさんに質問をした。
「何か冒険者ランクって武器とか防具を選ぶことに何か関係があるんですか?」
「ああ、それはあるぞ。お前たちの階級は銅だから武器と防具も銅製のものに限られるんじゃよ」
……という事は青銅になれば、俺たちも青銅の装備が使えるってことか。
「ただし、銀と金、白金は別じゃ。銀はアダマンタイト製、金と白金はオリハルコン製の武器を使うんじゃよ。まあ、そんなことは今はどうでもいいじゃろうがな。とにかく武器を早く選んでおくれ」
「はーい!」
俺たちは金属が擦れる音を立てさせながら装備を選んだ。だが、全然決まる気配がない。それもそうだ。どういう武器が使いやすいのかとかも全く知らないのだから。
「それはそうとお前さんら、着替えてきたらどうじゃ?」
「……え?」
俺たちはお互いの服装を見て納得した。この世界に来た時に着ていた服のままだ。
「マスターの部屋の向かいの部屋に着替えがあるはずじゃ」
「何で着替えが?」
俺がロベルトさんに聞いてみるとこういう事だった。
昨日、俺たちの住む場所をラウラさんと探し回っている間にミレーヌさんが俺たち全員分の服を買ってきてくれていたらしい。
俺たちはすぐにその部屋に向かった。そして、ロベルトさんから聞いた通り服が一式置いてあった。そして、男女のどちらが先に着替えるのかという話になった。話し合いの結果、女性陣が先に着替えることになった。
「絶対覗いちゃダメだからね!」
俺たちは当たり前のことなので快~く了承した。
それから俺たちはドアの前の廊下で待っていた。俺は鍵穴と向き合い、寛之は壁際に座り込み、洋介は壁にもたれかかっている。
俺は洋介の方へと歩いて近づいた。
「直哉?どうしたんだ?」
俺は訳が分からなそうにしている洋介に耳元であることを囁いた。
「ああ、分かった」
洋介はそう言って大きく頷いた。そして、雷の精霊を呼び出した。
俺は右手の中に洋介の雷の精霊を持って鍵穴の所に近づいた。そして、鍵穴から中へと侵入してもらった。先ほど精霊に鍵穴に入れる大きさになれるのかどうか聞いてみた所、別に問題はないらしかった。なので、入ってもらった。
彼に与えた仕事は二つ。『部屋の鍵を入手し、開錠すること』と『ドアノブを回して押せば開くようにしておくことだ』
「まずは鍵を手に入れておくんだったYOな」
精霊はそう言って俺の視界から消えた。視界と言っても鍵穴から覗いているのだが。ここの鍵は外と内の両方から開けるので覗くと中が見えるようになっている。そして、開けるには内側の鍵を開けなければならないのだ。
「あったYO!」
そう言って精霊は鍵穴の向こうから見せてくる。俺は静かに頷き返した。
すると、視界が真っ暗になった。精霊が鍵を差し込んだのだろう。すると、微かにカチャリという音がした。そして、ドアノブが回った。どうやら上手くやってくれているようだ。
「寛之!ちょっとこっちに来てくれ!」
「直哉、どうかしたのか?」
寛之はマヌケにもこちらへと近づいてきた。
「ここを見てみてくれ」
俺は鍵穴を指さしながらそう言った。寛之は何も言わずに鍵穴を覗き込んだ。そして、俺は何も言わずにじっとその時が来るのを待った。そして、その時はやって来た。
「直哉!まさかお前、さっきから向こうを……!」
「そ~れ!」
俺は寛之を軽くドアの方へ押した。すると、寛之はドアの方へと倒れこんだ。ドアは寛之がぶつかった衝撃で開いた。そして、寛之は無様にも倒れこんだ。
「いてて……ヒエッ!」
寛之が顔を上げるとそこには鬼の形相をした3人がいた。
「最ッッッ低ッッッ!」
「へぶう!?」
寛之は3人にボコボコにされて廊下へ放り出された。そして、扉が大きな音を立てて閉まった。ちなみに精霊は寛之がボコられている間に洋介がこっそりと呼び戻した。それから少しして、再び扉が開いた。そして、紗希が真っ直ぐに俺の所にやって来た。
「先輩を中に入れたの兄さんでしょ?」
「な、何を言い出すかと思えば……」
俺は気まずいので天井を見上げた。
「今ので分かったよ。真犯人は兄さんだね。兄さんは逆さ吊りの刑だね」
「お、おい!ちょっと待っ……」
……マズい!何とかしなければ……!
「あら?どうかしたの?」
そこへ運よくミレーヌさんが通りがかった。
「ミレーヌさん、実は……」
「嘘はダメよ♪女の子の着替えを覗いた悪い子にはお仕置きしないとね」
まるでミレーヌさんには俺が覗いたことがバレてるような……?
「『何で分かったんだ』って顔してるから先に行っておくけど、私の魔法は“嘘を見抜く”魔法なのよ」
「オーマイガー……」
こうして俺は紗希たちが着替えていた部屋で1時間ほど紗希の残り香を堪能しながら逆さ吊りの刑に服したのだった……。
――――――――――
「はあ、ヒドイ目に合ったもんだ……」
「それは兄さんが変なことするからでしょ?」
俺たちは今ギルドの地下の訓練場にいる。
あの後、武器や装備は全員選ぶことが出来た。
俺は皮鎧を着て、左手に銅製の小型の丸盾を取り付けた。そして、武器はというと銅製のサーベルを2本腰に差している。そして、紗希に薦められるままに手袋も付けた。
そして、紗希の装備はというと俺と同じ皮鎧に銅製のサーベル1本だけだ。全身を守る鎧を薦めたのだが、本人的に身軽な方が好みなんだそうだ。
寛之はというと胸と肩の部分だけ銅製の金属板が付いていて後は布のブレストプレートを着ていた。武器は右手に持っている身長と同じくらいの長さの木製の杖。しかも、イキった主人公のようにマントを羽織っている。……ボロいけど。
茉由ちゃんはというと胸当てだけが銅製のブレストプレートを身に着けている。武器は片手剣を腰に差している。ちなみにサーベルとショートソードの違いは刃だ。サーベルは片方にだけ刃がついている。ショートソードは両方についているのだ。
そして、洋介はというと騎士のように金属板が全身を覆うフルプレートアーマーを装備しており、防御に重点を置いたものになっている。武器はと言えば、斧槍だ。長さは3メートル近くあるだろうか。なので、攻撃範囲が俺たちの中で最も長い。本人は何か作ってほしいものが有るらしいが、ロベルトさんに却下されていた。
武淵先輩は女性陣の中でも一際豪華な感じだった。鎧はドレスのようなものだ。名前はそのままドレスアーマーと言うらしい。一応捲れにくいように硬めの布を使用しているとのことだった。そして、武器は槍だ。長さは大体2.5メートルほど。
とまあ、俺たちの装備はこんな感じだ。そして、俺たちがここにいるのは魔法についてウィルフレッドさんからより詳しく聞くためだ。
「よし、まずは直哉の付加術から話すとしようか」
ウィルフレッドさんの話をまとめるとこうだ。
付加術は物質や生物に魔法効果を付加するものらしい。同じ系統に付与魔法が有るらしいのだが、それとの決定的な違いは時間だという。付与魔法は威力だけならば、付加術より高いものの何より時間がかかる。そのため戦闘中での使用は不可。戦闘に使いたいのなら事前に付与しておく必要があるらしい。ちなみに、付加術を使うものは付加術士と呼ばれるのだそうだ。
付加術はその逆で威力は付与魔法に劣るが時間がかからないため戦闘中に付加し直したりと、相手によって戦い方を変えられるのだそうだ。随分便利だな。
「次は紗希の魔法についてだな」
続いて紗希の敏捷強化魔法についての説明が始まった。話をまとめるとこうだ。
敏捷強化魔法は自らの動きを早くすることが出来る魔法でまさに戦闘向きの魔法だ。他にも移動や偵察にも使ったりするのが一般的なのだそうだ。
「紗希、高速戦闘とか出来るんじゃないのか?」
「それもそうだね。一撃離脱戦法とかに使えるね!ボクの剣技も十二分に発揮できるよ」
おそらく俺たち六人の中では我が妹は間違いなく一番強いだろうな。この中で武術とかそういったことをやったことがあるのは紗希だけだからな。
「その言い草から察するに、紗希は剣を扱ったことがあるのかね?」
「あ、はい!あります!」
ウィルフレッドさんは目を輝かせていて、何だか興味津々だ。
「よし、魔法の説明は後だ。お手並み拝見と行こうじゃないか」
……まさかまさかのこの流れで勝負ですか。ウィルフレッドさん……!
「実際に剣を扱ったことは?」
「無いですけど、木刀なら扱ったことあります!」
それを聞いて、ウィルフレッドさんはゆっくりと首を縦に振った。
「よし、そのサーベルで大丈夫かね?」
ウィルフレッドさんの問いに答えるように紗希は腰からサーベルを引き抜いて空を斬った。
「大丈夫です!」
「よし、じゃあ、先手は譲ろう。どこからでもかかってくると良い」
「分かりました!」
そう言って紗希は強く踏み込んでウィルフレッドさんとの間合いを詰めた。俺たちはその様子を見て驚いていたのだが、ウィルフレッドさんは表情一つ変えずに突っ立っていた。傍から見れば、気付いていないだけではないかと思っても仕方ないだろう。
紗希はウィルフレッドさんの背後に回っていた。そして、サーベルを首筋目がけて目にも止まらぬ速さで振り下ろした。俺たち素人の目線で見れば、確実に『決まった!』と思った。しかし、ウィルフレッドさんはそれを一瞥することもなく右手でサーベルの腹……つまり刃じゃない横の部分をつかみ取っていた。
「……実力のほどは分かった。剣技だけなら鋼ランクにも通用するだろうな」
ウィルフレッドさんは淡々と話しているが、紗希の表情は引き攣っていた。恐らくこうもあっさりと止められるとは思わなかったのだろう。でも、ウィルフレッドさんは白金ランクだ。むしろ、これで紗希が勝っていたらそれこそ大問題だろう。
だが、紗希は少なからずショックを受けただろうから、後で慰めてあげよう。
「紗希、君は今何才だったかね?」
「……16です」
紗希が消え入りそうな声で答えた。ウィルフレッドさんは紗希の前で片膝をつき、目線を落とした。
「そうか。私は16才でこれほどの剣技の者は見たことが無い。だから、自信を持ってほしい」
「……はい!」
ウィルフレッドさんは娘を諭す父親のような雰囲気を漂わせていた。紗希は瞼から今にも零れ落ちそうになっている涙を手で拭った。
「悔しいという感情を忘れるんじゃないぞ。これを糧に強くなれ。またいつでも相手をしてやる。出直してこい」
どうやら、俺が慰めてやる余地は無さそうだな。
「お前たち5人もいつでも相手してやるからな」
ウィルフレッドさんは俺たち一人一人の目を順番に見つめてからそう言った。俺たちはウィルフレッドさんの新たな一面を見れたことが何だか嬉しかった。
「そうだ、話が逸れたが次は誰の魔法の説明をする?」
「あ、私の魔法剣について教えてほしいです!」
茉由ちゃんが勢いよく手を挙げて名乗り出た。
「氷属性の魔法剣は剣に冷気を纏わせるものだ。近距離なら斬りあう、少し間合いがあるなら氷の刃を飛ばすのが一番無難だろうな」
「なるほど……」
茉由ちゃんはそう言って右手を顎に当てて考える仕草をした。
「どうかしたのか?」
「いえ、剣とか使ったことないからどうしようかと」
ウィルフレッドさんはそれを聞くとクスクスと笑い始めた。
「それだったら紗希に教わればいいじゃないか」
茉由ちゃんは『いいの?』と尋ねるように右隣にいる紗希の顔を見つめた。紗希はそんな茉由ちゃんを見て笑顔を返した。
「ボクは大歓迎だよ!相手が居ないとやりづらいからね」
二人は手を取り合って喜びあっていた。何度も二人で飛び跳ねるところの何と尊いシーンだことか。
その後、俺たちは立て続けに寛之の障壁魔法、洋介の雷の精霊魔法、武淵先輩の重力魔法の詳しい説明を聞いた。
「よし、お前たちで一度模擬戦をやるぞ」
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