氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

62.エレミヤとルイの因縁

エレミヤとルイはお互いに睨み合って対峙していた。

「まさか、お前が奴だったとはな。…氷花の鬼神。」

それを聞いてエレミヤは薄っすらと笑う。

「いやぁ…。それは別にいいとしてさ、出来れば君と戦いたくはないんだよね…。」

その言葉にルイはエレミヤ睨みつける。

「父さんを殺したお前が何を言う!」

エレミヤは苦笑いをする。

ルイとエレミヤの間にの間に冷たく乾いた風が吹いた。

❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅

事の発端はエレミヤ達が宿へ帰ってきたときだった。ユウは街を散策するらしいので今はいない。

バラックが思い出したようにエレミヤにこう言ったのだ。

「そうだ、エレ。父上からの伝言。『氷花の鬼神として5ヶ月後にトゥーリスに戻ってくること。』だってさ。」

エレミヤはそれを聞いてむ〜と嫌そうに顔をしかめる。

「えー…。なんでよ?」

 それを聞いてバラックは肩を落とした。

「なんか分からないけどさ。最近、氷花の鬼神の活動がないからって俺ら攻撃されるかもしれないんだよ。全く、なめられたもんだよな〜。」

エレミヤはムスッとした。
そして再びバラックに問う。

「でもさ、なんて僕らがここにいるって分かったわけ?GPS……な訳ないよね。」

バラックは「じー……?」と聞いたこともないだろう言葉に首を傾げていたが

「いや、父上曰く、『エレミヤはまだ遠くに入っていないと思うからあちこち言って探し出してから伝えて来い。』だってさ。ここにエレが居なきゃ、俺は他の国もあちこち行かなくちゃいけなかったんだ。ここに居てくれてありがとう。」

バラックの誠心誠意こもった感謝にエレミヤは笑ってこう返した。

「どういたしまして…ってなんか言いづらい雰囲気だね。この話。」

エレミヤにニッコリと笑いかける
と、バラックはゆっくりと立ち上がる。

「じゃ、俺は戻るよ。明日も来るかもしれないからよろしくー。」

 と言って去っていこうとする。

「あ、僕が見送りしてくるよ。」

とエレミヤが見送りを買って出ると、

「私もー!」

と叫び、ミイロがエレミヤの腕に抱きついてくる。

エレミヤは一瞬険しい顔をしたが、ミイロにニッコリと笑いかけられるとすぐに表情を崩した。

「さぁ、行こっか。」

そして三人は外へ出て、バラックを宮殿まで送る。
するとエレミヤは

「僕、ユウを探してくるよ。」

と言い、ミイロを先に帰るよう、促す。
ミイロはニッコリと笑って頷く。
ミイロも何かを察しているのだろう。

ミイロが走り去り、エレミヤは誰もいない路地裏へ入る。

すると、突然上から襲いかかってきた人物がいた。
怒りに満ちたその表情が読み取れる。
エレミヤはうっすらと笑い、重心を後方へ傾けた。

「やぁ、ルイ。」

エレミヤは余裕の表情でひらりと避ける。
ルイは手に持ったナイフを構えて攻撃体制だ。

「なんで急に襲いかかってきたのさ?怖いんだけど。」

すると、ルイはこう答えた。

「まさか、お前が奴だったとはな。…氷花の鬼神。」

❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅

「いやぁ…。それは別にいいとしてさ、出来れば君と戦いたくはないんだよね…。」
「父さんを殺したお前が何を言う!」

ルイが怒りを全面的に浮かべながら襲いかかってくる。
ナイフが凄まじい速さでエレミヤに襲いかかる。
ルイの攻撃をエレミヤは軽やかなステップでそれをすべて避ける。

「…殺した?僕が?君のお父さんを?だったらあなたは何者ですか、っていう事ですよ!」

ルイはエレミヤを睨みつけた。

「俺の父さんは子爵の位を持っていたが、お前に殺されてから色々な身に覚えのない罪がこれ幸いと我々一族…ラウンスタビート家にかけられた。冤罪なんだよ!だから俺はスラム街に捨てられ、そこで育った…。」

エレミヤは真顔でそれを聞いていた。
ルイは感情を高ぶらせ、抑えても抑えきれない怒りをエレミヤにぶつけている。

「お前のせいで俺の人生も変わった!どうしてくれるんだ、おまえのせいだぞ、全てな!」

そこでエレミヤは口を開いた。

「ふぅーん…。」

顎に手を当て、呟いた。

「君のお父さんってもしかしてさ、リーグ・ラウンスタビート?」

ルイはその名前を聞いてエレミヤを睨みつける。

「やっぱりな…。」

と唸るようにエレミヤを睨みつける。
今、エレミヤの口から発せられた名前は間違いなくルイの実父の名前だからだ。
するとエレミヤは微笑を浮かべる。

「ってことは君はその息子、ルーラン・ラウンスタビートって訳か。」
「そうだ!」

ルイは怒りのあまりエレミヤの口調に起きた変化を聞き逃してしまった。
エレミヤは笑う。
ルイは眉をしかめる。

その笑いはこちらへの侮辱、嘲笑いでさえ見えたからだ。

その瞬間。
エレミヤの隣に不自然な光が現れた。
そこから現れたのは…。

ルイは舌打ちをする。

「どういう事だ、エレミヤ。」

ルイはその人物を見るなり唸る。
エレミヤでさえ驚きにポカーンと口を開いている。

「え、えーと…。この方はバラックとお父さん…つまりトゥーリスの王様なんだけど…。え、どうしてここに?」


転移能力の力を借りたのか、現れたトゥーリス王はエレミヤに笑いかけたあと、ルイを見て目を細める。

「この者か…。」

と呟くと、エレミヤに触れる。
その瞬間、エレミヤは電池切れのロボットのようにバタリと倒れる。

エレミヤが頭を打つ前に抱きかかえたトゥーリス王。

「やぁ、少年。」

味方のはずのエレミヤを気絶させたトゥーリス王を驚きの眼差しで見つめるルイにトゥーリス王は自分の外套を脱ぐと、地面に横たえたエレミヤの頭の下に入れる。

「ここからはエレミヤに聞かれたくないからな。」

と言いつつ、腰に手を当てるトゥーリス王。
ルイは歯を食いしばる。

(意味がわからない…。エレミヤはログラーツ王子だったが今はトゥーリスの味方のはず…。それに…触れただけで氷花の鬼神を気絶させるなんて…。)

ルイは寒気に襲われた。
ブルっと体を震わせると、それを見たトゥーリス王は

「私が強いのではない。エレミヤが自ら私の力に束縛されることを望んだのだよ。」

と笑いながら言った。
トゥーリス王はニヤリと笑う。

日本人が聞いたらエレミヤがドMに聞こえるが、違う。
そう、断じて違う。
そこだけは覚えておいてほしい。
エレミヤがドMではないことを。

「エレミヤは祖父思いでな、その首輪と私の蜘蛛の力で束縛されることで祖父の死刑を留めたのだよ。いい子だなぁ。」

とニッコリと笑うトゥーリス王。

それを聞きながらイライラが募るルイ。

「トゥーリス王…。どうしてここに…。」

トゥーリス王は警戒するルイに近寄ると、肩に手を置く。
ルイはナイフを握りしめる。 
トゥーリス王はルイの耳元に口を寄せる。

「我々に力を貸す気はないか?私が君に差し出すものは君の父…リーグ・ラウンスタビートの死の真相を教えようではないか。ターゲットは…。」

ルイは最後に呟かれたターゲットの名前。それを聞いてトゥーリス王の手を勢いよく振り解き、後方へ飛ぶ。。

「どういうつもりだ…!」

ルイはトゥーリス王にこう叫ぶ。

「あいつの…エレミヤの旅仲間を殺せとはっ…!」

トゥーリス王は笑う。
楽しそうに。愉快そうに。

ルイは唇を噛みしめる。
唇が噛みきれる。

しかし、どうでもいい。

この男は…最悪だ……!

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品