氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

32.「彼」との遭遇

暗い月夜の中、エレミヤはたった一人で歩いていた。

「はぁ…はぁ…。」

エレミヤはとても疲れていた。
普段はこんなことで息切れなどしないエレミヤは体の具合が悪く、通常よりも疲れていた。

『エレミヤ、少し休め!ジリアス殿の葬儀は王女セファリアの誕生日会が終わってから…つまり、来週なんだ!そんなに急がなくていい!なんなら我がエレミヤを乗せて行くから!』
〔そーだ、そーだよ、エレミヤ!〕

エレミヤは無言で首を横に振る。

「氷蓮は…。目立ちすぎる……。だから…はぁはぁ……。駄目…。」

エレミヤは一旦、木に寄りかかると息を整え、歩き出す。

「っはぁ、はぁ、はぁ…………。」

エレミヤは一歩一歩歩くごとに足が重くなるのを感じた。
包帯から徐々に血が滲んでいくのを感じる。

しかし、エレミヤは歩き続けた。

「師匠……。」

エレミヤはそう呟きながら歩く。

『やっぱり駄目だ、エレミヤ!もう、限界だろ!』

氷蓮が叫ぶ。

〔そうだ、もうやめてくれ、エレミヤ!!〕

そんな二人(1人+1匹)のお願いにエレミヤは耳を貸さなかった。

(僕は…。前世の頃から耐えることは得意だった…。今耐えなくていつ耐える……!)

今でしょ、という合いの手が入ることは当然なかったが、エレミヤは歩き続けた。

たまに氷蓮が顕現してきてエレミヤを止めようにとても真剣に語りかける。

しかし、エレミヤは首をなかなか縦に振らない。

ずっと歩いていた。

足が鉛のように重い…。

あ…足がもつれて…。

っと、危なかった…。

はぁはぁ…。

血が足りない…。

体全体が寒い…。

もう、駄目……かも………。

エレミヤが絶望しかけたその時だった。

「…おい、坊主、どうした。顔色悪いぞ。」

後ろから声が聞こえた。
エレミヤはゆっくり振り向く。

「し…しょ……?」

そう、彼はエレミヤの師匠 であるジリアスに酷似していたのだ。

「師匠……?何のことだ?あ、俺はなギリウス・ガルゴスっていう。ギリウスって呼んでくれ!」

どん!と胸を叩き、ニカッと笑うギリウス。
そんな彼にエレミヤは大きく目を見開いた。

「ガ…ガルゴス……?!」

エレミヤはかすれた声でその名字を呼ぶ。

「俺、冒険者であちこち国を回ってたんだけどな、これから兄貴の葬儀に行くところなんだよ…。兄貴は俺と違って有能だったからな……っておい、何泣いてんだ?坊主。」

エレミヤはゆっくり下を向く。
呆然とし、目から涙を流しながら、いえ、と首を振る。

「で、これからどこへ行くんだ?って、お前怪我してんなぁ。ここから南方に『ログラーツ王国』っていう国がある。そこへ行ったほうがいいぞ。あそこ、」

エレミヤはじっとギリウスを見る。

「僕…トゥーリス…へ行く……。師匠の葬儀…行かなくちゃ…。」
「お、おいおい!そんな体で…。」

気を使っているギリウスの言葉にエレミヤは睨みつける。

「行かせてください…。ずっと一人だった僕に…手を差し出してくれた師匠なんです…。だから…僕は行かなくちゃ…。師匠を守れなかったから、葬儀にだけは…。行かなくちゃ…。」

ギリウスは目を瞑り、

「は〜ぁ〜…。」

と大きくため息をつく。

「同じ日に亡くなった人の葬儀に行くために同じ国へ行くって、なんか運命っぽいな…。」

と呟いたかと思うと、エレミヤと初めて会ったジリアスの様にエレミヤを軽々と持ち上げた。

「う…?」

エレミヤは横にある顔を見た。
その顔はやはりジリアスによく似ていた。 

「おし!さあ、行くか!」

びっくりしたように目を見開くエレミヤにギリウスはニカッと笑う。

「連れてってやるよ、お前の師匠のもとに!」

エレミヤは一瞬驚いたあと、またも涙を流し始めた。

「はい…!ありがとう…ございます…!」

と感謝を示すエレミヤにギリウスは親指を立てる。

「いいってことよ!」

 そしてギリウスはエレミヤを担いだまま歩き出す。

「あ、そうだ、お前の名前は?そんな小綺麗な服装してんだから名前、あるよな?」
「あ…エレミヤ。僕はエレミヤ・ロガーツ」
「ロガーツぅ?!ログラーツに似た名前だな!」
「エレミヤも、ロガーツも師匠がつけてくれた…。」
「…すまん。」

エレミヤは首を横に振る。

「師匠から貰った…大切な名前だから…。」
「…そうか、いい師匠なんだな…。」
「はい…そうなんです…。」

あなたの兄貴ですよ。
とはエレミヤは言わなかった。

なんか……。
この感じ、落ち着く……。

「?ん、どしたエレミヤ。人の顔まじまじと見て。」
「いえ。なんでも…ないです…。」

キョトンとするギリウス。
そんな彼にエレミヤは笑いかける。

「ちょっと…眠いので、寝ていいですか…?」
「あぁ…。いいぞ。」

エレミヤはゆっくり目を閉じた。

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「な…なんだ、これは!」

ログラーツ王国にて。
王は、慌てて入ってきた兵士の報告を聞いて血相を変え、外に出ると…。
すべてが凍っており、この城全てが氷の城と化していた。

「この異能力は…。ルティーエス…いや、エレミヤか!」

王は己の孫が持つ恐ろしいほど美しく、危険な力を改めて実感した。
それに、氷漬けにされてる兵士たちは全員、生きている。

殺さずに攻撃することは極めて困難であり、それには相当な技術を要するのだ。

それなのに…こんな容易く成し遂げるとは…。

ルティーエスの祖父は目を閉じ、冷や汗のかいた手を握りしめる。

「ルティーエスを探し出せ。絶対にだ!」

と厳かに叫ぶ。

「はっ!」

側に居た兵士が返事をし、去っていく。
そして、側に誰もいなくなった王に誰かが話しかける。

「陛下。」
「ニーガンか。お前も行け。」
「はっ。」

そしてニーガンも去っていく。

そして、この王宮の中には王とその孫娘と氷漬けにされた兵士だけが残された。

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