能力値リセット 〜ステータスALL1の無能から徐々に成り上がるつもりが、1ヶ月で俺TUEEに変貌しちゃいました!〜

雪月 桜

援護射撃

「……待て、いったん落ち着こう。こういう時こそ冷静に」

「人の下着をつかんだまま冷静になられても困ります! というか、早く返して下さい!」

「あ、ああ。それもそうだな」

持ち主として当然の要求に、俺は大人しくうなずき、差し出されたリリィの手にパンツを乗せる。

それを受け取ったリリィは、かすむような速度で背中に隠し、俺の視界からパンツを消した。

そして、真っ赤な顔とうるんだひとみという必殺コンボで俺をにらみ、無言の抗議をしてくる。

「わ、悪かったって。だけど、聞いてくれ。わざとじゃ無いし、俺が盗んだ訳でもない。これは不幸な事故だったんだ」

自分でもビックリするほど嘘くさい言い分だけど、本当の事なんだから仕方ない。

しかし、意外な事に、リリィは呆れたようにめ息をきつつも、コクリと頷いた。

「……そんなの分かってますよ。ハヤト様が、そんな非道をする人じゃないって事くらい。でも、私は今すっごく恥ずかしいんですからね? キチンと説明してくれなきゃ納得しませんから」

……あぁ、そうだったな。

俺が尊敬するリリィという王女様は、こういう子だった。

これじゃあ、むしろ、信じてくれないんじゃないかと疑った俺の方が悪者だな。

「それは勿論もちろん。実は……」 

「ストップです。その前に、少し後ろを向いてて下さい。……このままだと、ソワソワしてしまって、落ち着いて話せませんから」

「…………あ、ああ! そうだよな! 気が利かなくて悪い!」

言うが早いか、俺は即座に身体を反転させた。

ついでに、念のため、両手でまぶたを押さえておく。

こうしておけば、何かの切っ掛けで振り返ってしまっても大丈夫だ。

いや、もちろん振り返るつもりなんて微塵みじんもないけどさ。

「あ、ありがとうございます。……絶対、振り向いちゃ嫌ですよ?」

「と、当然じゃないか!」

「なぜ、そんなに狼狽うろたえてるのか気になりますけど……。まぁ、良いです」

そりゃあ、心を読まれたようなタイミングでくぎを刺されたら誰だってビビるだろう!

なんて、口にしてしまうと藪蛇やぶへびになりそうなので、大人しく黙る。

しかし、そうすると辺りが、シン……となって、スルスルという衣擦きぬずれの音が鮮明せんめいに聞こえてしまう。

狭い洞窟どうくつの中という環境も相まって余計に響く、その音を聞いていると、思わず変な気分になりそうになる――――が、

「スピィ〜。スピピュピ〜」

下手な笛ののような、フェアリーの甲高い寝息が気分を紛らわせてくれた。

元はと言えば、フェアリーが、この状況を招いているため、元凶が呑気に寝てるのは釈然しゃくぜんとしなかったけど、結果オーライという事にしておこう。

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