ブルー・ウルフ

立三 夕愛


夕方家に着くと、ロウはテラスでワインを飲んでいました

「ただいま」

「おかえり。お疲れさま」

「おう。
シャワーを浴びたいんだけれど、どこにあるの?」

「部屋についているよ」

「わあ、さすがね」

部屋へ行きシャワーをすませてから、テラスへ戻りました

「一緒にごはんを食べてもいい?」

「俺はもう食べたんだ」

「そっか、キッチンを借りてもいい?」

「ああ。自分で作るの?」

「うん。
あ、材料を買ってきていなかったわ」

「ハハ。何が食べたい?」

「おつまみとご飯ものがあれば嬉しいな」

「OK」

ロウがジンに伝えると、ジンはキッチンへ向かいました

「ジンさんが作ってくれるの?」

「フォックスに伝えにいったんだ」

「フォックス?コックさんかな」

「そう。食べたいものを言えば作ってくれるよ」

「わあ、さすがっす」

「アハハ」


フォックスが作ってくれたごはんは、おつまみ3種類とガパオライスでした

「最高だわさ」

ロウは鼻で笑いました


ごはんを食べ終わりました

「これからも食事を作ってもらうことって可能かな?」

「ああ」

「食費はどれくらいがいいかな」

「いらないよ」

「それはだめよ」

「うーん」

「じゃあ一日千円でどうですか?」

「うーん」

「やっぱり安いわよね」

「いや、本当にいらないよ」

「お願いします。美味しいごはんを食べさせてください」

「ハハ、分かったよ」

「ありがとう」

しばらくしてから寝ることにしました

「おやすみ」

「おやすみ」


それから1週間が過ぎました

そんなある日の深夜、アオは物音で目が覚めました

少しすると、また何かの音がしました

部屋を出てロウの部屋へ向かいました

コンコン

「ロウ、起きてる?」

コンコン

「開けてもいい?」

ドアを開けました

「ロウ?」

「うう」

うずくまっているロウに近づきました

「ロウ?」

声をかけても反応しないので顔をのぞきこむと、目を閉じていました

「大丈夫?どこか痛いの?」

目を開いてアオを見ました

「ああ」

「こっちへ」

立ち上がらせてベッドへ連れて行きました

「どうしたの?」

「なんでもない」

「どこかにぶつけた?」

「いや、ちょっと壁を殴っただけ」

「なんでよ。壁を殴ったら痛いのよ」

キッチンから保冷剤を持ってきて、タオルでつつんで手に巻きつけました

そのままベッドに寝かせて隣に入ると目を閉じました

「アオ?」

「もう眠いから。おやすみなさい」

「おやすみ」

ジンジンと痛む手が気になっていたけれど、いつの間にか眠っていました


午前中に目が覚めたアオは、ロウの頭をひと撫でしてから部屋へ戻りました

その日の夕方、ごはんを食べていました

「今日から一緒に寝ることにしたから」

「は?」

「目を離すと怪我が増えていくからね」

「まじで言っていますか?」

「言っていますよ。
でも嫌なときは部屋で寝るから安心していいわよ」

「えー」

「とりあえず今日から一緒に寝ましょう。
襲わないようにするからロウも襲わないでね。
もし誰かと予定があったり、ひとりで寝たいときは、メールをしてくれれば自分の部屋で寝るわ」

「まじで言っている?」

「まじよ」

「えー」

「無理にとは言わないけれど」

「分かったよ」

「ありがとう」

数時間後、ベッドで先に眠っているアオを見て、いつもより早い時間にベッドへ入りました

「まじかよ」

なぜかざわつく胸に眠れそうにないと思っていたけれど、顔を見ていたらいつのまにか眠っていました

この日から、ふたりで眠るようになりました


ロウはベッドに入る時間が早くなりました

布団の中で話をしながら眠ってしまうことも増えました

その日も布団に入っておしゃべりをしていました

「アオの家族はどんな感じなの?」

「家族?」

「両親はいるの?」

「ええ。ふたりとも元気にしているわ」

「そう。兄弟はいるの?」

「姉が2人いるわ。ふたりとも元気よ」

「お姉さんがいるんだね」

「ロウは兄弟はいるの?」

「ひとりっこだよ」

「そうなんだ。両親は?」

「母親に育てられたんだ。もういないけれどね」

「亡くなったの?」

「そう。何年前かな?結構前に病気でね」

「そうなんだ」

「うん」

「お父さんは?」

「さあね。子供のときに出て行ったきりだからね。全然覚えていないけれど」

「そう」

「俺の母親は、いい人だったけれど酒好きでさ。
今思うとアルコール中毒だったのかもしれない。
いつも『お酒持ってきて』って言われて持って行っていたよ。
お酒を飲んでいるときは、なんか嫌でさ、家に帰るのが嫌だった。
それで気がついたらグレていて、いろんな悪いことをして怒られるんだ。
でも、なんでおまえにそんなことが言えるんだよ、って、おまえが酒やめろよ、って」

「うん」

「本人に言ったことはないけれど、ずっと思っていたな。
お酒を飲んでいないときは本当にいい人だったんだ。
それに、ひとりで俺を育ててくれていたしね」

「うん」

「お酒を飲んでいるとき、あの人が思い浮かぶことがあって、何かイラつくんだよな」

「この前、壁を殴ったときも思い出したの?」

「ああ」

「ロウはお母さんにどうしてほしかった?」

「ん?」

「お酒をやめて遊んでほしかった?」

「やめてくれればよかったかな。
でも今は、飲んでもいいからのまれないでって思うかな」

「そう」

ロウの手に自分の手を重ねました

いつの間にか眠っていました

リュウの部屋では皆で麻雀卓を囲っていました


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