能力値リセット 〜ステータスALL1の無能から徐々に成り上がるつもりが、1ヶ月で俺TUEEに変貌しちゃいました!〜

雪月 桜

誤算と油断

「――フッ! ハァッ! セァッ!」

「グルル……。グラァァァッ!」

水を浴びて弱体化した緋熊ひぐまに対し、【武器】を得て戦力アップを果たした俺。

一方的に狩る側と狩られる側だった両者の立場は、今や完全に逆転していた。

これまでの鬱憤うっぷんを晴らすべく、果敢かかんに攻める俺の動きに、緋熊は翻弄ほんろうされるばかりだ。

ただでさえ動きが鈍ってるのに、足場が水だからな。

歩き慣れてないと、足を取られて思うように動けないだろう。

とはいえ、水を苦手とする緋熊には水場を歩いた経験なんて皆無に違いない。

この状況で出来る事と言えば、自慢の4本腕で急所をかばう事と、苛立いらだたしげにうなる事だけ。

そりゃあ、緋熊がキレるのも無理ないよな。

なんせ、格下の俺に追い詰められるだけでも業腹ごうはらだろうに、その憎い敵の使っている【武器】が元は自分の一部なんだから。

「さすが、脳筋ステータスなだけあって、この【爪】も頑丈だな! これだけ切り付けても、ビクともしないんだから! 苦労してし折った甲斐があったぜ!」

そう、俺が手に入れた武器の正体は緋熊の爪だ。

奴が弱体化したのを確認した俺は、すぐさま狙いを爪に定めた。

その理由は三つある。

まず、一つ目。

俺の打撃だけでは、致命傷を与えられないから。

そして、二つ目。

奴を倒す切り札のために、切り傷、あるいは刺し傷を量産する必要があったから。

最後に、三つ目。

俺の手元にも付近にも手頃な武器がなく、ちょうど奴の爪が水を浴びて柔らかくなっていたから。

以上の理由から、俺は軟化した奴の爪を集中的に攻撃し、根本から圧し折ったんだ。

と言っても、元が頑丈だから、かなり苦労したけどさ。

ちなみに、回収した爪は風の基礎魔法で乾燥させ、強度を取り戻している。

それから、濡れるたびに乾かして、硬度を保っている状態だ。

「……にしても、図体がデカイだけあって、この爪も広くて分厚いな。もはや、ちょっとした短剣サイズだろ」

流石に切れ味や強度を比べたら、本物の刀剣に劣るだろうけど、今の俺には充分すぎる。



そして、その後も、一心不乱に緋熊を攻め立てる俺だったが…………不意に足がもつれた。

「な、しまっ――!?」

「グルァァァッ!」

「ガハッ……!?」

唐突に訪れた、一瞬の好機を逃さず、緋熊は肩から突っ込んできた。

そのタックルをモロに受けた俺は冗談みたいに吹っ飛び、湖を飛び出してほとりの木に激突する。

そして、ぶつかった衝撃でミシミシと音を立て、倒れていく幹の根本に倒れ込んだ。

「……くっそ、誤算だった。まさか俺の足に、そこまで負担が掛かってたなんて……」

冷静に考えれば当たり前の事だけど、いくら水辺を歩き慣れていようと、足に蓄積する疲労が減る訳じゃない。

これまでの戦闘や昼間の水遊びでも、俺の下半身には相当な負荷が掛かっていたんだ。

その影響と自分の限界を見誤った俺の、痛恨のミス。

何とか攻撃の直前に、耐久力に最適化したものの、立ち上がれそうにないダメージを負ってしまった。

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