氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

49.龍乗りの旅人

「氷蓮〜……。まだ…?」

出発してから3時間後。
エレミヤが氷蓮の背中で寝転がって問いかける。

『…楽しているエレミヤが言うなよ。それに、もっと速度出したらみんな振り落とされるよ?』

氷蓮も言い返す。

氷蓮に乗っているのはエレミヤとアーシリア、ダリア。
翡翠に乗っているのはティナ。
紅蓮に乗っているのがミイロ。
ふうに乗っているのはユユリアとジュリバーク。

「むう……。」

エレミヤは唸る。
そして足を組み、腕を頭の下に入れ、空を見上げる。
そこには赤っぽいような、紫色のような月が昼間なのに明るく見えていた。

「…あ、月。」

エレミヤは呟いた。
隣で紅蓮に乗っているミイロがエレミヤが見ている空を見た。

「あ、ホントだ!これは何色なのかなぁー?」

ミイロが楽しそうに言う。

「ピンク!」

ユユリアが片手をピンと上げて良い、

「赤よ。」

ティナが真面目な顔で言う。

「紫色だ。」

ジュリバークが言う。
そんな回答にエレミヤは朗らかに笑うと、

「赤ワイン色でしょ?」

と言った。
ミイロはエレミヤを見ると、エレミヤを指差す。

「それっ!」

するとアーシリアは

「わぁ〜!アーシ、あの色好き!きれい!ってわぁ!!」

と氷蓮の上で立とうとし、風圧で飛ばされかける。

「ア、アーシ!」
「姉様ー!!」
「アーシちゃん!」

全員は相当慌てた。
エレミヤとダリア、そしてミイロが声を上げたが、他のみんなは緊張や驚きで何も言えない。
そしてエレミヤが受け止める。
アーシリアは涙を目にためながら堪えていたが、エレミヤに頭をなでられると、

「わぁぁぁん!」

と大泣きし始めた。
そしてすぐに緊張が溶けた。

『ア、アーシリア、無事か?!』

氷蓮がアーシリアにとても心配しているような声で問う。

「ア、アーシ、無事…よ…う、う、う…うわぁぁぁぁ!」

なんとか氷蓮の質問に答えたアーシリアだったが、すぐに泣き出す。
氷蓮は首を落とし、息を吐いている。
とてもホッとしている様子が分かる。

「よしよし。落ち着いて。ほら。」

エレミヤが優しくアーシリアを揺する。
ダリアが姉の頭を優しく撫でる。

「姉様、無事で良かったです…。」

全員が肩を落とす。

(((し、心臓止まるかと思った…。)))

そう思った。
エレミヤがちらりと下を見ると、そこには大きな湖があった。
その時だった。

『エレミヤ。喉乾いた。』

唐突に氷蓮が言った。

『じゃ、妾の水飲む?』

翡翠が言う。
氷蓮は首を横に振る。

『君の力が持たなくなるだろ?我々の力とて無限ではないのだから。』

翡翠を気遣った氷蓮の言葉にエレミヤは薄っすらと笑った。

「そうだね。一旦降りようか。」

氷蓮はコクリと頷くと、よほど喉が渇いているのか、急降下。

「きぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

先程の経験がトラウマになっているのか、やっと泣き止んできたアーシリアが再び泣き出す。

エレミヤが慌ててアーシリアとダリアを抱え、飛ばされないようにホールドする。

ダリアは恐ろしくて声も出ないようで、真っ青な顔でエレミヤの腕を掴む。

ストン、と着地した氷蓮は湖に駆け寄ると、ものすごい勢いで飲み始めた。
たまに魚も巻き添えを食らって氷蓮の口に吸い込まれていっている。

あ、水かさがどんどん減っている……。
すると、翡翠や紅蓮、そしてふうまでもが湖の水を飲み始める。

「あー………。」

エレミヤは龍たちのあまりの飲みっぷりに呆けてこれしか言えなかった。

なんだよ、残業終わりのサラリーマンの飲みっぷりだぞ…。これは……。

そしてエレミヤはその背後にどんどん近づいてくる気配を感じた。
殺気はないのでエレミヤ達のような旅人だろう。

そして現れたのはフラフラな馬に乗ったエレミヤと同じくポカーンとしている旅人だった。

「な、なんだこれぇ…?」

心なしに馬も目が点になっているように見える。
エレミヤが慌てて旅人に深々と頭を下げる。

「も、申し訳ありません、うちの子が…。」

すると氷蓮がこちらを振り向くと、

『母みたいな台詞を口に出すな。』

という。
エレミヤは額に青筋を浮かべると、

「君たちのせいだろ!少しは自重というものを学べ!」

と叫ぶ。
そんなエレミヤの言葉に氷蓮はべーと舌を出し、冗談めかして言う。

『じちょう?なにそれ?食いもんか?』

と言う。
ぴき、とエレミヤの何かにヒビが入ることを全員が聞いたような気がした。

「氷蓮…。いい加減にしないと…。」

エレミヤが笑顔を作る。
しかし、その裏に怒気があるのを感じて全員が冷や汗を流す。

氷蓮以外の龍はあまりの恐ろしさに湖から離れていく。
しかし、氷蓮は胸を張り、体を揺らしてニコニコ笑っている。

その時だった。

「べ、別にいいので!お、お邪魔しました!!」

と馬を連れ旅人はクタクタの馬に連れ去ろうとする。

エレミヤはその旅人の腕を掴む。

「馬さん、かなり辛そうなのでここで休ませないと。」

エレミヤは先程の笑顔のまま言った。

「は、はい……。」

旅人はぎこちなく頷く。

そしてエレミヤは氷蓮に近づくと、

「そんなに水が好きなら存分に味わいなよ。」

と言いながら翡翠の水を放出する。

『ごぼっ!』

氷蓮が呻く。
ここで水を氷にしないのは、氷蓮の正体を知らない人もいるからだろう。
意外に世間体に気にする氷蓮は滅多に自分の本当の力を他の人に言わないのだ。

愚王の国を滅亡させた恐るべき「氷龍」なのだから。

それを知ってるエレミヤは容赦なく氷蓮に水を食らわせ続けた。
翡翠はため息をついている。

『エレミヤさんに喧嘩売ろうとか…妾はそんな度胸はありませんよ…。』

と少し感心していたりもした。
そして水を止めたエレミヤはにっこり笑顔で氷蓮に聞く。

「美味しかったかい?」

氷蓮はびしょびしょのまま半眼で言う。

『…おかげさまで。』

そして馬乗りの旅人に

「どうぞ!あ、後ついでに水が増えたので、バンバン飲ませてください!」
「あ、ありがとう……。」

旅人はエレミヤの首元にちらりと目をやり、目を瞬かせるも、素直に馬に水を飲ませ始める。

「龍乗りの旅人…、異能力…、首元の…罪人の首輪…、彼らは一体何者なんだ…。」

旅人は考えた。

(龍に乗っていると目立つよな…。脱走犯とも考えにくい…。そして、この水使いの少年と後ろの少年と似た少女しかつけられていない首輪…。他の人は一般人と考える…。)

旅人は結論が全然出なくて肩を落とす。
すると、水使いの少年が旅人に問いかける。

「足りますか?」

と。
彼は笑顔を顔に貼り付け、頷いた。

「あぁ。」

すると少年はこう言ってくる。

「ここで会ったのも何かの縁です。お互いに自己紹介しましょう。」

旅人は頷く。

「僕はエレミヤと言います。あちらにいる小さい双子がグラムとミストルティン。グラムたちの隣に居るのがミイロ・オノハラ。そして獣人の小さいほうがユユリアです。大きい方はジュリバーク。」

そしてエレミヤという少年は手を差し出してくる。

旅人は驚く。
理由は二つ。
一つ。
グラムとミストルティン。その名前は旅人の故郷で伝わる有名な武器の名前だったから。
もう一つ。
それは少女達の横にいる少女の名前だ。
ミイロ・オノハラ。
それは確実に旅人の故郷の名前だったから。

後、人族には全員名字があるはずだ。エレミヤとか言う少年とグラム、ミストルティンという名の少女達は名字を名乗らなかった。
罪人とはいえ、名字が奪わられることは無いはずだ。
名乗りたくないのか。

「ユウ・ラウンです。」

旅人は偽名を名乗りながら少年が差し出してきた手を握った。

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