氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

58.任務後の一日

エレミヤ達はリィカを取り戻してからレイチェルのもとへ連れて行った。

レイチェルは我が子を見ると泣きながら抱きついてきた。

「ありがとう、ありがとう!」

何回もエレミヤ達にお礼を言うと、リィカを抱え去っていった。
エレミヤたちの掌にエレミヤが求めた報酬の2倍の報酬を押し付けて。

エレミヤは押し付けられた100ロンを眺める。

「…なんか照れくさいな。」

そう言いながら袋にお金を仕舞うエレミヤ。
周りではみんながニコニコしている。

「まっくん可愛い〜。」

照れているエレミヤを見てミイロがそう言った。
エレミヤは目を瞬かせる。

「可愛いって、何が?」

すると、ミイロは何も答えずにエレミヤの腕に飛びつく。

「さぁ、宿へ帰ろうっ!」

そう言いながらエレミヤの腕を引っ張っていくミイロ。

「ちょ、みぃ?そんなに帰りたいの?これからちょっと観光していこうよ。せっかくだし…。」

エレミヤは不満そうにミイロに訴える。

夕日が傾いて黄金色の月が顔を出す。

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「はぁ…はぁ…何とか…逃げられたな…。」
「えぇ、そうね。まさか居場所がバレちゃうとはね…。でも、取られちゃったわ。商品。」

肩でぜぇせぇ息をしているルイと腰に手を当て余裕の体のアリスが街の路地裏で話していた。

「あぁ。…あいつらも俺らと同業なのか?」

ルイの疑問にアリスは首を横に振る。

「違うでしょうね。あの子の親に依頼された冒険者…または気配消すのが引くほど上手だったから暗殺者という可能性もあるわね。対策を考えないと…。」

ルイは額から流れ落ちる冷たい汗を拭いつつ、上司の言葉に軽く頷いた。

(しかし、何でこんな時に炎龍が現れたんだ?)

ルイはあちこちに落ちている紙を拾う。
その紙にはこう書かれていた。

「我が国に栄光あれ!炎龍、現る!」

と。

その下には小さな文字でトゥーリス王国の使者が貿易の交渉ために来訪する事を伝えていた。

ルイとアリスが真剣な面で対策を考えている時、エレミヤ達は宿で少し早めの夕飯を楽しんでいた。

「リィカちゃん可愛かったなぁ〜!」

ミイロの膝に座っていたアーシリアがそんなミイロの言葉に

「私だって赤髪だよ!」

と不満そうに叫び、自分の髪の毛を摘む。

「ほら、真っ赤じゃん!」

何なら私を誘拐してよ!
と言いたげなアーシリア。

「ラム。ラムが誘拐されたら僕は嫌だなぁ。」

エレミヤが言うと、アーシリアはミイロから降り、エレミヤに抱きつく。

「大丈夫!時間止めてパンチ一発だよ!」

と明るくいいながら。

ユウはそんなアーシリアの言葉を聞いて首を傾げる。

「時間を止める?ラムちゃんも異能力者なのかい?」

アーシリアは首を横に振る。

「違うよ?ラムの力だよ!」
「え?力と異能力ってなんの違いがあるんだい?」

アーシリアは頬を膨らませ、ユウに何かを言おうとする。
それをエレミヤが止める。

「あ…。」
「ラム。落ち着いきなさい。スープ冷めちゃうよ。」

不満そうな顔をしながら口を閉ざし、手に持ったスプーンをクルクルと器用に回すアーシリア。

「とにかく!私の力と異能力は全くの別物なの!」

と叫ぶと、ミイロの膝の上に戻り、スプーンでスープを食べ始める。

エレミヤは姉を呆れたように見つめる妹剣を見た。
ダリアは姉と違い、誰の膝にも座らず、椅子の上に硬めのクッションを敷くことで身長とテーブルの高さを調節していた。

「ミスト。おーい、ミストー。」

ダリアは姉から目を離し、エレミヤを見る。
キョトンと首を傾げるダリアにエレミヤは言う。

「ミストも僕の膝の上に来るかい?」

すると、ダリアはそこから目にも止まらぬ速さで椅子から飛び降り、エレミヤの椅子の足元に来た。

「行く!」

じっとエレミヤを見上げるダリア。
エレミヤはダリアをヒョイっと持ち上げ、自分の膝の上に乗せる。

「あっ!一人で優越感に浸っていようと思ったのに!」
「そうは行きませんよ。ラム姉は母様の膝の上はさぞ気持ちいいでしょうね。」
「うん!ママの膝の上は私の席なの!」
「そうですか。なら父様の膝の上はミストの席です。」

姉妹で喧嘩のような、もしくはそうではないような会話をする剣姉妹にティナは問いかける。

「そういやさ、グラム達ってエレミヤよか強いのか?」

アーシリアとダリアは顔を見合わせる。

「…パパが強くなればなるほど私達も強くなるの。」

アーシリアが言った。

「父様の力はミスト達の力、ミスト達の力は父様の力です。」

ダリアは体重をエレミヤに預けながら言う。

二人の答えを聞いてティナは目を瞬かせた。
意味を探っているのだろう。

「…そうか。よく分からんけど。」

結局意味が分からなかったらしい。

アーシリアは俯いて、考え込んでいる。
そして顔を上げると

「そうとしか言えないもん。私達だってよく分からないんだもん。」

と不貞腐れたように言った。

「そ、そうか…すまない。」

ティナが少し苦笑いしながら言った。

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「では頼んだぞ。ジュレーク。」
「ジュレーク、体には気をつけるのよ。」

トゥーリス王国の使者であるバラックは家族に見送られている。
姉と妹が優しく後ろで微笑んでいる。

「じゃあ、また来週ね。弟よ。」
「行ってらっしゃいませ。お兄様。」

兄とは元々仲がものすごく悪いため見送りに来ないことは重々承知だ。
多分どこかでバラックの嫌味でも言っているのだろう。

しかし、バラックは会談よりも気にしている事があった。

(なんか…エレミヤとまた会える気がする!)

ワクワクを心に秘め、バラックは馬に飛び乗った。

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