日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~

ヌマサン

第13話 異象

今日は7月12日。待ちに待った退院の日だ。退院したらまずやらなければいけないことがある。

それは呉宮さんを探すことだ。別に探偵の真似事をしたいわけではないが、何となくそうしないと落ち着かないのだ。

そして、寛之、洋介、武淵先輩の3人が本当に遺跡に向かったのか。これも確認しないわけには納得できない。

何の気なしにテレビをつける。ちょうど朝のニュースをしているところだった。

「ん?」

『速報:公園にて変死体発見!今度の被害者は警察官!?』

「……マジかよ。警官まで殺されるとは……随分と物騒だな……」

ニュースではどうやら夜間に見回りをしていた警官二人が今回の事件の被害にあったらしい。ちなみにその変死事件は現在、警察が総力をあげて捜査しているんだそうだ。テレビではそのニュースを30分近く評論家たちを交えて議論されていた。こんな田舎じゃ、取り上げることなんてこの事件しかないのだろう。

時は過ぎて午前10時。退院手続きも終わり、無事退院となった。

「兄さん、茉由ちゃんのところ寄っていっても良い?」

「ああ、いいぞ。俺も茉由ちゃんに会いたいしな」

何故、紗希がここにいるのか。それは退院の手続きを母の代理でやってくれたのだ。

そして、俺は紗希と茉由ちゃんの病室を訪れた。

「あ!紗希ちゃん!来てくれたんだ!」

「うん!ついでに兄さんの退院の手続きも終わらせて来たところだよ!」

「えっ……」

俺って……ついでなの?

どうやら茉由ちゃんに会いに来るついでに俺の退院手続きは済まされたようだ。……グレてやる。

「ねぇ、紗希ちゃん。お兄さん、拗ねてるよ。……なんか黒いオーラみたいなものを纏ってる気がするんだけど」

「あー、それなら大丈夫。今、何とかするから」

「そんな、何とかなっちゃうものなの?」

茉由ちゃんが半信半疑の様子で紗希に尋ねる。それに対して紗希はこくりと黙って頷くだけだった。

「ねぇ、兄さん。帰ったら一緒にゲームでもしようよ」

「えっ、いいのか?」

「うん、最近一緒にゲームする時間もなかったからね」

俺は目を輝かせながら紗希を見つめた。

一方、紗希が茉由ちゃんの方を向いて“計画通り”といった感じの笑みを浮かべていることなど俺には知るよしもなかった。

「ホントに何とかなるんだね……」

茉由ちゃんはため息をつき、やれやれといった様子だ。

その後は、紗希ちゃんと茉由ちゃんで話が盛り上がっていた。それはもう心配事や不安も忘れてしまうほどに。

「さて、そろそろ帰るか。紗希」

「そうだね」

時刻も昼過ぎだ。親父も母さんも待ちくたびれているだろう。

「またね、茉由ちゃん」

「うん、紗希ちゃんもまたね」

紗希と茉由ちゃんはニコニコしながらお互いに手を振りあって別れた。この二人、ほんとに仲良いな。

ーーーーーーーーーー

病院を出た俺と紗希はバスに乗るためにバス停へと向かっていた。

「そういえば、紗希」

「どうしたの?兄さん」

俺はふと、疑問に思ったことを口にした。

「今日って金曜日だよな?」

「そうだけど……急にどうかしたの?そんなこと聞いて」

「学校はどうしたんだ?」

そう、学校だ。ついさっき思い出したのだが、金曜日のこんな真昼間っから病院に高校生がいて大丈夫なのだろうか?

「今日は休みだよ。これだけ物騒だからね」

「それもそうか。殺人鬼とかどこにいるのかも分からないもんな」

「そういえば、兄さんって高校に入ってから学校休んだことないよね。何か理由とかってあるの?」

「いや、ない。なんとなく学校に行って、授業を受けて、帰ってるだけだからな」

学校とか本音を言えば行きたくない。しかし、行かないと何か学費が無駄になるような気に襲われるのだ。

「とか、言って呉宮先輩に会いたいだけだったりして?」

ちょっとからかうような口調で紗希がそんなことを言ってきた。

「いや、断じてそんなことは……!」

「ふーん♪」

俺の心を見透かしたような感じで紗希はスキップして進んでいく。

「ねえ、兄さ……」

振り返った紗希の声を遮るように鳴り響いたのは電話の音。音は紗希のカバンから発せられている。紗希はカバンからスマホを取り出し、電話に応答した。

「もしもし、お母さん?……えっ!?……うん、うん……」

何だろう。時々、驚いたような声を上げたりしているが……。また何かあったんだろうか……。

色々と悪い方向へ思考が傾いていく中、紗希が電話を切って俺の方へと顔を向けた。

「兄さん、あのね……」

紗希が何やら暗い表情をしている。そして、言葉を紡ごうとしている様子を見て、俺は何やら嫌な予感がした。

「お父さんが……逮捕……されたって……!」

「……え?」

一体どういうことだ?親父……何をやったんだよ……!

俺たちはその後、不安やらなんやらで押しつぶされそうな心境で家に帰った。

「「ただいまー」」

玄関で俺と紗希がいつもより少し低めのトーンでいうと、母さんが奥から出てきた。

「あら、お帰りなさい。早かったのね」

母さんは平静を装っているつもりなのだろうが、元気もないし、声も表情も暗い。

何とも言えない雰囲気に我が家は包まれていた。

そのから俺は何となく気まずくて、特に何をするわけでもなく部屋でずっとゴロゴロとしていた。

「ちょっと出掛けてみるか」

俺は少し外に出てみることにした。家を出て、歩くこと20分。気が付けばあの神社の鳥居の前だった。

「……お参りしていくか。折角ここまで来たしな」

俺は手水を済ませて参道を進む。以前来たときは日も傾いていて薄気味悪かったが、今回は昼。視界は明るく、周囲の緑が灯籠の赤と対照的で美しい。

「景色はいいけど、やっぱり暑いな……」

とはいえ、季節は夏。ましてや昼過ぎだ。暑くないはずがない。

「よし、できるだけ木陰を歩こう」

そう心に決めてからできる限り木陰を歩くことに徹した。そうして歩いているうちに境内に辿り着いた。

とりあえず、賽銭を入れてお参りを済ませる。意識せず、遺跡のある方向へと目が行ってしまう。

「とりあえず、行くだけ行ってみるか」

俺は再び遺跡に行くことにした。境内から歩くこと10分。例の遺跡に到着した。遺跡は何事もなかったかの如くそこで異様な存在感を放っていた。遺跡に近づいてみるとあるものを見つけた。

「これって足跡か?」

遺跡へと続く足跡が3つあった。そして、この一帯の足元がぬかるんでいる。

「でも、ここ最近雨など降ってなかったはずだけどな?」

すると突然、雨が降り始めた。

「まじかよ!」

傘など持ってきているはずもなく、急いで境内までの道のりを走った。

「……あれ?止んでる……?」

おかしいな。雨が止んでいたにせよ、曇っているわけでもなく、快晴だ。なら、狐の嫁入りかと思い、地面を見てみる。しかし、乾ききっていてついさっき雨が降った形跡もない。

「まあ、止んだならいいか」

もう一度、遺跡の方へと歩いていくと今度は曇っていた。やはり、道中水たまりなども出来ていて、雨が降った形跡もある。

遺跡に再び到着。今度は遺跡の廻りをぐるっと一周してみる。しかし、さっき見つけた遺跡へ続く足跡以外何もなかった。

「ふう」

なんとなく、疲れた。普段からの運動量が足りていないだけかもしれないが。

すると、またしても雨が降ってきた。

「ああもう、またか!」

再び境内の方へ大急ぎで走る。足元のぬかるみで何度も転びそうになりながら境内に戻ったきた。しかし、依然として雨が降った形跡がない。

「これじゃあ、あの辺りだけ別の世界みたいじゃないか。こっちはこんなに晴れてるのに!」

本当にそんな風に思った。向こうでは雨が降っていた。見間違いではない。確かに降っていたはずだ。現に服が濡れているし、ズボンにも撥ねた泥が付着している。

「はっくしょん!」

突然くしゃみがでた。それに服も濡れているので、気持ち悪い。俺は家に戻ることにした。

ーーーーーーーーーー

「ただいまー」

俺がそう言って玄関で靴を脱いでいると後ろから声がした。

「直哉?どこへ行っていたのですか?」

「ああ、ちょっと神社に行って、神様に頼んできた。親父が無事釈放されるようにな」

まあ、嘘だけどな。

「あら、そうだったのね。服が濡れてるみたいだけど、何かあったのですか?」

「雨が降ったんだ。晴れているのに急に降ってきてさ」

これは半分本当で半分嘘だ。

「狐の嫁入りね。とりあえず、シャワーでも浴びて着替えていらっしゃい」

「そうする」

俺はまっすぐ風呂場に向かった。すると、ちょうど紗希が出てきたようだ。

「あ、兄さん。おかえりなさい!お風呂もうすぐで空くから!」

「おう、ただいま。分かった。空くまでここで待ってるからな」

俺はとりあえず、風呂が空くまで待つことにした。

「あと、兄さん。絶っっっ対に覗いちゃダメだからね!今何も着てないから!」

「覗かないから大丈夫だ。それより早く風呂入りたいから早急さっきゅうに出てきてくれ」

「……じゃあ、急いで着替えるね!」

紗希はそう言って静かになった。

そして、待つこと数十秒。

「兄さん、お風呂空いたよ!」

風呂場から紗希が出てきた。

「お、おう。ありがとう。にしても紗希」

「どうしたの?兄さん」

「いや、Tシャツしか着てないけど、下は履かないのか?」

「うん。暑いし」

ビッグTシャツだから、確かに隠さないといけないところは隠れているが……。

「どうせ、『畜生、見えそうで見えない!でも、それがたまらん!』……とか思ってるんでしょ」

……何故分かった。

「よく分かったな。マジでエスパーかと思ったぞ」

「まあ、兄さんの考えていることくらいお見通しだよ。それじゃあ、ボクは部屋に戻ってるから」

そう言って紗希は階段を上がっていった。シャツの裾をひらひらさせながら。わざとなのかは知らんが。

「……とりあえず風呂入るか」

……それから数十分経った。それでもなお、俺は湯船に浸かっていた。

「やっぱり風呂は落ち着くな」

風呂は落ち着くし、疲れがよく取れる。俺は体の力を抜き、湯船に体を委ねる。しかし、その安らぎに水を差すようなことが起こった。

その正体は、家中に鳴り響くのはインターホンの音。……それも一回ではなく、何回も。折角のくつろぎタイムを邪魔された俺はイライラしながら風呂を出た。

風呂の前の廊下は玄関の方まで繋がっている。着替えてから玄関の方を覗いてみると、ある意味予想通りの事が起こっていた。

マス〇ミだ。母が格好の的にされていた。紗希は格好も格好だし、出られなかったのだろう。

俺は玄関まで走って、ドアを閉めようとした。しかし、記者の人たちがドアを足で押さえ、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。

どうしようか考えている間にも写真が撮られたりしている。

閉まるわけがないのだが、もう一度閉めようと両腕に力を籠める。そして、さっきと同じように引っ張った。

「うわあ!」

ドアを抑えていた記者がビックリしたような声をあげて倒れた。普通の人間ではありえないほどの力が働いたかのような勢いでドアが閉まった。

「な、何だったんだ?今のは……?」

人間追い込まれればとんでもない力が働くというし、おそらくそういった類のものではないかと思う。

「直哉、結構力持ちだったのですね」

「ま、まあな」

……俺が一番びっくりしてるんだけどな。

ふと、階段の方を見てみると、そこには呆然としている紗希がいた。そして、何やら慌てた様子でこちらへと走ってきた。

「兄さん!ちょっとこっちに来て!」

そう言って、紗希は俺の腕を掴んで引っ張っていく。その様子を見た母さんが紗希を呼び止める。

「どうかしたのですか?紗希?」

「ううん、何でもない!」

母さんは首を傾げたままだったが、紗希は気にすることなく階段をどんどん上っていく。

「紗希、どうしたんだよ。何か変だぞ?」

紗希は何も言わなかった。そうして、俺は紗希の部屋に連れ込まれた。

「紗希。本当に大丈夫か?何かあるんだったら言ってくれ。俺はちゃんと言葉にしてくれないと分からないぞ」

「………たの」

紗希が小声で何かを呟いた。

「えっと、今、何て言ったんだ?よく聞こえなかったんだが……」

次の瞬間。紗希は息を大きく吸ってこう言った。

「見たの」

「何を?」

紗希は何やら、言いにくそうにもじもじとしている。可愛い。

「……鱗」

鱗?どういうことだ?

「すまん、紗希。もう少し詳しく話してくれ。訳が分からん」

「えっと、兄さんがドアを引っ張った時。兄さんの両腕に鱗みたいなのが見えたの。本当に一瞬だったけど」

まさか、それであんな異常な力が働いたのか?だとしたら、俺って何者?あれ、鱗といえば……そうだ。思い出したぞ。

「どうしたの?兄さん」

「えっとだな。この前の事故の日に呉宮さんが言ってたんだ」

「それってちょうどボクがいなかった時だよね」

「そうそう。それで、その時言ってたのが俺を撥ねたトラックに魚の鱗みたいな模様が残ってたって」

紗希はそれを聞いて少しの間、口を一文字いちもんじに結んでいた。

「そうなんだ……。でも、どういうことなんだろうね?」

「さあ……俺にも全く分からん」

結局話はそこで止まったままだった。

「それじゃあ、俺は部屋に戻るからな」

「うん」

そして、その後は何事もなく、現実から逃れようとアニメを見たり、ゲームをしたり、ラノベを読んだりであっけなく一日が終わってしまった。

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