能力値リセット 〜ステータスALL1の無能から徐々に成り上がるつもりが、1ヶ月で俺TUEEに変貌しちゃいました!〜

雪月 桜

守りたい、この寝顔

「……よっ! ととっ」

「わわっ、ハヤト様、大丈夫ですか?」

包丁やナイフはおろか、代用になる短剣のたぐいすら持ち合わせていない俺は、仕方なく、ヤシロの実を力づくで真っ二つにした。

その際、少し思い切りが良すぎたせいで、中身がこぼれそうになったけど、慌ててバランスを取り、なんとか持ちこたえる。

ふぅ……危ない危ない。

せっかくの祝杯が、俺のミスで台無しになる所だった。

「へーき、ヘーき。それより、ほら、これがリリィの分な。フェアリーは俺のを分けてやるから、こっちに来いよ」

思いのほか、綺麗に割れたヤシロの実の片割れをリリィに手渡し、フェアリーを呼んで手招きする。

すると、フェアリーは直ぐさま俺の元に飛んで来て、何処どこからか取り出した白いわんをずずいっと突き出した。

「準備万端かよ。ちゃっかりしてるな。……いや、別にめてないぞ?」

何故か照れたような仕草を見せるフェアリーにツッコミを入れつつ、椀を受け取って、ヤシロの実の中身を注ぐ。

というのも、ヤシロの実は食用の部位がほとんど無く、中に詰まったみつのような液体が、主に商品として扱われるのだ。

そして、注ぎ終えた椀をフェアリーに手渡した俺は、自分の分の実をかかげ、リリィと向かい合う。

「さて、それじゃあ緋熊ひぐま討伐と俺達の明るい未来を祝して――乾杯!」

「乾杯ですっ!」

「……(♪)」

俺、リリィ、フェアリーの三人がはいを突き合わせ、一斉に中身をあおる。

次の瞬間、濃厚な甘みが口いっぱいに広がり、爽やかな後味を残してスゥーっと、消えていく。

俺がいた世界のヤシの実は、それほど甘くないし、美味しくないって聞いたけど、こっちのは格別に美味いな!

「えへへ〜。なんだか頭がとろけちゃいそうな甘さですね〜。何となく、身体もフワフワ、ポカポカしてきた気が……ガクッ」

「……(コテンッ)」

「えっ、おい、リリィ? フェアリーも、どうしたんだ!?」

まさか、毒でも入ってたのか!?

……あれ? でも、それなら俺だけ何とも無いのは変だよな。

いったい何が起きたんだ?

突然の出来事に狼狽うろたえつつ、ひとまず二人の様子を詳しく確認していく。

その結果――、

「むにゃむにゃ……。ハヤト様……私、絶対に強くなって……今度こそ、お役に立ってみせますから……」

「うん、完全に寝言だわ」

どうやら、二人は疲れが限界に達して寝落ちしただけらしいと分かった。

たぶん、ヤシロの実にリラックスの効果があって、余計に気が緩んだんだろう。

ただでさえ、昨晩は徹夜で命懸けの大騒ぎをしてたからな。

睡魔に負けるのも無理はない。

「まったく、心配して損したぞ。それに、せっかくの絶景も殆ど楽しんでないじゃないか」

とはいえ、二人の幸せそうな寝顔を見ていると、そんな不満は消え失せて、自然と笑みがこぼれてくる。

「こんな穏やかな時間を守るためにも、もっと強くならないとな」

フェアリーの特性が判明した事で、懸念していた高速レベルアップの目処めども立った。

後は、どれだけ自分を追い込んで、集中的に鍛えられるかどうか。

旅を急ぎたい気持ちはあるけど、ここから先の旅路は、これまで以上に危険をともなう。

今は時間を掛けてでも念入りに仕上げておくべきかもな。

そんな事を考えながら、俺は二人が起きるまで、その穏やかな寝顔を傍で見守っていたのだった。

コメント

  • ノベルバユーザー385074

    続きがとても気になる

    0
コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品