能力値リセット 〜ステータスALL1の無能から徐々に成り上がるつもりが、1ヶ月で俺TUEEに変貌しちゃいました!〜

雪月 桜

真偽

「……ハァ……ハァ……。よし、もう追って来てないな」

背後に感じていた殺気から、一心不乱に逃げ続けて、どれくらいの時間が経っただろうか。

月の位置から考えると、とうに日付が変わっているのは間違い無さそうだ。

いくらステータスの恩恵で速くなっているとはいえ、それだけ長く走り回ってると、体力的にも精神的にも限界だった。

念の為に振り返って見ても、既に【敵】の姿はない。

「つ、疲れた……っとと」

ようやく危機を脱したという安心感で、思わずひざから力が抜けた。

取り敢えず受け身を取って、身体を傷めないようにだけ気を付けつつ、そのまま仰向けに寝転がる。

「……リリィは大丈夫かな」

疲れて真っ白になっていた頭に浮かんだのは、ひとり残して来た少女のこと。

拠点から離れるようなルートを辿って逃げて来たから、彼女が例の【敵】と遭遇する可能性は限りなく低い。

それでも心配なものは心配だ。

それに、お互いの安全を確保するためとはいえ、残酷な仕打ちをしてしまったという罪悪感が沸々と込み上げてくる。

そうして乱れた心と荒い呼吸を少しずつ整えながら、相変わらず悪魔の嫌らしい笑みにしか見えない三日月をぼんやりと眺める俺。

「……赤い月、か。別に月蝕げっしょくって訳でも無さそうだけど……。なんで、よりによって、こんな日に……」

少なくとも、この世界の月が常に赤く見えるという事はない。

この世界に来て、まだ2週間も経ってないから、どれだけ珍しい現象なのか分からないけど、赤い月を見たのは今日が初めてだ。

「元の世界で見た時は、単に珍しいものとして楽しんでたけど、こっちの世界だと妙に不気味に見える……。まさか、変な呪いとか掛かってないだろうな?」

冗談半分で呟いたものの、何となく落ち着かない気分になったので、そそくさと木の影に移動して光から逃れる。

べ、別に臆病風おくびょうかぜに吹かれた訳じゃないぞ?

「って、そうだ。お前も少しだけ、あの月を見てみろよ。そんで危なそうだったら教えてくれ」

そう言って、包んでいた両手を開き、フェアリーを解放する。

しかし、長い緊張にさらされていたせいか、フェアリーは眠ってしまっていた。

なるほどな、道理で大人しかった訳だ。

すっかり熟睡しているようで、俺が声を掛けても、ピクリとも動かない。

……って、ちょっと待てよ?

つい最近、似たような場面を見た記憶が。

「あれは確か…………ッ!?」

俺が記憶を探り始めたのと同じタイミングで、フェアリーの身体がうっすらと光る。

そして、その身体が徐々にけ始めていた。

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