能力値リセット 〜ステータスALL1の無能から徐々に成り上がるつもりが、1ヶ月で俺TUEEに変貌しちゃいました!〜

雪月 桜

言い付けを破ってでも

「ハヤト様っ!」

「リリィ!?」

まばゆい閃光が辺りを蹂躙じゅうりんした直後。

森の奥から姿を見せたのは拠点に戻ったはずのリリィだった。

その顔を視界に捉えた瞬間、処理しきれない程の感情が濁流だくりゅうのように押し寄せてくる。

それは、無事に再会できた喜びだとか。

なぜ来てしまったんだという怒りだとか。

彼女を巻き込んでしまった悲しみだとか。

一人でケリを付けられなかった悔しさだとか。

それと同時に、言いたい事も山ほど頭に浮かんできたけど、そういうのは全部、後回しだ。

「……行くぞッ!」

「はいっ!」

たった、一言。

それだけで全てが伝わる。

打てば響くようなリリィの反応に、思わず笑みがこぼれた。

そして、駆け寄って来た彼女にフェアリーを預け、すかさず抱え込む。

ぞくに言う、お姫様だっこだ。

それから、俺は脇目も振らずに、その場を後にした。

背後からは、緋熊ひぐま苦悶くもんの声が響いてくる。

「リリィ、さっきの光は何なんだ!? 俺は直視しても問題なかったのに、アイツだけ苦しんでるぞっ」

「光属性の初級魔法、“浄化の光”です! モンスターの弱体化が主な効果ですけど、あんな風に目晦めくらましにも使えるんですよっ。ただし、使うたびに耐性が付いてしまうので、次は効かないかもしれません……」

そんな説明を口にしながら、リリィはフェアリーの治療に当たってくれている。

どうやら俺の意図を正しく理解してくれたらしい。

まぁリリィなら、そんなこと関係なしに治療してくれただろうけど。

「なぁに、こうして離脱の切っ掛けを作ってくれただけで充分だ。……あんな事を言っておいて虫が良いと自分でも思うけど、来てくれて本当に助かった」

「……怒って、ないんですか?」

俺の腕の中から、不安げな表情で見上げてくるリリィ。

……まぁ、あれだけ厳しく言い含めた事にそむいた訳だからな。

それに、リリィは根が優等生タイプだし、信頼を裏切ったんじゃないかって心配になるのも分かる。

だからって、この体勢で上目遣うわめづかいは反則だろぅ!

リリィをお姫様だっこするのは初めてじゃないけど、あの時はリリィの意識が無かったからなぁ。

こうして互いに見つめ合ってしまうと、急に恥ずかしさが込み上げてくる。

……って、今は、そんなこと言ってる場合じゃないっつーの!

「正直に言うと、ちょっとだけ怒ってる。あれだけ危ないって言ったのに、何で来ちゃったんだって」

「うぅ……ごめん、なさい」

返す言葉もない、といった様子で、ビクビクと縮こまるリリィ。

おいおい、俺の話は、まだ終わってないぞ?

「でもな、フェアリーが俺をかばっておとりになった時に分かったんだ。仲間を危険にさらして、自分だけ安全な所にいるのが、どれだけ最悪な気分かって事にさ」

「……ホントに、その通りですよぉっ! 私、一度は、ちゃんと拠点に戻ったんですからねっ。でも……でもっ」

「我慢できなかったんだよな? 俺も同じだ。コイツが危ない目に遭ってるって思ったら、深く考えるより先に身体が動いてた」

そう言って、穏やかな寝息を立て始めたフェアリーの頬をつつく。

すると、フェアリーはくすぐったそうに身体をよじって、またスヤスヤと眠りに落ちた。

「……だから、俺にはリリィを責める資格は無い。それに、結局、こうして世話になってる訳だし。大きな借りが出来ちまったな」

「……借りなんて、そんなの気にしなくて良いんですよ。私達は対等な友達で、仲間じゃないですか。そんな他人行儀な事を言われたら、また寂しくなっちゃいますっ」

プイッと顔を背けるリリィ。

一見、ねてるように見えるけど、わざとらしさが目立つから、たぶん演技だろうな。

実際には、そこまで怒ってないと思う。

だけど、そういう態度を取られると、こっちも意地悪したくなるんだよなぁ。

「分かった、分かった。俺達の間で貸し借りは無しな? じゃあ例の“何でも言う事を聞く”って約束もナシって事で――」

「そ、それは別腹ですから!」

「あははははっ、別腹って何だよ」

「別腹は別腹ですからぁ!」

その後も、リリィはかたくなに権利を主張し続け、とうとう半泣きになった辺りで、俺も悪ノリを止めた。

まったく、ちゃっかりした王女様だ。

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