ブルー・ウルフ

立三 夕愛


ある日、お客さんが来ました

「よう。久しぶり」

「なに入って来てるんだよ」

「なんだよ、いいだろう」

「すみません。待つようにと言ったのですが」

男の後ろからジンが言いました

「別に構わないだろう」

「忘れたのか?もう会わねえって言っただろう」

「まあいいじゃん。それよりビール飲もうぜ」

男が持ってきたビールをテーブルに置きました


「俺はもう、おまえらとは会わねえ」

「なんでだよ」

「もう友達じゃないだろう」

「そんなこと言うなよ。
何年一緒にいたんだよ。俺たちはずっと仲間だろう。
やっぱり売れると変わるっていうけれど、おまえもそういうやつか」

「売れてからも一緒にいただろう。
でももう一緒にはいられない」

「どうしてだよ」

「意見をしないだろう。俺の言うことにはケチをつけない」

「だから?」

「ここに住んで働かなくてすむからだろう?
だから間違っていることを言っても、そうだな、って。おまえの言うとおりだよ、ってなっていたんだ。
俺はもう、そういうのは嫌なんだ」

「何が嫌なんだよ。ずっとそうだったのに今更だろう。
それに俺たちは別に働かなくていいから、一緒にいたわけじゃねえよ」


「もう知っているんだよ。この前聞いたんだ。
『あいつに合わせんのも楽じゃねえなあ』 『まあ一生働かなくていいんだからさ』
『そうだよ。一生遊んで暮らせるんだから』って。
思い出した?」

「え?」

「そのあとだよ。出ていけ、って言ったのは」

「あれは冗談で言ったんだろう。本気じゃねえよ。
ていうか聞いていたなら、そのときに言えばいいだろう」

「あ?」

「分かるだろう?俺たちが本気でそんなこと言うわけないって」

ロウは息をはきました

「あのさ、俺も悪いんだよ。
ずっとどこかで『あれ?』って思っていたのに気づかないふりをしていたんだ。
ヒョウたちと一緒にいるときは楽しかったから。
だから聞いたときは本当にショックだった。
でもそれで気がついたんだ。このままじゃだめだなって、俺もヒョウたちも」

テラスに風が流れました

「皆には感謝しているんだ、ずっと一緒にいてくれて。
でももう一緒にいることはできない。
ごめんな」

「意味がわかんねえ」

「分かっているだろう?」

「知らねえ」

ヒョウは立ち上がり、「また来るから」と言って出て行きました

リュウとタイガーはロウの後ろに立っていました


夕方にアオは帰宅しました

「ただいま」

「おかえり」

「アオさん、ごはんにしますか?」

「はい、お願いします」

お酒と美味しいごはんを食べながら、今日あったことを話していました

「どうしたの?何かあった?」

「友達が来たんだ」

「楽しかった?」

「ハハ」

「ん?」

「友達だったんだよな。
あとで話を聞いてくれる?」

「ええ」

ロウはテラスから出て行きました


アオはごはんとお風呂をすませてから部屋へ行きました

ふたりはソファに座りました

「売れる前から一緒にいた友達なんだ。
売れてからもずっと一緒にいて、皆がいたおかげで俺はひとりじゃない、って思えていたんだと思う」

「うん」

「でも何ヶ月か前にいろいろあって、もう一緒にいられない、って思って離れたんだ。
でもあいつらは納得していないみたいでさ。
今日来たときに俺の気持ちを話したんだ。でもだめだった」

「うん」

「なんでだろうな」

窓からみえる木々が揺れていました

「どうして一緒にいられない、って思ったの?」

昼間に話したことをアオにも言いました

「なるほど」

「俺は皆を嫌いになってはいないんだ。
本音を知ったときはショックだったけれど。
何年も一緒にいたから、なにがあっても嫌いにはならないんだと思う。
だから離れて自立しようって思ったんだ。
ヒョウたちにも自立してほしいって、思ったんだよね」

「うん」

「でもまた来るって。分からねえってさ」

「うん」

ベッドへ入りました

「ロウは間違っていないって思うわ」

「ありがとう」

「おやすみなさい」

「おやすみ」



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