ブルー・ウルフ

立三 夕愛

11


「何をしているの」

「ロウ」

「チョコレート?」

「うん」

「凄くいい香りだ。何を作っているの」

「内緒」

「なんでだよ」

「ロウさん、そろそろ行きますよ」

「ジン、アオが何かを作っているぞ」

「そうですね。それよりもう出ないと仕事に間に合いませんよ」

ジンはロウを連れて玄関へ向かいました

「何を作っているか知っているの?」

「はい」

何も言わないジンをロウは睨みました

「今日は何の日ですか?」

「バレンタインデーだ」

「そうです」

「で」

「日本ではバレンタインデーに、女性がチョコレートを渡すらしいですよ」

「女性が?」

「はい。気になっている人や恋人に渡すようですね」

「気になっている人。
じゃあアオは誰かに渡すのか?」

「そのようですね」

「誰に渡すんだよ」

「さあ」

ロウは眉間にしわを寄せていました


夕方、家に帰ってきました

「今日は何を召しあがりますか」

フォックスが聞きました

「うーん、あ、アオは?」

「アオさんは出かけられていますよ」

「そうなの?」

「はい」

「夕飯どうするか聞いている?」

「食べるそうですよ。ロウさんと同じものでいいと言っていました」

「そう。
じゃあ、パスタにするよ。アオが帰ってきたら一緒に食べようかな」

「分かりました」

「ところで、それは何?」

「これですか。
アオさんから貰ったんです」

「アオから?」

「はい。チョコレートらしいです」

「え?」

「は?」

ロウとジンはフォックスが持っている箱を見つめました

「アオさんが作ってくれたんです。いやあ、嬉しいなあ」

「は?」

「嘘でしょう」

「あれ?どうかしましたか」

ロウとジンは呆然としていました

「ごはんの準備をしておきますね。アオさんが帰ったらお持ちします」

フォックスはキッチンへ向かいました

「アオはフォックスが好きなのか?」

「そんなはずは、ない、かと」

遠くで、番犬のブラックとパンサーが鳴いていました

「リュウ、それは何?」

「おお、おかえり」

「ただいま」

「これはアオさんに貰ったんだ」

手のひらサイズの箱を持ち上げタイガーに見せました

「何を貰ったの?」

「チョコレートだって」

ロウとジンは振り返り、リュウと箱を見ました

「いいな。俺にもくれ」

「ハハ、あとで食べるか」

「やったあ」

リュウとタイガーは笑っていました

「どういうことだ」

「どういうことでしょう」

ロウとジンは首をかしげました


「ただいま」

「おかえり」

アオが帰ってきました

「ごはんにしますか?」

「はい、お願いします」

フォックスが料理を運んできました

「チョコレート美味しかったです」

「えへへ。よかったです」

「こんどお返しに、何か美味しいデザートを作りますね」

「いいんですか?
いやいや、いつも美味しいごはんを作ってくれているので充分です」

「アハハ。
アオさんの好きなフルーツタルトを作ってみようかな」

「本当ですか」

「楽しみにしていてください」

「はい、いつまででも待っています」

「アハハハ」

フォックスはテラスから出て行きました

「どういうことだ」

「え?」

「アオは、フォックスが、いや、リュウが」

「ロウ?」

ロウは眉間にしわを寄せていました

「あ、そうだ、これよかったら貰ってください」

「え?」

「チョコレートです。あまり甘くなく作ってみました」

「え?」

「それからジンさんも、よかったら貰ってください」

「私にも?」

「はい。味見はしたから大丈夫なはずです」

「え?」

「タイガーさんとシシさんにも渡してくるね」

テラスから出て行きました

「ロウさん」

ロウとジンは見つめ合いました

アオが戻ってきてからごはんを食べました

「あのさ、バレンタインデーに女性からチョコレートを渡すの?」

「うん」

「それって誰に渡すの?恋人にじゃないの」

「うん、恋人にも渡すね」

「にも?」

「あとは好きな人に渡したり、友達に渡したり、会社の人に渡したり、かな」

「え?」

「女子同士で渡したりもするよね」

「え?」

「ちょっと高いチョコレートとか貰うと嬉しいんだよね」

「あのさ、それって誰にでも渡すってこと?」

「人にもよると思うけれど。
私はお世話になっている人に渡すかな」

「そうなの?」

「うん」

「はあ。なるほどね」

ロウは息をはいてソファにもたれました

リビングではリュウとタイガーとジンがチョコレートを食べていました


ふたりはベッドにいました

「はい、これ」

「ん?」

「バレンタインデーだからね」

「くれるの?」

ロウはうなづきました

「ありがとう。凄くかわいい」

ミニブーケと箱を受け取りました

「このお店、高級店だよ」

「そうなの?」

「そうなのです。
ここのチョコレート食べてみたかったんだよね。嬉しい」

箱を開けてしばらく眺めていました

「明日ゆっくり食べよう」

「アハハ」

「ロウ、ありがとう」

「ああ。
俺の方こそ、チョコレートをありがとう」

「いえいえ」

外ではブラックとパンサーが遠吠えをしていました



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