氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

40. ティナの裏切り

「うむ…これは…。」

トゥーリスの王は唸る。
その手紙はシノハナ隊員のティナが風を使い送ってきたものだった。

自分がルティーエスの妹であったこと、ジリアスを殺したのは自分だということ、内通者がニーガンであること、この戦争の目的は領地の拡大及びルティーエスの奪還だということ、もう軍は動いていること、トゥーリスへ隠し通路を使い無勝間ていることなど。

「ティナの本性と罪についてはこちらとしても捜査でわかっていたが…。ニーガンについては知らなかったな…。」 

王は悔しそうに呟く。

その時だった。

「失礼します、父上!」

大声とともにドアが勢いよく開く。
ガン!とが壊れそうな勢いで開いたドアは所々の金具が壊れたが、なんとかドアとしての役割は保っていた。

「…ジュレーク。お前、王宮を壊すつもりか。」

バラックはそんな父の言葉を完璧に無視する。

「そんなことより!ログラーツ軍が動きました!」

王は息子の言葉に頷く。

「あぁ。そうらしいな。」

そう言いながら持っていた手紙を息子に突きつける。
バラックは眉をしかめていたが、素直に受け取り、一通り眺める。

「…ティナがこちらに寝返った、と?」

と呟く。 
バラックはそこで初めてティナの正体を知ったはずなのたが、極めて冷静だ。

バラックの後ろにはエレミヤ達がおり、全員真剣な顔で、王の言葉を待っていた。
たった一人、ユユリアだけ状況が飲み込めていないが。

「皆、ティナの出迎えを。命令とはいえ主戦力の一人であるジリアスを殺したのだ。十分役に立ってもらうぞ。」

全員が深く頷いた。

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「はぁはぁはぁ…」

ティナは異能力を使い続けている。
なのでティナ自身も相当疲れており、風鷹が一生懸命に風を起こしていることが分かる。 

「もう少し…頑張って、風鷹…!」
『…分かった!』

風鷹が声を出す。 
滅多に話すことはないが、疲労にかられている今は口に出すことで己を鼓舞しているのだろう。
ティナの乗っている馬はほぼ風に押される形になっている為、そんなに疲れていないらしい。

「くっ…、物を浮かせることができればいいのだけど…。出来ないのよね…。」
『すまん…。』
「いえ、良いのよ。頑張って、風鷹!」
『おう!』

ティナは馬に揺られながらトゥーリスを目指した。

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「おい、エレ。」

王の部屋から出たエレミヤにバラックが話しかける。  

「何?」

バラックはエレミヤの肩を掴み、鋭い声で聞く。

「お前はティナとニーガンのこと、知っていたのか?」

エレミヤはバラックを見る。

「ティナのことは最近知った。ニーガンさんのことは最初から知っていた」

バラックはエレミヤに食いかかる。

「ニーガンが内通者であること、なぜ言わなかった!」

エレミヤは何かを言い淀むように口を開閉させたあと、目を伏せた。

「…よく分からない。僕はニーガンさんを良い人だと思っていた…のかも。」

バラックはいまいちぱっとしないエレミヤの説明にため息をつく。

「…まぁ、お前らしいな。」

怒る気も失せたらしいバラックはため息をつくとエレミヤの背を強く叩く。

「…っ?!」

エレミヤはバラックを憎らしげに見る。

「…そこ、ラニアさんに叩かれたとこ。」

と不貞腐れる子どもの様に顔をしかめつつ、唸るように言う。
しかし、バラックはツンと顔をそっぽ向けるだけで何も言わない。 

「ラック嫌い。」
「うっせ。」

子供のようなやり取りに皆から戦前に笑いが漏れる。

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「はぁ…はぁ…。着いた…。」

ティナは肩でしきりに息をしながら呟く。
彼女の目の前には高い城壁。
しかし、その一部が破損しているのが分かる。

そしてティナは馬から降りると、その穴に向かって走り出し、アザラシ歩きで穴に入る。

「久しぶり。ティナ。」

頭上から発せられた優しい言葉。
ティナは顔を上げる。

「エレミヤ…バラック…ミイロ…。」

ティナは彼らの中でティナが知っている人の名前を順に呟く。

すると頭に猫耳がついている少女が後ろから可愛らしく走ってきてニコニコ笑いながら自己紹介をする。

「あたしね、ユユリアっていうの!メハナって呼んで!」

あぁ、この子がミイロの言っていたエレミヤの妹か。

「ジュリバークと申す。ユユリアの父である。」

ユユリアの後に同じく猫耳がついた屈強な男性が自己紹介をする。

「ティナ・ラウサーク。またはティアラ・ログラーツ。ティナって呼んでくれ。」

ティナは男口調でそう言った。
ユユリアとジュリバークは一斉に頷く。

「わーい!きれいなお姉ちゃんだ!あ、お兄ちゃんの妹さんだから当たり前かぁ!」

とユユリアがティナを至近距離で覗き込みながら言う。

エレミヤがはしゃぐユユリアをヒョイと抱っこすると、座り込んだままのティナにエレミヤは手を差し出す。
ティナはエレミヤの手を取ろうとしたが、すぐ手を引っ込めた。

「大丈夫。自分で立てる。」

ティナは俯く。 

(私はエレミヤにとっては師匠の仇…。だからエレミヤに助けられるわけにはいかない…。)

しかし、エレミヤはティナに無言で頭にチョップを入れる。

「にゃ!」

思わず猫みたいな声を出してしまったティナにエレミヤは真剣な顔で言う。

「僕はたしかに君を恨んでいるよ。」

第一声がこれだ。
ティナは胸をナイフで貫かれたような感覚を覚えた。

「だけど、僕はティナと友達でいたいと思っている。」

エレミヤはティナの前でしゃがみ込む。

「それに、師匠は絶対に仇を討つ事なんて望まない。僕もティナを殺したくはない。だからさ…。」

エレミヤは顔をほぐし、笑みを作り、ティナに再び手を差し伸べる。

「僕の手をとってよ、ティナ。僕は君と一緒にこの危機を乗り越えたい。」

ティナは涙が頬を流れていくように感じた。
実際に触ると指先が濡れた。

「エレミヤ、やっぱあんたは馬鹿だな。」

と言いながらティナはエレミヤの手のひらに右手を乗せる。

「…よく言われるよ。」

エレミヤはティナの手を強く握り、立ち上がらせながら苦笑する。

戦となる寸前だというのに穏やかな風がその場に吹いた。

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