日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~

ヌマサン

第20話 世界は変われど陽はまた昇る

「……なるほどな。そんなことがあったわけか」

俺と寛之は今、一階の入り口に座って夜風に当たっている。

「ああ。結局10年前のこともちゃんと言えてなくてな。今度会った時に言おうと先延ばしにし続けているうちに呉宮さんはいなくなってしまった。もし、呉宮さんがこの世界にいるというのなら、俺は呉宮さんを見つけ出さなければならないんだ」

寛之はじっと俺の話を聞いていた。寛之は何だかんだで人の話を聞くのが上手い。そんなことは俺には絶対にできない芸当だ。

「……直哉、次会ったらちゃんと10年前のこと、本人に直接伝えろよ」

「ああ、そうだな」

俺は暗い空に一際ひときわ輝いて見える月を見上げた。

「……それじゃあ、僕は先に寝るからな。気が済んだらお前も早く寝ろよ。明日は早いからな」

「ん?明日って何かあったか?」

「……お前ってホント話聞いてないよな。明日は僕たちの住むところを探しに行くってミレーヌさんが言ってただろ……」

……言われてみれば言っていたような気もするな。

「分かった。それなら俺も早い所寝ることにするか」

俺は寛之の後ろについて階段を上る。そこまで広くはないが、このウィルフレッドさんの家には二階がある。壁づたいに左に二回曲がると廊下の左右に部屋が二つずつあった。

「……右の奥がミレーヌさんの部屋で、その向かい側、左奥の部屋がラウラさんの部屋だ」

「……そうなのか?」

……寛之のやつ、やけに詳しいな。まさか自分で調べたんだろうか。いや、寛之に限ってそれはないか。

「……どうかしたのか?」

「ああ、いや、やけに詳しいなと思ってな」

俺がそう言うと、寛之は自慢げにこう言った。

「……ミレーヌさんからそう聞いていたからな」

……だろうな。予想通りだ。

「……ちなみに、洋介は左の手前の部屋で寝ると言ってたからな」

何故だろう。何だかこれから嫌なことが起こりそうな気がする。

「……というわけで右の手前の部屋が僕と直哉の部屋だ」

「寛之。ベッドはもちろん二つあるんだよ……なあ?」

まさか一つだという事は無いだろうが、念のために聞いておこう。

「いや、一つだ。僕だって不本意何だからな。我慢するのはお互い様だ」

そう言って寛之は部屋の入口へと俺を後ろから押した。

「うわなにをするくぁwせdrftgyふじこlp」

「僕は熊とトラとチワワ100匹を放った覚えはないんだがな……」

俺たちが部屋の入り口で騒いでいると、俺たちの左……つまりミレーヌさんの部屋の方からドアが開く音がした。さらに、その方向からこちらへ向かってくる足音がする。

「二人のどちらか、私の部屋に来ないかしら?」

「じゃあ、僕が行きます!」

寛之は凛とした顔でそう言った。

何にせよ、ミレーヌさんの提案は渡りに舟だった。そうでなければ、俺が寛之と一つのベッドで寝るという生き地獄を味わうことになるところだった。いや、待てよ。このままいけば寛之とミレーヌさんが同じ部屋で……!このままいけば間違いなく寛之のやつが何かを卒業するんじゃないのか!?急いで止めなくては!

しかし、俺が止めようとしたときには、すでに寛之はミレーヌさんに言われて部屋へ入って行った後だった。そして、その後すぐにミレーヌさんが荷物を持って部屋を出ていくのが見えた。

「どういうことだ……?」

てっきり二人が一緒の部屋で寝るものだと思っていたんだが、どうやら違ったようだ。寛之もそのつもりでついて行ったんだと思うが……。

ミレーヌさんは向かいのラウラさんの部屋へと入って行った。まあ、入った瞬間ラウラさんの悲鳴が聞こえて来たのだが、俺は聞かなかったことにして部屋で眠りについた。

「何があったのかは明日にでも寛之から聞けばいいか」

――――――――――

俺が目を覚ますと窓の外はまだ暗かった。しかし、眠気は無かったのでそのまま起きて廊下へ出た。

「誰も起きてないようだな」

廊下は静寂に包まれており、足音を立てないように細心の注意を払って階段を下りた。

やはり一階は静かで誰もいなかった。

「そういえば、この奥には何があるんだ?」

何故だか分からないが、何だか探検をしたくなった。俺は依然として足音に注意して奥へと進んだ。進んでいくうちにドアを見つけた。俺はゆっくりと近づき、ドアを慎重に開けた。

「ここは……」

どうやら庭のようだ。真ん中には井戸もある。いつも、ここで水を汲んだりするのだろうか?

「兄さん、こんな所で何してるの?」

「うわ!び、びっくりした……何だ紗希か。驚かすなよ……!」

俺が慌てて後ろを振り向くと、紗希がドアの所から顔を覗かしていた。

ホント、心臓が飛び出るかと思った。

「兄さん、何が『何だ紗希か』よ!」

「それはごめん。まさか誰か来るとは思わなかったんだよ」

いやあ、ホント幽霊でも出たかと思ってしまった自分が恥ずかしい。

「それより、紗希は何でこんな所に?」

「えっと、夜風にでも当たろうかと思って上に上がって来たの。そうしたら兄さんが抜き足差し足で奥に進んでいくのが見えたから気になっちゃって」

……なるほどな。俺が奥に入って行くのを見ていたのか。

「そうだったのか。俺も何だか目が覚めてしまってな。それで探検がてらここへ来たってわけだ」

「……そうだったんだね」

紗希が首を縦に小刻みに振りながら、ポツリと呟いた。

「一体俺が何をすると思ってたんだよ?」

「……夜這いとか?」

紗希はクスクスと笑いながら俺に素直に思ったことを告げた。

「失敬な!俺がそんなことするわけないだろ?」

「知ってるよ。冗談だよ」

俺は紗希と笑いあった。

……出来るだけ静かに。

「ねえ、兄さん」

話している最中に突然、紗希に服の袖を引っ張られた。

「どうした?紗希」

「兄さんの部屋に行ってもいい?」

紗希が突然、何を言い出すのかと身構えたが、一気に力が抜けた。

「それは全然いいが、どうかしたのか?」

「それは……まだ言えない」

うーん、紗希は俺の部屋に来て何をする気なのだろう?

俺はそのことで頭がいっぱいになったが、とりあえず、俺は紗希と部屋へと戻って来た。紗希は俺の部屋に入るなり、窓の方へと走って行った。

「それは何か窓に関係があることか?」

「そうだよ。それより、早く隣に来て」

そう言って紗希は俺を手招きしている。俺はそれに従って紗希の隣に立った。隣にいる紗希はじっと窓の外を眺めている。そして、その意味はすぐに分かった。いや、分かってしまった。

「綺麗だ……」

そう、日の出だ。紗希はこれの事を誰かから聞いていたのだろう。

「綺麗ってボクの事?」

そんなことを聞いてきた紗希はニヤニヤしていた。からかっているだろうことは容易に想像できた。ここは兄として、紗希の予想を超える必要がある!

「そうだな。紗希は綺麗だよ」

いつもの俺ならはぐらかすところだが、あえて素直に言っておくのが良さそうだ。そして、リアクションは『に、兄さん、何言って……!』って感じだろう。

「……プッ!」

紗希は予想外にも笑っていた。

「紗希?何がそんなにおかしいんだ?」

ダメだ。考えてみてみたが、紗希が何故笑っているのか全く分からない……。

「別にあまりにも予想通りの回答だったから……!」

そう言いながら、紗希は腹を抱えて笑っている。俺は少し紗希が落ち着くのを待つことにした。まさかとは思うが、紗希に考えを見抜かれていたのだろうか?

「待たせてごめんね、兄さん」

「いや、それは良いんだが、俺の答えが"予想通り"っていうのはどういうことだ?俺の心でも読んだのか?」

俺はまくしたてるように質問を叩き込んだ。

「兄さんの考えって顔に出やすいから顔見たら大体の見当はつくよ」

紗希は間も開けずにそう答えた。……ていうか、俺そんなに顔に出てるのか……?

「そうか、それならそうで、できる限りで考えを顔に出さないように気をつけるようにしよう」

「それが良いと思う」

そうやって俺と紗希が話してると、ドアをノックする音がした。

「はい!どちら様ですか?」

紗希は小走りでドアの方へと走っていった。

「……紗希ちゃんがいたのか。……っとそれより直哉はいるか?」

「いますけど、兄さんに何か用事ですか?」

ドアの方から会話が聞こえてくる。声から察するに寛之が来たのだろう。

「兄さん!」

突然、紗希に呼ばれたので顔を上げてドアの方を見てみる。

「紗希、どうかしたのか?」

「先輩たちが部屋に入ってもいいか聞いてるよ!」

先輩たち……??あ、何となくわかったぞ。

「全然それは大丈夫だが」

「それじゃあ、入れるね!」

そう言って紗希はドアを開けて四人を招き入れた。

「……直哉、おはよう」

「紗希ちゃん、おはよ!」

「直哉、おはよう!」

「二人ともおはよう」

四人というのは順番に寛之、茉由ちゃん、洋介、武淵先輩だ。ここに日本人六人が揃ったことになる。

「四人とも何のようだ?」

「……僕以外の三人が朝日を見たいって押しかけて来たんだが、僕の部屋の窓は修理中で木の板が打ち付けてあって外が見れないんだ」

寛之はここに来ることになった経緯を話してくれた。このことで状況は理解できた。

「分かった。それじゃあ、狭いけど皆で見るか」

俺たち六人は狭い窓から朝日を眺めて優雅に時間を過ごした。

俺は朝日を見て綺麗だと思った。しかし、俺には何か欠けたような美しさを感じた。俺はこの欠けたものを埋められるようにしないといけない。そのためにやれることはすべてやろう。そういうことを改めて決意した瞬間だった。

「世界は変わっても夜は明けるんだよな」

俺は感慨深げにそう呟いた。

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