氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

57.血炎の勇者

「なっ…!あれは…炎龍…!」

一人の男性がそう叫び、大量に抱えていたパン娘の数々を躊躇いもなく地に落とす。

そして炎龍である紅蓮はエレミヤ達のもとにたどり着くと、ホバリングしながら嬉しそうにエレミヤの肩に鼻を擦り付ける。
それはエレミヤに対しての愛情表現である。
エレミヤは嬉しそうに紅蓮の鼻をかく。

その様子を見て彼らは色々と勘違いしたようで、

「あの方が、炎龍の使い手であるというのか…。」

エレミヤはそのつぶやきを聞くと、にこやかに否定するために彼らを見る。
しかし、

「そうだ!人に懐くことのない龍があのように甘えているのも主だからであろう!」
(え…?)
「そうだ、そうだ!あの方が、『血炎けつえんの勇者』なのだ!」
「けつ…?」

エレミヤは二重の意味で彼らの会話に耳を疑った。

1つは「龍は人に懐くことはない」と言う事だ。

そもそも、龍と人間が偶然ばったりと出会うことはない。
なぜなら龍は人間の気配に敏感だからだ。
人間の気配を感じたらすたこらさっさとその場から立ち去るのだ。
なので、この事はまだよく分かっていないのだ。
「逃げる」という行為から人間嫌いという説とあるし、「力を与える者も居る」と言うことから好意的に接されていると考える人もいる。
エレミヤはもちろん後者である。

しかし、それはエレミヤがそう考えているだけであり、本当のところはまだ分かっていない。

なのに、彼らは「懐かない」と決めつけているのだ。

2つ目は血炎の勇者などというセリフだ。
理由は1つ。初耳だったからだ。

そして遅れてエレミヤは気付いた。

もう、彼らの誤解を取り消すことができない状況になっている事を。

エレミヤは右頬を引きつらせる。
そして咄嗟にユユリアを抱えると炎龍に飛び乗る。

「紅蓮、脱兎!」

脱兎の如く逃げろ!
紅蓮はそれを聞いて首を傾げた。

『ダット?』

エレミヤは面倒くさくなり、叫んだ。

「逃げろっ!」

すると炎龍は頷きつつ翼をはためかせる。
その瞬間、突風が巻き起こる。

「うおっ!」
「きゃぁぁ!スカートがっ!」 

最後の女性の悲鳴に紅蓮は振り返りそうになったが、エレミヤはそれを止める。

「進行方向、北北西。出発進行!」

と叫ぶ。
紅蓮はつまらなそうに唸ると、エレミヤに拗ねたように言う。

『エレミヤは冷たい。』

不満いっぱいに呟く紅蓮。
エレミヤの後ろではユユリアが国民に向かって器用に龍の上に立ち、手と尻尾を大きく振っている。

「バイバーイ!」

男はユユリアの可愛らしさに目がハートとなっている。

たしかに可愛らしいがユユリアの尻尾がエレミヤの背中にバシバシ当たっていたいことはあまり言わないほうがいいであろうか。

「いっ…。自覚はないんだけど…。」

エレミヤが尻尾の鞭に耐えながらそう呟く。
それに聞いて紅蓮はまたも唸る。

『兄さんに聞いてたよりも重症…。』

エレミヤは首を傾げて見せた。

その時ちょうど、ユユリアが手を振り終わり、エレミヤの背中にピッタリとくっついた。

「暖かぁい…。」

それを合図に紅蓮は速度を出して飛び去った。

「行ってしまった…。」

国民の一人が寂しそうに呟く。

「しかし血炎の勇者様は女性だと聞いていたが…。」
「あぁ。そうだな。」

彼らの言っていることは間違いではない。
彼らは本当の炎龍の主をまだ知らないのだ。

「まぁいいさ。いずれ分かる。」

一人の男の言葉に全員が賛同した。

エレミヤ達兄妹は目的地についた。
もちろんそこは赤毛の少女、リィカが囚われている可能性が最も高い小屋である。

そのドアの前には気配を消している仲間たちがいた。

全員で軽く頷きあった。

そしてユウがドアに手をかける。
そしてこう叫びながら突入する。

「手を上げろ!」

と。
ユウくん、前世で刑事ドラマ見すぎ。
エレミヤは驚きつつ中を見渡す。

「誰もいない…。」

エレミヤが呟く。その時だ。

「あ!赤ちゃん見っけ!」

ユユリアが嬉しそうに叫びその部屋の奥にあっま小さなベッドに駆け寄る。

「赤い髪の毛の赤ちゃんだよ!」

と叫びながら抱えると、揺れないように走ってきた。

エレミヤはユユリアから赤ちゃんを受け取る。
泣いた痕跡はあるが今はすやすやと寝ている。
そんや子供を見てエレミヤは無言で辺りを見渡す。

(みぃたちの気配隠蔽に気づいていたのか…。厄介な相手だな。もうしばらくこの国にいる必要があるな。) 

エレミヤはリィカを優しく揺する。
リィカは更に気持ち良さそうに熟睡。

リィカが完全に寝たのを確認したエレミヤ達は炎龍に飛び乗る。
そして、エレミヤの後ろに乗っているミイロに笑いかけると、

「みぃ。紅蓮をありがとうね。お陰で早く来れたよ。」

と言った。
その感謝の気持ちにミイロは首を横に振る。

「私は何もしてないよ。紅蓮に感謝した方がいいよ。」

エレミヤはミイロの言葉に苦笑いする。

「そんな遠慮を僕に貸してくれたのはみぃだよ。だから感謝する権利は十分にあると思う。」

ミイロは嬉しそうに笑う。

「分かった。その感謝、受け取ります。」

その様子を見てティナは微笑み、ユウはそんなティナをうっとりとした視線で見る。
ユユリアとアーシリア達剣姉妹は子供らしくエレミヤとミイロをいじろうとしている。

炎龍の上ではいつもと変わらない楽しい日常が繰り広げられている。

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