日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~
第16話 いざ、ボウケンへ!
「うっ……こ、ここは……?」
気が付くと泉の畔のような場所にいた。周りの壁は灰色の石壁で下は茶色い土だ。俺の横を見てみると、俺のすぐ右には紗希、その反対側には茉由ちゃんがいた。二人の口元に手を当ててみる。息はしているようだ。どうやら二人とも気を失っているだけのようだ。
俺は立ち上がって、びしょびしょに濡れたズボンのポケット手を突っ込む。何やら違和感を感じた。入れていたスマホがないのだ!
「……しまった、財布もない!」
まさか、あの大量の水に流されてしまったのだろうか。もしそうならば、探すことは無理そうだ。目の前の泉を覗いてみたが、底が見えない。潜って探すにしてもまた罠に嵌ったら厄介だ。
何か出口とかがないのかもう一度辺りを見回してみたが、それらしいものは1つも見当たらない。しかし、泉の真上に大きな穴が開いている。おそらく、あそこから水と共に落ちてきたのだろう。逆にそこからなら出られるかもしれないが、水の上を歩けるようなやつしか無理だ。
「……ん?何だ?」
俺は少し離れた所に何かが書いてあるのが見えた。
「何だこれ……」
近づいてみると何かの模様が書いてある。見たこともない文字と共に。
「兄さん……?どうかしたの?」
「ああ。地面に変な模様が……って紗希!?気が付いたのか!」
後ろから突然、紗希が現れた。どうやら気が付いたらしい。
「うん、ついさっきね。それに茉由ちゃんも気が付いてるよ」
茉由ちゃんはおとなしく俺が気が付いた辺りにおとなしく座っているのが見えた。
「そうか……それなら良かった」
とりあえず、全員無事だった。それは良かったのだが……
「兄さん、それって魔法陣?」
紗希の指を指した方向にはさっき見つけた変な模様があった。
「さあな。俺にもさっぱり分からん。もし、仮にこれが魔法陣なのだとしたら、ゲームみたいにどこか別の場所などに移動したりしそうなものだが……」
もし、ゲームだったら迷わず入るところだが、生憎これは現実に起こっていることだ。慎重に行動しなければならない。
「先輩も紗希ちゃんも一体何の話をしてるんですか?」
茉由ちゃんもこっちにやって来た。さすがに一人でじっとしているのも退屈だったのだろうか。
「これの話をしてたの」
「これ?」
茉由ちゃんはそう言って変な模様の書かれた地面を指さした。
「そうそう。兄さんと何かゲームとかに出てきそうな感じだよねって話してたとこ」
「そうだったんだ。でも、こういうのって意外と何も無かったりして……」
そう言って茉由ちゃんがその模様に触れた瞬間。突如としてその模様が光り輝いた。俺は周囲が暗いため、その光が余計に眩しく感じて目を閉じた。輝きが収まったと同時に俺が目を開けるとそこに茉由ちゃんの姿はなかった。
「兄さん!茉由ちゃんが……!」
「紗希、まさか……!」
俺がそこまで言うと紗希は首を縦に振った。それだけで俺は状況を理解できてしまった。
「茉由ちゃんが消えた。この模様……魔法陣の中に」
魔法陣。数多のラノベ主人公を異世界へと誘う物。まさか現実でお目にかかれるとは思わなかったが。
「兄さん……?」
「……ああ、何でもない。とにかく茉由ちゃんを追いかけよう」
俺にはどうしても茉由ちゃんをそのまま放っておくわけにはいかなかった。
恐怖の感情を抑えてそっと魔法陣に足を踏み入れる。踏み入れると茉由ちゃんの時と同じように魔法陣が光り輝いた。
「……っ!」
だんだんと視界が歪んでいくのが分かった。それと同時に乗り物酔いにでもなったかのように気分が悪くなった。俺はそんな中でいつの間にか意識を失った。
――――――――――
「ここは……」
俺が目を開けたそこは遺跡に入った時に最初に通った部屋だ。途中の部屋はほとんど覚えていないが、この最初に通ったこの部屋とあの階段が強く記憶に残っている。
「あ、先輩!気が付いたんですね!」
「茉由ちゃん!無事だったか……!」
体を動かして起き上がろうとすると、茉由ちゃんが俺が動いたことに気が付いたようだ。声をかけてきてくれた。お互い無事だったことを確かめたのもつかの間だった。
「紗希を置いて来てしまった……!どうしよう……!」
俺が動揺を隠せないでいると、突然視界が暗くなった。
「茉由ちゃん!?こんな時にいたずらするのはやめてくれ……ってあれ?この匂いは……もしかして紗希か!?紗希なのか!?」
俺がそう叫ぶと視界が明るくなった。
「匂いでボクだって分かるんだね……」
俺が振り返ると、そこには予想通り紗希がいた。
「やっぱり先輩は変態シスコンだ……!」
茉由ちゃんは口元に手を当てて一歩また一歩と後ろへと下がっていく。
「いや、そんなにひくほどの事か……?」
「兄さん、普通に臭いでボクだって分かるの兄さんだけだと思う」
「いや、褒めても何も出ないぞ」
「褒めてないから」
紗希に見事なツッコミを入れてもらった後、俺は紗希にいつの間にこっちに来ていたのかを聞いたりした。
「そうなのか……?そういえば紗希は昔から乗り物酔いとか全然ならないもんな」
どうやら紗希はあの乗り物酔いのような気分の悪さに遭うことがなかったから俺より先に目を覚ますことが出来て、活動できたわけか。
「それでね兄さん。この遺跡の外に出てみない?もしかしたら入り口に戻って来ただけかもしれないし」
「ああ、そうだな。ここでじっとしてても仕方がない。茉由ちゃんは動けるか?」
俺は紗希の隣で固まったままの茉由ちゃんに声をかけた。
「……あ、大丈夫です!まだまだ動けます!」
何やら茉由ちゃんが上の空になっていたようだが、今はその事は置いておくとしよう。
とりあえず、俺たちは下り階段の反対側にある荘厳な雰囲気を漂わせている大きな扉の前へと移動した。扉は両開きだった。
「兄さん、ボクが左を開けるから茉由ちゃんと二人で右をお願い」
「おう、分かった」
俺たち三人はそれぞれ配置に付いた。
「「「せーのっ!」」」
そして、タイミングを合わせて一気に扉を押した。すると、大きな音を立てて扉が開いた。
「ふう……。重かったけど思ってたほどじゃなかったな」
「そうですね。でも、私一人じゃ絶対無理でした」
口では余裕だったように言ったが、実はかなりきつかった。俺は何事もなかったかのように平然としている紗希を見て思った事が一つだけある。どうやら茉由ちゃんも俺と同じことを思ったようだった。
「私と先輩、二人で押して開けた扉を一人で開けちゃう紗希(ちゃん)って……!」
いや、俺も茉由ちゃんも力がないだけだと言われればそれまでの話なのだが、少なからず紗希の力には俺と茉由ちゃんを合わせても敵わないという事だけは分かった。
それはさておくとして俺は外を見回して確信した。
「マジで異世界に来てしまったのか……!」
そう、ここが異世界であるという事を。
遺跡を出た時にはすでに日が傾いていた。そこは草木がうっそうと茂る森だった。
「兄さん、ここってやっぱり……!」
「異世界だろうな。少なからず日本ではないな」
紗希もやはり信じられないといった様子だ。一方の茉由ちゃんはと言えば、何やら考え事をしているようだ。何となく聞くのも気が引けるので俺には聞くことはできないでいた。
すると、いきなり茉由ちゃんに横から軽く肩を叩かれた。
「茉由ちゃん、どうしたんだ?」
俺がどうしたのか尋ねると、茉由ちゃんは茂みの方へ指を指した。
「あの茂みの向こうに泉っぽいものが見えるんですけど……」
俺は茉由ちゃんが指を指した方角へと目線を移す。確かに泉らしきものは見える。本当に泉なのかはまだ分からないが。
俺が行くべきか、それとも行くべきではないか迷っていると、茉由ちゃんはすでに泉?の方へと歩き始めていた。
「マジで泉に行くつもりなのか?」
俺がそう問いかけると茉由ちゃんは静かに頷いた。
「それに、こんな所でじっとしてても仕方がないですから」
……確かに茉由ちゃんの言う通りだ。こんな所でじっと考えていても仕方がない。
「よし、行くか!」
俺は数歩歩いて所で立ち止まり、後ろを振り返った。
「紗希!」
紗希は半信半疑で警戒していたが、『兄さんが行くのなら』と付いて来てくれた。
俺と紗希も早歩きで泉?の方へと進んだ。泉ではすでに茉由ちゃんが足をつけてパシャパシャと水音をたてていた。
「泉……本物だったな。紗希」
「うん、疑って損したよ」
そう言ってから紗希は俺に耳打ちしてきた。
「……薪拾い?」
「うん、もうすぐで日も暮れちゃうし、焚き火用に薪を集めないといけないから」
まあ、薪はどうせ誰かが拾いに行かないといけないもんな。
「あと、兄さんが薪拾いに行ってる間に茉由ちゃんから話聞いてみるよ。何か悩んでるっぽかったから」
「分かった。それじゃあ、茉由ちゃんの事は任せた」
茉由ちゃんの事は先に任せて俺は薪を集めないとな。時間がないし、急ぐとするか。
――――――――――
そうして、紗希と別れてから30分ほど経過した。
「だいぶ薪は集まったな」
本音を言えば、松ぼっくりがあると火が付きやすいので超が付くほどありがたかったのだが。
「そろそろ戻らないとな」
もう日が暮れて足元も見えないほど暗い。慎重に来た道を引き返す。来るときにわざと枯葉をきれいに道の真ん中に寄せながら来たのだ。
風で多少散ってしまってはいるが、何とか泉の近くまで戻ってこれた……と安心していたのもつかの間。
突然、女性の悲鳴が聞こえてきた。それも泉の方から。瞬時に俺は悟った。
「まさか、紗希と茉由ちゃんに何かあったんじゃ……!」
そう思うと居ても立っても居られなかった。とにかく夢中で来た道を走った。
草むらを抜けて泉のところまで出てみると、泉のちょうど反対側で怪物に襲われようとしている一糸まとわぬ姿の紗希と茉由ちゃんがいた。二人とも泉に浸かっている。
おそらく、汗やら砂やらを俺がいない間に流してしまおうという話にでもなったのだろう。そして、怪物はイノシシのような牙が生えている口からよだれのようなものを垂らしながら、手に持っている槍のようなものを地面に置き、二人を追って泉に入ろうとしている。
二人は裸だ。だが、今気を付けるのはそこじゃない。とにかく助けに行かないと!
「紗希!茉由ちゃん!」
俺は岸から二人の名前を大声で呼んだ。
「兄さん!」
「先輩!」
二人とも俺に気付いてくれたようだ。一方、怪物は俺を一瞥したものの、別段気にかける様子もなくどんどん二人に近づいていく。
俺は急いで泉に飛び込んだ。しかし、服を着たまま飛び込んだのは失敗だった。服が水を吸って重くなっていくのが分かる。それでも何とか二人の元まで泳ぎ着いた。
「……二人とも大丈夫か?」
呼吸を整えながら二人に問いかける。様子を見る限り、息遣いが荒い。疲れている様子も見て取れる。二人とも怖かったのか、頬と目の縁に泣いた痕跡がまだ残っていた。
「あの、先輩。あまりじろじろ見ないで貰えますか?」
「あ、ああ……すまん」
二人とも見られたくない場所を手と腕でガードしている。しかし、俺たち三人が話している間にも怪物はどんどん距離を縮めてきていた。
「二人とも俺より後ろに下がってくれ」
二人とも何も言わずに俺の後ろに隠れた。俺が怪物との間にいるだけでもさっきよりも二人は安心だろう。しかし、俺にはこの状況を打開できるものは何もない。だが、無いからという理由だけで諦めるわけにはいかなかった。無くても何とかしなければならないのだ。
一番ありがたいのはここで急に何かの力に目覚めてハイ終了という展開だが、そんなことが起こるとは到底思えない。
怪物は勝ち誇ったように俺たちに近づいてくる。時間がない……でも、どうすればいいんだ……!
「おや、そこのお三方。困っているようだな」
そんな時、この状況を打開してくれる救世主が現れた。
気が付くと泉の畔のような場所にいた。周りの壁は灰色の石壁で下は茶色い土だ。俺の横を見てみると、俺のすぐ右には紗希、その反対側には茉由ちゃんがいた。二人の口元に手を当ててみる。息はしているようだ。どうやら二人とも気を失っているだけのようだ。
俺は立ち上がって、びしょびしょに濡れたズボンのポケット手を突っ込む。何やら違和感を感じた。入れていたスマホがないのだ!
「……しまった、財布もない!」
まさか、あの大量の水に流されてしまったのだろうか。もしそうならば、探すことは無理そうだ。目の前の泉を覗いてみたが、底が見えない。潜って探すにしてもまた罠に嵌ったら厄介だ。
何か出口とかがないのかもう一度辺りを見回してみたが、それらしいものは1つも見当たらない。しかし、泉の真上に大きな穴が開いている。おそらく、あそこから水と共に落ちてきたのだろう。逆にそこからなら出られるかもしれないが、水の上を歩けるようなやつしか無理だ。
「……ん?何だ?」
俺は少し離れた所に何かが書いてあるのが見えた。
「何だこれ……」
近づいてみると何かの模様が書いてある。見たこともない文字と共に。
「兄さん……?どうかしたの?」
「ああ。地面に変な模様が……って紗希!?気が付いたのか!」
後ろから突然、紗希が現れた。どうやら気が付いたらしい。
「うん、ついさっきね。それに茉由ちゃんも気が付いてるよ」
茉由ちゃんはおとなしく俺が気が付いた辺りにおとなしく座っているのが見えた。
「そうか……それなら良かった」
とりあえず、全員無事だった。それは良かったのだが……
「兄さん、それって魔法陣?」
紗希の指を指した方向にはさっき見つけた変な模様があった。
「さあな。俺にもさっぱり分からん。もし、仮にこれが魔法陣なのだとしたら、ゲームみたいにどこか別の場所などに移動したりしそうなものだが……」
もし、ゲームだったら迷わず入るところだが、生憎これは現実に起こっていることだ。慎重に行動しなければならない。
「先輩も紗希ちゃんも一体何の話をしてるんですか?」
茉由ちゃんもこっちにやって来た。さすがに一人でじっとしているのも退屈だったのだろうか。
「これの話をしてたの」
「これ?」
茉由ちゃんはそう言って変な模様の書かれた地面を指さした。
「そうそう。兄さんと何かゲームとかに出てきそうな感じだよねって話してたとこ」
「そうだったんだ。でも、こういうのって意外と何も無かったりして……」
そう言って茉由ちゃんがその模様に触れた瞬間。突如としてその模様が光り輝いた。俺は周囲が暗いため、その光が余計に眩しく感じて目を閉じた。輝きが収まったと同時に俺が目を開けるとそこに茉由ちゃんの姿はなかった。
「兄さん!茉由ちゃんが……!」
「紗希、まさか……!」
俺がそこまで言うと紗希は首を縦に振った。それだけで俺は状況を理解できてしまった。
「茉由ちゃんが消えた。この模様……魔法陣の中に」
魔法陣。数多のラノベ主人公を異世界へと誘う物。まさか現実でお目にかかれるとは思わなかったが。
「兄さん……?」
「……ああ、何でもない。とにかく茉由ちゃんを追いかけよう」
俺にはどうしても茉由ちゃんをそのまま放っておくわけにはいかなかった。
恐怖の感情を抑えてそっと魔法陣に足を踏み入れる。踏み入れると茉由ちゃんの時と同じように魔法陣が光り輝いた。
「……っ!」
だんだんと視界が歪んでいくのが分かった。それと同時に乗り物酔いにでもなったかのように気分が悪くなった。俺はそんな中でいつの間にか意識を失った。
――――――――――
「ここは……」
俺が目を開けたそこは遺跡に入った時に最初に通った部屋だ。途中の部屋はほとんど覚えていないが、この最初に通ったこの部屋とあの階段が強く記憶に残っている。
「あ、先輩!気が付いたんですね!」
「茉由ちゃん!無事だったか……!」
体を動かして起き上がろうとすると、茉由ちゃんが俺が動いたことに気が付いたようだ。声をかけてきてくれた。お互い無事だったことを確かめたのもつかの間だった。
「紗希を置いて来てしまった……!どうしよう……!」
俺が動揺を隠せないでいると、突然視界が暗くなった。
「茉由ちゃん!?こんな時にいたずらするのはやめてくれ……ってあれ?この匂いは……もしかして紗希か!?紗希なのか!?」
俺がそう叫ぶと視界が明るくなった。
「匂いでボクだって分かるんだね……」
俺が振り返ると、そこには予想通り紗希がいた。
「やっぱり先輩は変態シスコンだ……!」
茉由ちゃんは口元に手を当てて一歩また一歩と後ろへと下がっていく。
「いや、そんなにひくほどの事か……?」
「兄さん、普通に臭いでボクだって分かるの兄さんだけだと思う」
「いや、褒めても何も出ないぞ」
「褒めてないから」
紗希に見事なツッコミを入れてもらった後、俺は紗希にいつの間にこっちに来ていたのかを聞いたりした。
「そうなのか……?そういえば紗希は昔から乗り物酔いとか全然ならないもんな」
どうやら紗希はあの乗り物酔いのような気分の悪さに遭うことがなかったから俺より先に目を覚ますことが出来て、活動できたわけか。
「それでね兄さん。この遺跡の外に出てみない?もしかしたら入り口に戻って来ただけかもしれないし」
「ああ、そうだな。ここでじっとしてても仕方がない。茉由ちゃんは動けるか?」
俺は紗希の隣で固まったままの茉由ちゃんに声をかけた。
「……あ、大丈夫です!まだまだ動けます!」
何やら茉由ちゃんが上の空になっていたようだが、今はその事は置いておくとしよう。
とりあえず、俺たちは下り階段の反対側にある荘厳な雰囲気を漂わせている大きな扉の前へと移動した。扉は両開きだった。
「兄さん、ボクが左を開けるから茉由ちゃんと二人で右をお願い」
「おう、分かった」
俺たち三人はそれぞれ配置に付いた。
「「「せーのっ!」」」
そして、タイミングを合わせて一気に扉を押した。すると、大きな音を立てて扉が開いた。
「ふう……。重かったけど思ってたほどじゃなかったな」
「そうですね。でも、私一人じゃ絶対無理でした」
口では余裕だったように言ったが、実はかなりきつかった。俺は何事もなかったかのように平然としている紗希を見て思った事が一つだけある。どうやら茉由ちゃんも俺と同じことを思ったようだった。
「私と先輩、二人で押して開けた扉を一人で開けちゃう紗希(ちゃん)って……!」
いや、俺も茉由ちゃんも力がないだけだと言われればそれまでの話なのだが、少なからず紗希の力には俺と茉由ちゃんを合わせても敵わないという事だけは分かった。
それはさておくとして俺は外を見回して確信した。
「マジで異世界に来てしまったのか……!」
そう、ここが異世界であるという事を。
遺跡を出た時にはすでに日が傾いていた。そこは草木がうっそうと茂る森だった。
「兄さん、ここってやっぱり……!」
「異世界だろうな。少なからず日本ではないな」
紗希もやはり信じられないといった様子だ。一方の茉由ちゃんはと言えば、何やら考え事をしているようだ。何となく聞くのも気が引けるので俺には聞くことはできないでいた。
すると、いきなり茉由ちゃんに横から軽く肩を叩かれた。
「茉由ちゃん、どうしたんだ?」
俺がどうしたのか尋ねると、茉由ちゃんは茂みの方へ指を指した。
「あの茂みの向こうに泉っぽいものが見えるんですけど……」
俺は茉由ちゃんが指を指した方角へと目線を移す。確かに泉らしきものは見える。本当に泉なのかはまだ分からないが。
俺が行くべきか、それとも行くべきではないか迷っていると、茉由ちゃんはすでに泉?の方へと歩き始めていた。
「マジで泉に行くつもりなのか?」
俺がそう問いかけると茉由ちゃんは静かに頷いた。
「それに、こんな所でじっとしてても仕方がないですから」
……確かに茉由ちゃんの言う通りだ。こんな所でじっと考えていても仕方がない。
「よし、行くか!」
俺は数歩歩いて所で立ち止まり、後ろを振り返った。
「紗希!」
紗希は半信半疑で警戒していたが、『兄さんが行くのなら』と付いて来てくれた。
俺と紗希も早歩きで泉?の方へと進んだ。泉ではすでに茉由ちゃんが足をつけてパシャパシャと水音をたてていた。
「泉……本物だったな。紗希」
「うん、疑って損したよ」
そう言ってから紗希は俺に耳打ちしてきた。
「……薪拾い?」
「うん、もうすぐで日も暮れちゃうし、焚き火用に薪を集めないといけないから」
まあ、薪はどうせ誰かが拾いに行かないといけないもんな。
「あと、兄さんが薪拾いに行ってる間に茉由ちゃんから話聞いてみるよ。何か悩んでるっぽかったから」
「分かった。それじゃあ、茉由ちゃんの事は任せた」
茉由ちゃんの事は先に任せて俺は薪を集めないとな。時間がないし、急ぐとするか。
――――――――――
そうして、紗希と別れてから30分ほど経過した。
「だいぶ薪は集まったな」
本音を言えば、松ぼっくりがあると火が付きやすいので超が付くほどありがたかったのだが。
「そろそろ戻らないとな」
もう日が暮れて足元も見えないほど暗い。慎重に来た道を引き返す。来るときにわざと枯葉をきれいに道の真ん中に寄せながら来たのだ。
風で多少散ってしまってはいるが、何とか泉の近くまで戻ってこれた……と安心していたのもつかの間。
突然、女性の悲鳴が聞こえてきた。それも泉の方から。瞬時に俺は悟った。
「まさか、紗希と茉由ちゃんに何かあったんじゃ……!」
そう思うと居ても立っても居られなかった。とにかく夢中で来た道を走った。
草むらを抜けて泉のところまで出てみると、泉のちょうど反対側で怪物に襲われようとしている一糸まとわぬ姿の紗希と茉由ちゃんがいた。二人とも泉に浸かっている。
おそらく、汗やら砂やらを俺がいない間に流してしまおうという話にでもなったのだろう。そして、怪物はイノシシのような牙が生えている口からよだれのようなものを垂らしながら、手に持っている槍のようなものを地面に置き、二人を追って泉に入ろうとしている。
二人は裸だ。だが、今気を付けるのはそこじゃない。とにかく助けに行かないと!
「紗希!茉由ちゃん!」
俺は岸から二人の名前を大声で呼んだ。
「兄さん!」
「先輩!」
二人とも俺に気付いてくれたようだ。一方、怪物は俺を一瞥したものの、別段気にかける様子もなくどんどん二人に近づいていく。
俺は急いで泉に飛び込んだ。しかし、服を着たまま飛び込んだのは失敗だった。服が水を吸って重くなっていくのが分かる。それでも何とか二人の元まで泳ぎ着いた。
「……二人とも大丈夫か?」
呼吸を整えながら二人に問いかける。様子を見る限り、息遣いが荒い。疲れている様子も見て取れる。二人とも怖かったのか、頬と目の縁に泣いた痕跡がまだ残っていた。
「あの、先輩。あまりじろじろ見ないで貰えますか?」
「あ、ああ……すまん」
二人とも見られたくない場所を手と腕でガードしている。しかし、俺たち三人が話している間にも怪物はどんどん距離を縮めてきていた。
「二人とも俺より後ろに下がってくれ」
二人とも何も言わずに俺の後ろに隠れた。俺が怪物との間にいるだけでもさっきよりも二人は安心だろう。しかし、俺にはこの状況を打開できるものは何もない。だが、無いからという理由だけで諦めるわけにはいかなかった。無くても何とかしなければならないのだ。
一番ありがたいのはここで急に何かの力に目覚めてハイ終了という展開だが、そんなことが起こるとは到底思えない。
怪物は勝ち誇ったように俺たちに近づいてくる。時間がない……でも、どうすればいいんだ……!
「おや、そこのお三方。困っているようだな」
そんな時、この状況を打開してくれる救世主が現れた。
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