氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

61.リンネの輪

「お前の依頼に参加させてもらう。」

ルイは最後にそう言ったあとに去っていった。
急いでいるのを見て、どこかでまた人殺しをするのだろう。

人殺しは止めなければいけないが、エレミヤも人殺しなため、「人を殺すな!」とは言えない。

(ルイよりも僕はたくさん人を殺しているしなぁ…。)

ルイは自分で20人ほど殺した、と言っていた。
しかしエレミヤは数百人もの人を殺している。

(それにしても…ルイは優しそうな男だ…。)

 他にも犯罪は犯しているらしいが、エレミヤが注意できることでは無い。

エレミヤは王宮に侵入もしているし、アーシリアを盗ったりしたことがあるからだ。

「さ、僕らは宿に戻ろう。みぃ達が待ってる。」

アーシリアが元気よく返事をし、ダリアは腕の中の赤ん坊にうっとりとしながらも頷いた。

「お姉ちゃんですよー。」

とダリアが赤ん坊に言う。
男の子らしい赤ん坊は嬉しそうにダリアに手を伸ばす。

「父様。ダリア、この子に名前つけたいです!」

エレミヤが笑いながら承諾する。

「じゃあ…リンネにする!輪廻転生の、輪廻!」
「カワイイ!いいと思うよ、さすが私の妹ね!」
「はい、姉様!」

エレミヤはリンネという名前に決まった男の子の頭をなでる。

(でも…旅をしながらまだ乳飲み子のリンネを育てていけるのか…?)

エレミヤは心配そうに目を伏せる。

「それに、輪廻の輪ってありますよね?」

ダリアがエレミヤに聞いてきた。

「うん。」

ダリアは嬉しそうに目をキラキラ輝かせて言った。

「輪っか…つまり、円。円といえばループ、無限!つまり、今の人生でも、転生しても無限の愛を与え、受け入れ…円満な性格になってほしいという願いを込めました!」

ネーミングセンス、抜群…。

エレミヤは驚きつつ、ダリアとアーシリアの頭をなでた。

「アーシ、ダーシャ。リンネをこれからも連れて行くとして…この世界に粉ミルクってあるのかな?」

アーシリアとダリアは顔を見合わせると笑顔で首を横に振る。

「そんなのあるのは地球だけですよ!」

ダリアが言った。
エレミヤは彼女たちの笑顔に反し、頭を抱えた。

「どうしよう…母乳は…。」

アーシリアとダリアはここで驚きの提案をしてきた。

「ママがあげればいいんじゃない?」
「はい。そのほうが簡単だし…。」

エレミヤは剣姉妹の提案に目を数回瞬かせた。

「はいぃぃぃぃ?」

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「まっくん達、遅いねー。」

宿にて。
ミイロ達は自室でそれぞれの好きなことをしていた。

メハナとティナはお菓子を食べ、ユウは本を読んでいた。
ジュリバークは洗濯物をきれいに畳んでいる。

「確かに買い物にしては遅いな。しかし、エレミヤは受けた依頼でやばいことに巻き込まれてらしいからな。仕方なかろう。」

と綺麗好きなジュリバークがゆっくりと時間をかけて一切のシワもなく服を畳んでいる。

その時、ドアがノックされた。

「はーい。どうぞ。」

ミイロが言うとドアが開いた。
そこには女将さんが居た。そして開口し、一言。

「あんたら、何者だい?」

ミイロ達が首を傾げていると、その後ろから

「やあ、みんな!」

と言いながらバラックが顔を出した。

つまり、女将さんが言いたかったのは

『トゥーリスの王子と友達なんて、あんたら何者だい?』

と言うことだろうか。
ミイロは女将さんに笑いかける。

「彼とは同級生なんですよ。」

すると女将さんは腑に落ちないような顔をしたがすぐに身を引いた。

「んじゃ、ごゆっくり。」

と言って食堂へ戻っていった。

「失礼します!」

と言って入ってきたバラック。
彼の後ろにはバロークも居る。

「あれ。エレは居ないのか。まあいいや。待ってよっと。」

そう言いながらバラックはソファに座った。

「久しぶりね、バラックくん!」

とミイロが言いながらお茶を出す。

「ありがとう、ミイロ!」

バラックは笑うとお茶をすすり始める。

「っち!あーぁ。猫舌は嫌だなぁ…。」

バラックは心底嫌そうに呟いたその時だった。

「ただいまー…。あっ!ラックだ!」

エレミヤが帰ってきたと思ったら嬉しそうに駆け寄ってきた。
バラックは飛び込んできたエレミヤを抱き止める。

「わっ!エ、エレ!」

その後ろからは剣姉妹が顔をのぞかせた。

「おっ!噂のエレの愛娘さん!!」

バラックが笑う。
そしてダリアが抱っこしている赤子を見る。

「ん?その子は?」

エレミヤがやっとバラックから離れ、隣に座る。

ダリアは弟をバラックに差し出す。

「弟です!」

と言ったのだ。
ミイロ達はこの子のことを聞いていたのだが、そのことを聞いたこともないバラックは当然疑問に思うのだが…。

「弟?…え、もしかして!」
「ん?!」

バラックは隣で座っているエレミヤを見る。
エレミヤは驚きのあまり持っていた熱々の紅茶が入っているコップを落としそうになるが、慌てて取っ手を取り、溢れた紅茶をコップの中で受け止める。

「ち、違うってば!バラックといい、ルイといい、なんでそう思うかなぁ?」
「ルイ?」
「そんなことよりも!この子は養子だよ!名前はリンネっていうんだ。ダー…ミストがつけたんだよ。な?ミスト。」
「はいっ!」

そこで誤解が解けるとともにダリアがミストと呼ばれていることに気づいたバラック。

「ラムも頑張ったもんなー!」
「そうなのだ!」

アーシリアがエレミヤの言葉に元気よく答える。

(アーシリアはラム、ね。)

バラックは心の中で思った。

そこで聞き慣れない声が聞こえた。

「え〜と……。」

もちろんユウだ。
そこでエレミヤが笑うと

「ラック、こちらユウ。本名はユウガ・ロンビネースト。」

するとバラックは大きく目を見開いた。

「えぇ?!世界に3人しかいないSSS ランク冒険者の一人で、『龍殺し』の異名を持つ最強冒険者?!」

と叫んだのだ。

しかし、その大声で顔が歪んでいくリンネ。
エレミヤがそれに気づく。
しかし、時は既に遅し。

「おぎゃぁぁぁぁ!!」

とリンネが大泣きを始めた。
バラックがバッと振り返る。
すると、ダリアは慌ててあやそうとする

「よ、よしよし。姉様がついていますからね。」

とゆっくりと揺らすが、泣き止まない。
すると、リンネが泣き止まない悔しさと、感受性が強いダリアは…。

「うわぁぁぁん!」

と泣き始めるのだ。
そんなダリアから弟を奪い取るアーシリア。

そして手慣れた様子でゆっくりと優しく揺らす。
するとだんだん泣き止むリンネ。

「ほら。リンネは泣き止んだよ。ミスト。」
「うっうっ…ありがとうございます、ラム姉…。ごめんなさい、ミストが不甲斐ないばっかりに…。」
「いいの。誰にも得意不得意はあるんだよ。」

アーシリアは妹に優しく語りかけた。

エレミヤと申し訳なさそうな表情のバラックは顔を見合わせると、ふふっと笑った。

(どうか、リンネが無限の愛を与え、受け入れつつ円満な子に育ってほしいな…。)

エレミヤはその様子を見て優しく笑った。

その後、この世界には粉ミルクはないが母乳そのものが売っているらしいのでホッとしたエレミヤでもあった。


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