ブルー・ウルフ

立三 夕愛


次の日の朝、ふたりはテラスにいました

「おはよう」

「おはよう」

「今日から打ち合わせで、しばらくホテルに泊まることになったんだ。
ひとりになるけれど、フォックスはいるから食べたいものは作ってもらって」

「え?
分かったわ。どれくらい行っているの?」

「まだ分からないけれど、とりあえず1週間は戻らないかな」

「そっか」

ロウが家を出ると、アオも家を出て行きました

「打ち合わせなんてすぐに終わるのに、わざわざホテルに泊まらなくてもいいのではないですか?」

「いいんだよ」

ジンとシシは顔を見合わせていました


ロウは打ち合わせが終わるとBARへ行きました

声をかけてきた女性とホテルへ入って行きました

深夜、ソファに座って窓から景色を眺めていました


朝、部屋の電話が鳴りました

「おはようございます」

「はよ」

「朝ごはんは部屋へお願いしますか?」

「ああ」

ごはんを食べてから打ち合わせに向かいました

その日も打ち合わせが終わるとBARへ行きました

声をかけてきた女性とホテルへ入って行きました

深夜、窓際に立って外を眺めていました

次の日の夜もBARへ行ってホテルへ入って行きました

深夜、窓際に立って外を眺めていました


「今日で打ち合わせは終わりましたが、ホテルに帰ってよろしいですか?」

「ああ。
あのさ。なんでもない」

「なんですか?」

「なんか変なんだよな」

「はい」

「綺麗な女が誘ってくれてんのに、反応しないんだよ」

「は?」

「俺どうしちゃったんだろう」

ジンとシシは顔を見合わせました

「今、好きな人はいますか?」

「ああ」

「それで、誘ってきた女性は好きな人ですか?」

「いや」

「なるほど。それは普通ですよ」

「え?」

「もし、誘ってきた女性がロウさんの好きな人だったらどうですか?何も感じませんか?」

「そんなことありえねえし」

「そうですか」

「ジンが言いたいことは私も分かりますよ。
好きな人がいると、その人のことが浮かんできてしまう。
だから何も感じなかった」

「でも今までは付き合っている人がいても、他の女にも反応したよ」

「そうですか。
なぜ今回は違うのでしょうね」

「はあ」

その日はホテルから出ませんでした


次の日の午前中に自宅へ帰りました

「アオ?」

自分の部屋とアオの部屋を覗いてもいませんでした

「フォックス、アオは?」

「帰って来ていませんよ」

「え?」

「ロウさんが出て行ったあと、『友達のところへ行ってくる』と言って出かけられましたよ」

「そうなの?それから帰って来ていないの?」

「はい」

電話をかけましたが留守番電話に切り替わりました

「でねえ」

「大丈夫ですよ、3日たったら帰ってきますよ。ロウさんの帰宅予定は聞いていますし」

「3日」

そのあとも電話をかけ続けましたが、声を聞くことはできませんでした


次の日の朝にも電話をかけると

「もしもし?」

「アオ?」

「ロウ?」

「アオ」

「ロウ、おはよう」

「今どこにいるの?」

「いま、んー?」

「起きて。どこにいるか教えて」

「友達の所にいるよ」

「友達って誰だよ」

「ロウは知らないでしょう」

「そうだね。で、どこにいるの?」

「だから、あれ?今どこにいるの?」

「家にいるよ、昨日帰って来たんだ。そうしたらアオがいないし、電話にもでないし。何をしているの?」

「そうなの?ごめんね。昨日は圏外にいたかもしれないわ。
それじゃあ私も家に帰ろうかな。帰ってもいい?」

「あたりまえだろう。迎えにいこうか?」

「大丈夫。今日中には帰る」

「すぐだろう」

「んん」

「寝るな、起きろ」

「ん」

「住所を言え、迎えにいくから」

「んん」

「ジン、アオのスマホのGPSをハッキングしろ」

「それは犯罪です」

「ちっ」

その日の夕方、アオは家に着きました

「遅い。なんででこんなに遅いんだよ」

「荷物をまとめるのが、めんどうだったんだもん。
ただいま」

「ちっ、おかえり」

「舌打ちかよ」

「ハハ」


その日の夜、テラスでごはんを食べていました

「なんで出て行ったんだ」

「だってロウがいないのに、いてもしょうがないでしょう」

「なんでだよ」

「それにちょうど、友達の子供の結婚式に呼ばれていたのよね。
ついでに泊まらせてもらっちゃったわ」

「ふーん。その友達って女の人?」

「うん」

「ふーん。
でも出かけるなら教えてくれてもよかっただろう」

「だって、私とはもう話したくないのかもって思ったから。
私と顔を合わせたくなくて出て行ったんでしょう」

「え?」

「まあ、その気持ちは分かるけれど。
でもやっぱり寂しかった」

「うん」

テラスには冬の風がながれていました


ふたりはロウの部屋のベッドで寝ていました

「寂しい思いをさせてごめんね。俺も離れている間、寂しかったよ」

「うん」

「正直まだアオのことは好きだよ。
でもそれでアオと離れるのは嫌だなって思ったんだ。まだ一緒にいてくれるかい?」

「もちろんよ。
私もロウのことが好きよ。それにロウを幸せにしたいって思っているの。
私のことが好きって言ってくれたけれど、考えてみたらそれはもしかしたらこういう環境で、いま一番近くにいるからなのかなって。
違う好きなんじゃないかなって思ったの」

「うーん、そんなことはないと思うよ」

「でもありえなくはないでしょう?」

「うーん」

「それにね、もし私と恋人同士になったら、なんでも話したいことが話せなくなっちゃう気がするのよね。
私はロウの話し相手でいたいの」

「うーん。俺の気持ちは本当だよ。
でもしょうがないから諦めるよ。さっ、寝ようか」

「うん」

「おやすみ」

「おやすみなさい」

アオを抱きしめながら眠りにつく顔は、口角が上がっていました



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