ブルー・ウルフ

立三 夕愛

17


一緒に暮らしはじめてから1年が経ちました

ロウの仕事は順調を取り戻して、第2のブームがきていました

その日ふたりはテラスにいました

「今度の撮影でフランスに行くことになったんだ」

「そうなの?」

「ああ。
少し長く行くことになるみたいでさ」

「どれくらい行くの」

「2ヶ月とは言っていたけれど、撮影次第では延びるかもしれないってさ」

「そう」

「それでさ、一緒にフランスに行かないか?」

「え」

「2ヶ月も留守にするから、そのほうがいいだろう」

「うーん」

「何か予定でもあるの?」

「そうなのよね。
実は次の映画の準備をしよう、ってジャックと話していたところなの」

「そうなの?」

「うん。
だから一緒には行けそうにないわ」

「そうしたらさ、映画の準備が終わったらおいでよ」

「何ヶ月もかかると思う」

「そうだよな」


1週間後、レストランにいました

「すごく素敵な所だな」

「本当ね。ジンさんが最近はやっているって言っていたわ」

「へえ。
でも大丈夫?俺とふたりのところを撮られたら大変だよ」

「大丈夫よ。なんたってジンさんのおすすめだからね。
個室だし、ここに来るまで誰にも会わなかったでしょう?」

「そういえば」

「ここはプライバシーを守ってくれるって有名らしいわ」

「さすがジンだな」

「アハハ」


美味しいごはんとお酒で、あっという間に時間は過ぎていきました

「少し寄り道をしてもいい?」

「ああ」

以前来たことのある海へ着きました

浜辺に座ると海を眺めました

「それで?話があるんだろう?」

「え」

「ばればれだ」

遠くで花火の音がしました

「ロウの家を出ようと思うの。
少し前から考えていたんだけれど、今が丁度いいのかなって思うわ」

「そう」

「一緒に過ごした1年は本当に楽しかった」

「じゃあ、ずっといればいいだろう」

「でもそろそろ離れなきゃって思ったの。
ロウは売れっ子だしね」

「なんだよ。別に売れっ子でもいいだろう」

「ハハ。よっ、売れっ子」

「てめえ」

「アハハハ」

心地いい風がながれていました


「ロウはもう私がいなくても大丈夫でしょう?
ジンさんやリュウさんやタイガーさんやシシさんやフォックスさんがいるから。
皆が本当にロウのことを思っているって知っているでしょう?」

「ああ。
本当に自分のことを考えてくれている人には気がついたよ。
でもだからってアオがいなくなって平気なわけじゃないだろう」

「ありがとう。
そうよね、これで平気、って言われたら悲しいわ」

「どうしても出て行くの?」

「それがいいと思う」

「はあ」

その夜アオはロウを抱きしめて眠りました


次の日からロウはアオの傍を離れませんでした

「ち、近い」

「ん」

「ねえ、くっつきすぎじゃない?」

「そうかな?」

「そうだよ。ちょっと離れてよ」

「んん」

「もう」

ジンがリビングへ入ってきました

「アオさん、先ほどマッサージ機が届いたので使ってみてはいかがですか?」

「え?」

「おう、使ってみようぜ」

「マッサージ機?」

アオの部屋に行くとマッサージ機が置いてありました

「凄い。使っていいの?」

「ああ」

「素敵だわ。ありがとう」

「おう」

ロウとジンは目を合わせてうなづきました


その日の夕ごはんはアオが好きなグリーンカレーでした

「やっぱりフォックスさんの作るグリーンカレーは最高だわ」

「そうだな」

ロウとフォックスは目を合わせてうなづきました


次の日の午後、庭にはリュウとタイガーが上半身裸でトレーニングをしていました

「嘘でしょう。やばい、やばいわよ。
きゃー、あの筋肉、最高だよう」

リュウとタイガーは目を合わせてうなづきました

「ちっ」

ロウはそっぽを向いていました


次の日の午前中、家の前に4Mほどの高さのある車が停まっていました

「何これ」

「今日はこの車に乗ってください」

シシがドアを開けました

「実は知り合いに1日預かってほしい、と言われまして。
好きに使ってもいいとのことなので、せっかくですし今日はこれで送り迎えをさせていただこうかと思います」

「本当に?いいんですか」

「もちろんです」

「凄いです。
ありがとう、シシさん」

「どういたしまして」

2階建てになっている車の天井はオープンになっていました

「気持ちいいわ。こんなの最高じゃんか」

「まじで最高だな」

ロウとシシはモニター越しにうなづきました


それから1ヶ月が過ぎました

「なあ、何してんだよ」

「ん?荷造りだよ」

「荷造りだよ、って、
それって俺とフランスに行くためのだよな?」

「違うでしょう」

「まじで言っている?」

「うん」

「なあ、まじで出て行くの?」

アオの腕をつかみました

「私の気持ちは変わっていないわ。
それにお互い仕事があるでしょう?」

「そうだけれど」

「別にもう会えないわけじゃないでしょう。
それとも、もう会わない気でいるの?」

「違うよ、でも出て行ったらいつでも会えるわけじゃないだろう」

「最近はロウの仕事も忙しくなってきたし。
私も忙しくなりそうだから、お互い家にいれる時間も少なくなると思うの」

「そんなに忙しくなるの?」

「うん」

「はあ。
まじで出て行くの?」

「うん」

「今度の仕事が終わったら戻ってくる?」

「それは、戻らないと思う」

「なんでだよ」

「ロウ」

ロウは部屋から出て行きました


その日の夜、ロウはベッドで寝ていました

「私も一緒に寝てもいい?」

「しらねえ」

アオは吹きだしてから、すぐに真顔に戻すとベッドに入りました

「離れたら友達じゃなくなるわけじゃないわよね?」

「しらねえ」

「メールも電話もテレビ電話もあるわよ。
引っ越し先はここからバスで30分の所だから、遊びにきてもいい?」

「しらねえし」

「ああ、もう遊びに来たらだめなのね」

「そんなこと言ってねえ」

「ありがとう。
今は寂しくて離れがたいけれど、きっとそのうち普通になるわよ」

「普通にならなかったら?」

「ならなかったら連絡してよ。いつでもいいから」

「はあ。
もう寝るぞ。おやすみ」

「おやすみなさい」

二日後、それぞれの場所へ旅立ちました



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