能力値リセット 〜ステータスALL1の無能から徐々に成り上がるつもりが、1ヶ月で俺TUEEに変貌しちゃいました!〜

雪月 桜

決着

「グォォォアアアッ!?」

全身に緋色の炎をまとった緋熊ひぐまが、断末魔の叫びを上げる。

いや、最早あれは炎を纏っているというよりも、炎にまれているという方が正しいか。

「……えっ、どうして……?」

目の前の事態に理解が追い付かないのか、リリィが口をポカンと開ける。

中々に間抜けな顔だけど、俺に見られてると気付いたら羞恥しゅうちもだえそうだし、ここは見て見ぬ振りをするとしよう。

「ただでさえ周りが暗い上に、体毛で覆われてて分かりづらいと思うけど、実は緋熊の身体には細かい切り傷が沢山ついてるんだ。というか、俺が“コレ”を使って付けた傷なんだけどな」

そう言って、俺は緋熊の爪を取り出した。

するとリリィは、驚いたように目を見開いて、俺の手元をマジマジと見つめる。

「それは……緋熊の爪、ですか?」

「正解。奴の指先を集中的に攻撃して拝借はいしゃくさせて貰ったんだ。同じ緋熊の一部なだけあって、アイツの頑丈な身体にもクッキリとダメージを与えられたよ。まぁ、それだけだと致命傷には程遠かったけどさ。でも、緋熊攻略の突破口としては充分だったな」

そして俺は、奴の耐熱性が身体の表面にだけあると説明した。

ただし、その答えは観察や推理によって辿り着いた訳ではなく、あくまで偶然の産物なので、そこら辺の経緯は適当に誤魔化すことに。

……だって、なんか少し情けないし。

どうせ、バレっこ無いんだから、ここは実力で見抜いたていにしておこう――。

「へぇ〜。そうなんですか〜」

と、思ったんだけど、何故かリリィが、やたらとニヤニヤしてる。

と言っても、馬鹿にするような感じではなくて、なんかこう、幼い子供が必死に背伸びしてる姿を微笑ほほえましく見守ってる様な、慈愛に満ちた感じだ。

お前は俺の母親か! と、突っ込みたい衝動に駆られたけど、なんとなく藪蛇やぶへびになりそうな予感がしたので、大人しく引き下がる。

「……こほん。つまり、だ。耐熱性を持つ表皮を削った事で、今の緋熊は全身が弱点だらけになってる訳だな。そして、そのき出しの皮膚に、高火力の緋色の炎を纏わせてしまった。結果、緋熊は自分で自分を焼く羽目になりましたとさ。めでたし、めでたし」

冷静に考えたら、炎を消してしまえば済むと分かるけど、緋熊は予期せぬ大ダメージにパニックを起こしているのか、のたうち回ったままだ。

恐らく、自分の炎に焼かれるのは初めての経験なんだろう。

まぁ、そもそも緋熊の耐久力が、ずば抜けている上に、あの厄介な緋色の炎があるからな。

近接戦で切り傷や刺し傷を与えられるような相手は、この森に居なかったんだろう。

たった一度でも、そんな経験をしていれば、この作戦は通用しなかったはずだ。

そう考えると、【最強】というのも考えものだな。

自分の弱さに気付く機会が滅多に無いんだから。

……ちなみに、もしも緋熊が自爆を察して炎を纏わなかったら。

その時は正面からガチバトルになってたな。

どうやら、あの炎はステータスの上昇効果もあるみたいだし、その恩恵が断たれた緋熊なら、互角に戦えたと思う。

とはいえ、その場合は確実に勝てる保証が無かったから、狙いが上手くハマって何よりだ。

「……じゃあな。最初のラスボスさん」

やがて黒焦げになった緋熊に、リベンジの成功を宣言した俺は、リリィ達と共に拠点に凱旋がいせんしたのだった。

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