能力値リセット 〜ステータスALL1の無能から徐々に成り上がるつもりが、1ヶ月で俺TUEEに変貌しちゃいました!〜

雪月 桜

ズル

「……私は大丈夫ですよ、ハヤト様。どこも怪我けがしていませんし、危ない目にもってません。……と言いますか、ハヤト様のために身体を張れるなら、むしろ本望なんですよ? 私は貴方を支えたいという一心いっしんで、あの城を飛び出したのですから」

そう言って、リリィは俺の拳を柔らかく両手で包み込んだ。

すると、ぴったり密着した指先から、彼女の体温と共に、温かい何かが流れ込んで来た……ような気がする。

そんな不思議な感覚に身をゆだねていると、胸の内にくすぶっていた後悔や自責の念が、いつの間にか薄れていた。

「リリィ……」

それどころか、いつになくリラックスした気分になって、思わず彼女の顔をジッと見つめてしまう。

しかし、そうすると再び心臓が激しく鼓動し始める。

次から次へと感情がコロコロ切り替わり、まるで自分が自分でなくなったような錯覚におちいった俺は、咄嗟とっさに手を引いていた。

「あっ……。ふふっ、ハヤト様ったら、お顔が真っ赤になってますよ? そんなに恥ずかしがらなくても良いのに。ただ手を握ってただけじゃないですか」

「……へっ? ああ、いや別に、そんなんじゃないからっ。そ、それより、こんな時間に良く店が開いてたよな! 普通なら、とっくに閉店してるはずだろ?」

リリィの温もりが残る手を無意識に見つめていた俺は、ハッと我に返り、照れ笑いを浮かべながら慌てて話を逸らす。

そうしないと、羞恥心に耐えられなかったからだ。

「そうですね〜。それで正直に言うと、少しだけズルをしちゃいまして」

そんな俺を見て、クスクスと笑ったリリィは、特に追及もせず話に乗っかってくれる。

どうやら、俺の内心は、お見通しらしく、その上で気を使われたようだ。

何とも情けない限りだけど、わざわざ自分から話を蒸し返す気力もない。

だから俺は努めて平静を装い、何も気にしていないような素振そぶりで会話を続ける。

しかし――、

「……ズル、か。それはまた、リリィには似つかわしくない言葉だな。いったい何をやらかしたんだ? 例えば王族御用達ごようたしの店に無理を言って開けて貰ったとか? あるいは露店で店仕舞みせじまいしてるオッチャンに、涙目で話しかけて良心に付け込んだとか? はたまた、路地裏で開かれてる闇のマーケットに足を運んでみたとか?」

「いえ……その……実は以前から娯楽小説に出てくる【怪盗】という方に憧れてまして……その真似事を」

「…………へ?」

ようやく落ち着きかけていた俺の心は、リリィの斜め上の回答によって、またしても乱されたのだった。

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