氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

36.作戦会議

水龍が駆け込んで落ちてきてきた次の日。

エレミヤ達は水龍に前々に聞いていた娼館の前に立っていた。
こんな所に来たくなかったエレミヤは半眼で娼館の扉を叩く。

ガチャリ。

扉が開く。
そこには、エレミヤと前ぶつかった女性と水龍がいた。
女性はまぁ!と嬉しそうに笑い、水龍は笑いながらも目が笑ってない。怖い。

ちなみに昨日、水龍が帰った夜。エレミヤは親切に部屋を変えてくれようとした女将さんの申し出を断り、野宿していた。
ギリウスはエレミヤがなにかしたのかと思って涙ぐみながら怒っていたが、氷蓮の説明で理解してくれた。

そして女性が自分と水龍を紹介する。

「昨日はわたくしをお助け下さり、ありがとうございます。わたくしはヒルダと申します。23です。こちらはうちの一番人気の娘、リュウナです。18歳でございます。」

エレミヤはオロオロしながら愛想笑いを浮かべる。

「ど、どうも。マタツ・ミノと申します。」

エレミヤは前世の名を名乗った。
彼を探しにこの国まで追手が来ているかもしれないからだ。

「あら、良い名前ですこと。うふ。」

ヒルダはそう言って笑う。

「そうですわね。おほほ。」

水龍もそう言って笑う。
目が笑っていないのがやはり恐ろしい。

ヒルダはそれに気づくこともなく、ヒルダを連れ、

「どうぞどうぞ。お入りください。」

とエレミヤに声をかけ、中に入る。
エレミヤは水龍の真剣な眼差しを見たあと、ため息をつき、入る。
その瞬間、

〔おお…!エレミヤが遂に大人の仲間入りに…!〕

というルティーエスの感心した声が聞こえた。

【なんのこと?】

エレミヤはわざわざ刺々しい口調で返したが、この二人にそれは効かないことは分かっていた。
『ルティーエスがいいたいのは、おういうオトナな場所に来たことのないエレミヤくんも遂にそういう感情に目覚めたか!ということさ!』

【これは違う。あと、ここに来ることになったのは誰のせいか答えてもらおうか。】

ピューと龍のくせして上手な口笛を吹く氷蓮と「それそれ!」と氷蓮の言葉に深く頷いているルティーエス。

(こいつら…。)

エレミヤは歯を食いしばった。

【くそっ…。ルティーエスは実体が無いからともかく、今氷蓮が顕現していたらしっぽ掴んで放り投げてログラーツへ追い返していたのに…。】

とエレミヤが心底悔しそうに心の中で呟く。

〔…エレミヤ、聞こえてる。〕
『エレミヤ、お前は本当にやりそうで怖い。』

エレミヤは二人の言葉を無視した。
そして、こちらも大騒ぎである。

〈パパぁー!お腹空いたよぉ!〉
〈こら、姉様。父様を困らせてはいけません。…ダリアもお腹すきましたが。〉

剣姉妹はなにやらエレミヤに訴えている。
剣だから食事は必要ないはずなので、エレミヤに構ってほしいだけなのか。

【ちょっと待ってね、アーシ。ダーシャ。】

エレミヤは二人をあだ名で呼ぶことにしている。
理由はアーシリアの名前が長く、エレミヤが"アーシ"と呼び始めたらダリアが自分を"ダーシャ"と呼べ、と言い始めたのだ。
仕方ないのでダーシャと呼び始めると、相当ダリアの機嫌が良くなったので結果オーライである。

するとエレミヤの言葉に剣姉妹は結構ふてくされた。

〈パパはアーシ達より水龍が好きなんだ。〉
〈そうみたいです…。寂しい…。〉

一応エレミヤの娘である剣姉妹。
なのでエレミヤは基本的に二人に甘い。

【あ〜…。分かった。この後、水龍さんと二人っきりになる時があるからその時に氷蓮と一緒に出してあげるよ。ご飯もあるから。】

すると氷蓮がときめき始め、娘達は嬉しそうに笑った。
エレミヤも薄く笑ったが、すぐ顔を引き締め、前を歩く水龍とヒルダの背中を見据える。

❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅

「では、ここでお待ちください。」

ヒルダが去っていく。
エレミヤ担当は勿論水龍である。
そうしなければ色々密談ができないからだ。

そしてそこで氷蓮とアーシリアとダリアを開放する。

「パパぁ!」
「父様!」

娘達はエレミヤに飛びつき、氷蓮はじいっと扉を眺める。水龍が来るのを待っているのか。

アーシリア達は本性を現したため、髪の色も本来の色に戻っている。
アーシリアは赤。ダリアは白。

その時だった。
ガチャリとドアが開く。
そこにはとてもきれいな服を着た水龍がいた。

水龍は氷蓮を見るとタタタと駆け出し、飛びつく。

「ヒョウくーん!」
『スイ…!』

まるで何年かぶりの再会のようだ。
昨日会ったばっかりじゃないか。

ずっと氷蓮のことを抱きしめていた水龍だったが、

「わぁー。髪の毛の色きれい…。私、赤だし…。」

と水龍の髪を覗き込みながらアーシリアが言う。

「私は白で単色なので…。」

ダリアも、しゅんとしている。

「僕はアーシの髪の毛も、ダーシャの髪の毛もきれいだと思うよ。」

とエレミヤが笑顔でそういうと、二人は機嫌をすっかり直し、ぴょんぴょん跳ねている。

わーい、わーい!といったように嬉しそうな剣姉妹を見て水龍は首を傾げる。

「あら?この子達は?昨日妾が宿へ行ったときはいなかった…。ですよね?」  

その質問には氷蓮が答えた。

『エレミヤの娘であり、祓魔剣アーシリアと魔剣ダリアでもある子達だ。』

それを聞くと水龍はまぁ、と口に手を当てる。

「大物…ですね…。」

驚いたようである。
しかし、すぐにほんわかと笑い、

「可愛いですね…!」

そしてアーシリアの脇に手を入れ、持ち上げたと思いきや、

「う?」

自身の膝の上に置いた。
アーシリアは下から水龍を見上げた。

そしてエレミヤはダリアを膝の上に乗せ、

「さて、作戦会議と行きますか。」

とみんなを促す。

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夕方。

「さぁ、帰ろうか。」

エレミヤは作戦会議を終え、席を立つ。

「アーシ、よく分からなかった…。」

アーシリアが目を回しており、ダリアはエレミヤの膝の上でぐっすり寝ている。

「すべて、完璧だ。」

エレミヤは呟く。

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