能力値リセット 〜ステータスALL1の無能から徐々に成り上がるつもりが、1ヶ月で俺TUEEに変貌しちゃいました!〜

雪月 桜

ステータスALL1

「それでは、ハヤトさん。これより、あなたのステータスとスキルを【鑑定】致します。心の準備はよろしいですか?」

「は、はい。よろしくお願いします」

「いいでしょう。では、いきますぞ? ……むむっ、むむむぅ……」

胸の前で手を組んだ神父は、神妙な顔で目を閉じて、何やらうなりだす。

おそらく【鑑定】のスキルを使ってるんだろうけど、こんなに集中しないと駄目なのか?

だとしたら、クラスメイト全員分って、結構な負担になりそうだな。

そんなことをぼんやり考えていると、やがて神父は額に汗を浮かべて、閉じていたまぶたを開いた。

「失礼。どうやら、貴方のスキルは前例の無い未知のスキルだったようです。【鑑定】のスキルは未知の存在に対しては消耗が激しくなりますのでな。時間が掛かってしまいました」

「は、はぁ。それは、お手数お掛けしました」

なるほど、道理で様子が変だと思った。

でも、未知のスキルって事は、使ってみないと効果が分からないって事か。

あと、これまでにないスキルなんて、テンションが上がるけど、別に強力なスキルだって確定した訳じゃないもんな。

もしかしたら、歴史に名が残るくらいショボいスキルかもしれない。

とにかく、後は使ってみての、お楽しみだな。

「あなたの固有スキルの名は【能力値リセット】。効果までは判断できませんのでな。ご自分で解明して下され。そして、ステータスですが……」

何故か、そこで言いよどむ神父。

その浮かない顔を見れば、誰だって嫌な予感に襲われるだろう。

そんな不穏な空気が伝わったのか、今まで騒がしかった教会内がシン……と静まり返る。

俺を含めて、誰もが神父の次の言葉に耳を傾けていた。

「その……誠に申し上げにくいので、ご自分で確認して頂けますかな? 【鑑定】が終われば、いつでも自由に能力を確認できますので。心の中で【ステータス】と念じてみて下され」

「わ、分かりました」

突き刺すような周囲の視線に耐えかねたのか、こちらに話を投げる神父。

その言葉に従って、【ステータス】と念じた俺は、あまりの驚きに目を見開いた。

目の前には、俺にだけ見える文字と数字が浮かび上がっている。

ただし問題は、その現象ではなく、内容の方だ。

その数値は、予め聞かされていた目安よりも遥かに低い数値だったんだから。

「……ねぇねぇ。ハヤト。どうだった?」

俺を心配し、気遣っているような声音が隣から響く。

しかし、振り向いて見えた、サユリの表情からは感情が全く読み取れなかった。

俺は、この顔を良く知っている。

サユリが他人を値踏みする時の顔だ。

「あっはは……。なんか、俺のステータス、大した事ないっぽい。まいったな、こりゃ」

とはいえ、嘘なんていた所で、サユリは確実に見抜くはずだ。

俺は正直に自分のステータスを告げた。

その誠実さが、きっと自分の身を救ってくれると信じて。

――けど、

「あっそ。じゃあ、ここで、お別れだね」

「……えっ?」

俺は誰よりも知ってたハズなのにな。

サユリが、どんな人間かってことを。

「いやぁ、お人好しのハヤトとツルむのも悪くなかったけどさ。やっぱり、これからは強さがモノを言う訳じゃん? だ・か・ら、無能になったハヤトは、お役御免ってこと。恨むなら自分の無力さを恨んでね〜」

そんな残酷な言葉を突き付けているにも拘らず、サユリからは悪意というものが全く感じられなかった。

むしろ、その笑顔は純真無垢な子供のようで。

今までに見た、サユリのどんな悪人ヅラよりも、おぞましく見えた。

「は……ははっ……。で、でも俺には、まだ希望が残ってる。俺には未知のスキルが……」

「えー、でも未知のスキルなんて、怖くて使えなくない? 下手したら使った途端に死んじゃうかもよ?」

「そんな訳あるか! いいから黙って見てろ! 俺だって……俺だってなぁ!」

そして、俺は、ヤケクソ気味にスキルを発動した。

その瞬間、まるで世界が停止したような感覚を覚える。

それと同時に体から力が抜けて、思わず膝を付いてしまう。

「な、何が……」

「うわっ、本当に危ないスキルなんじゃないの? ていうかソレ、他人にも移ったりするんじゃない?」

サユリだって、スキルの内容を知らないんだから、何の根拠も無い発言だ。

だけど、それは、俺も同じ。

反論できる根拠なんて持ち合わせていない。

その結果、

「ウッソ、マジで!? ヤバいじゃん離れようぜ!」

「おい、無能! 俺達は、この世界の未来を担う英雄候補様だぞ! 近寄って足を引っ張ったりしたら、ぶっ殺すからな!」

「うーわ、カワイソ〜。せっかくの異世界なのに、こんな目に合うとか」

「じゃあ、アンタ助けてあげれば? アタシはゴメンだわwww」

サユリの言葉を信じた(あるいは万が一のリスクを恐れた)クラスメイト達が、一斉に距離を取っていく。

その目は、どれも同情や哀れみ、嫌悪といったマイナスの感情一色に染まっていた。

……もう、この場所には居られないし、居たいとも思わない。

俺は、ふらつく足取りで何とか教会を後にした。

だけど、それから更に大変な事に気付いたんだ。

なんせ、改めてステータスを確認した時、その数値は全て1になっていたんだから。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品