氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

20.突如出来た許嫁

「あ、ラックは今日、泊まっていくよね?なら、部屋とか準備しないといけないな。」

エレミヤはバラックにそう言った。
バラックはニヤリと笑う。

「あったりめえだ!せっかく遠路遥々、友達んち来たのに泊まらないって選択肢はねえっしょ!」

エレミヤも嬉しそうに笑った。
バラックも暫く嬉しそうに笑っていたが、首を傾げた。

「ところでエレミヤ。そのお前の後ろにいるちびっこは誰だ?」

エレミヤは質問の訳がわからなかったので振り向こうとしたその時。

「わーい、バレなかったー!」

たたた、と走ってきてエレミヤの足にぎゅっと抱きついたのはユユリアだった。

「わぁ!メハナ!いつの間に気配殺しマスターしてたんだ?!」
「へっへー。パパに教えてもらったの!」
「それは敵に出くわしちゃった時にしようね。僕の寿命減らしてどうするんだ!」
「…?だって、パパが、お兄ちゃんは強いからこれくらいじゃ死なないからやってみなって。」
「くっ…ジュリバークさん……。僕を褒めるふりしていたずら仕掛けようとする人だったんだ……。」

バラックはユユリアを見てエレミヤに言う。

「へぇー。獣人か!こりゃまた珍しい。」

ユユリアはバラックを見て、ペコとお辞儀した。

「ユユリアです!メハナって呼んでもいいよ!」

バラックはコクリと頷いた。
そしてほんわかと笑う。

「いや〜…可愛い……。」

確かに尻尾をピュンピュン振って耳をピコピコさせてるユユリアは愛らしいの一言である。

『我はどう?』

何と対抗したのか、エレミヤに聞いてくる氷蓮。
しかし、氷蓮は何を感じたのかすぐに口を閉じる。
そして氷蓮はしばらく黙ったあと、息を鋭く吸った。
そしてぽん!とエレミヤから出てきたと思うと、

『茶狼?!茶狼だろ?』

と氷蓮はバラックに叫ぶ。
突如の言葉にエレミヤは驚く。
しかし、バラックは予見していたかのように涼しい顔でうん、と頷くと

「ほら。親友だとよ。起きろ。エスヤ。」
とひとりでに言った。 

その時だった。
ぼわんとバラックから小型犬のような愛らしい姿をした狼が現れた。

『おお!ヒョウレン!吾輩の親友よー!』
『お前、エスヤっていうのか!久しぶりだなぁ!!』
『あぁ!お前の主が誘拐されて以来だ!』

エレミヤは親友が異能力者になったことに驚きつつ、彼らの愛らしい様子を見てうっとりとしている。

「お前も遂になったんだな。異能力者。あれだな、シノハナに推薦してやるよ。」
「いいのか!ヤッホーイ!」
「コラコラ落ち着け。手のひらサイズの氷蓮とチワワサイズのエスヤが驚いてるだろ?」
「……?手のひら……さ……さい…?あと、チワワ…ってなんだ?」

エレミヤはしまった、とい表情を浮かべ、ユユリアが兄の愚行を覆すためかバラックに走り寄り、

「メハナね、ヒョウレンがお気に入りなの。」

と言った。

「エスヤも可愛いだろ?」
「うん!メハナも欲しい!」
「ああ。お前、エレとは兄妹なんだろ?だったら強いに決まってる!お前の兄はな、世界最強なんだぜ。」
「わぁ…!凄い!」
「……なんで世界最強になってるのかは知らないけど、メハナは強くなるよ。僕が保証する。」
「わぁい!お兄ちゃん、大好き!」

実はシスコンの兄とブラコンの妹はお互いにキャッキャッと、笑いあった。

バラックはそんなエレミヤの様子を見てチクリ、と胸が痛む気がした。

(エレミヤは、本当にここを居場所の定めているのだろうか…。)

しかし、エレミヤの次の言葉で彼の本心を知る。

「本当はトゥーリスで学園に通いたいんだけどね、ここの王様が相当な孫好きでさ、中々外に出してもらえないんだ。」

エレミヤは氷蓮を肩に乗せ、妹を抱っこしながら言った。
バラックはエレミヤを見る。
彼の後ろには。いつの間にか獣人とミイロ・オノハラが居た。

その大人の獣人はユユリアの頭に手を乗せ、ミイロは優しくバラックに微笑みかけてきた。

「絶対に戻るよ、あの学園に。だからバラックくん。待っててね。」

ミイロははっきりとそう言った。

「…あぁ。待つ。お前らが帰ってくるのを待つよ。」

バラックはニヤリと笑った。

「その間、お前んちに泊まることにするわ。」

エレミヤは何回か瞬きしたあと、苦笑いした。

「それを決めるのは僕じゃなくて爺様…陛下だよ。」

と言いながら。そしてエレミヤはバラックに背を向け、ちらりとこちらを見る。

「だけど、ここに居られるように最善は尽くすよ。」

エレミヤは薄っすらと笑った。
その目には優しい色が浮かんでいる。
そして嬉しそうに微笑んだ。
彼の腕の中にいるユユリアは

「お兄ちゃんがこんなに楽しそうな顔するの、初めて見た!」

と笑う。
ミイロはエレミヤの肩に手を置き、にっこりと笑う。
獣人、ジュリバークは娘の様子を見て微笑む。

(ここは……王宮よりも暖かくて、優しい場所だ。)

バラックが求めていたのもこれだったのかもしれない。

「うし、じゃ、エレミヤ、よろしくな。」
「分かったよ。じゃ、部屋を用意させるから待ってて。」

二人は笑い合う。
そしてエレミヤは彼の後ろにいたフードを被っている人に目を向けずに言った。

「では、よろしくお願いします。」
「はっ。畏まりました。殿下。」

その男…ニーガンは下がっていく。
と。その行動をエレミヤは慣れているように感じた。

(…あ、やべ。うっかり礼儀作法の先生に教えられた通りやってしまった。これじゃ僕がこの家に溶け込んでる、と思われてしまう。っていうか、バラックが王家の一員だから、無礼の枠に入っちゃわない?あ、僕も王家だった。自覚ないけど。)

エレミヤは内心後悔しつつ焦っていた。
そしてバラックに目を向けると、案の定、こちらをじっと見て驚いている様子だ。

エレミヤはものすごく慌てたが、バラック達に愛想笑いをした。

「はは……。やっぱり、変だよね。先生から習った通りにやったんだけど、やっぱり似合わないよね…。」
「いや、意外に様になってる。」
「…そう?」
「うん。」

唖然としているバラックと慌ててるエレミヤはお互いに言葉を交わす。
ミイロはエレミヤを優しい目で見てるし、抱えられたままのユユリアは嬉しそうにエレミヤの首に腕を回す。
そしてそのまま力を入れる。

「ぎゅーっ!!」
「うっ?!め、メハナ!そこ、急所!首は急所!死ぬ、死ぬから!」

首を絞められる形になったエレミヤは慌ててメハナに解放するように嘆願する。

「はは、ぎゅぅ〜!!」
「メハナ、冗談だと思ってる?いや、ホントだから!…うっ……、くる…し…」 
「ふい?あ、ごめん!お兄ちゃん!」

遅れてエレミヤの状態に気づき、ユユリアはババッと腕を離す。
自分の腕を胸の前で組むユユリア。

「ご、ごめんなさい……。」

(……相当凹んでる……。)

待っても返事をしない兄に妹はどんどん泣きそうになって行く。
兄は妹の失望っぷりに驚いているだけなのだが。

「…はっ!えっと、だ、大丈夫だ。死ななければそれで良し!」

エレミヤは笑顔でそう叫んだが、その後ろから雷鳴が響いてきた。

「…孫に手を出したら許さん……!ルティーエスに手を出すな!!」
「わぁ!じ、爺様!」
「あ、まっくんのおじいちゃん!こんにちは!」

エレミヤが驚き、ミイロが笑顔で挨拶。ジュリバークが青ざめる中、元気な声が響いてきた。

「わーい、王様だ!こんにちは、ユユリアです!メハナでもいいよ!お兄ちゃんがお世話になってます!」

ユユリアだった。明らかに獣人の彼女が己の孫に抱きついている様子を見て王様はポカンとしている。

「ル、ルティーエス…。まだ早いぞ。」
「へ?!何勘違いしてんですか?!この子は僕の妹的存在なだけです!」
「…孫が…………。ぁぁぁぁぁ……。」
「うわ!!や、やばい……。」

虚耐えるエレミヤに、ユユリアは目を瞬かせた。
そして己の祖父(仮)の発言に油を注ぐような発言をした。

「?お兄ちゃんの女はみぃねーちゃんだよ?」

しーん………………………………。

エレミヤはとんでも発言をした妹を唖然として見、ミイロは口を何度も開閉させ、バラックはニヤニヤ笑い、ジュリバークはくすくす笑っていた。
王様はエレミヤに近寄ると震える声でこう言った。

「…幸せになるんじゃぞ。」
「わぁ!真に受けた!」
「ミイロ殿ならお前を預けられる……。」
「なんかしれっと許嫁になった?!」
「まっくんの…い、許嫁……?!」
「みぃ、早く反撃してよ!って、あれれ?みぃ、何?その満更でもなさそうな顔!」

その様子を見たバラックがエレミヤの肩に左腕を回し、茶化すように言う。

「いやぁー…。こんな美人と結婚できるなんて羨ましいわー!いいな!エレ!」
「……絶対に面白がってるだけだ。」
「いや、ほんとほんと!お似合いだって!ですよね、陛下!」
「…うむ!」
「ほら、お前のおじいさんもそう言ってるだろ!」
「え、ログラーツ王国とトゥーリス王国って敵同士じゃなかったっけ?なんでこんなに気が合ってるの?」

そして二人はお互いに顔を見合わせる。

「どぇぇぇぇ?!ト、トゥーリス王国の第二王子殿ーっ?!」
「ども!お元気そうで何より!」
「「「…え、今?」」」  

というか、第2王子だったんだ。バラックって。
エレミヤは祖父に突っ込みながらそう思った。

「じ、爺様。こちら、僕の友達のバラックです。」
「ども!バラック・ラーノルド、もしくはジュレーク・トゥーリスです!どうぞお見知りおきを!」
「ボルクエーズ・ログラーツだ。で、一つ思ったのだが、普通名乗る順序、反対じゃなかろうか。」

エレミヤの祖父は自己紹介すると同時に分からない部分を聞いてみた。
すると、呆れるほど普通の答えが返ってきた。

「いやぁ…実はバラックって呼ばれたいんすよ。俺。ジュレークって名前、好きじゃないんで!」
「そ、そうか……。」
「で、相談なんですけど、しばらく泊めてもらえないっすかね。もう野宿に飽きたんで。」
「はぁ……。別にいいが。」

それを聞いてエレミヤは嬉しそうに笑った。

「今までがんばって野宿耐えてきて良かったな。バラック!」
「あぁ!」
「野宿する王子もどうかと思うが。というか、護衛はその少年、一人か?」

芽生えた疑問を投げかける王様。
その疑問にトゥーリス王国第二王子は当たり前のように答えてみせる。

「そうですけど……。」

エレミヤはにっこり笑い、こう言った。

「バラックは大地の異能力者だもんな。護衛なんかそんなに多く要らないよな」

と。その答えに王様は目を見開く。

「大地の魔獣…茶狼か!」
「「当たり!」」

王様は驚きのあまり、エレミヤとバラックの顔を往復して見た。

(最強の魔獣、一位、ニ位を宿す異能力者がここにいる…。なんて凄い光景なんだ!)

王様はそう思った。
そしてエレミヤとバラックの間に二つの影を視認する。

一つは小さい龍。一つは小さい狼。

その姿は本で出てきた恐ろしい姿とは異なるが、その色は本当に氷龍と茶狼のものだった。

『エレミヤ。遅くなったが、婚約おめでとう。』
「ほんとに遅いね!でも、なんて反応していいかわからないよ!」
『うん?そこは単純に嬉しいんじゃないか?』
「え?」
『…自分にこんなに鈍感なやつがおるか…。』

主と魔獣との会話が続く。

そしてそこに、ニーガンか戻ってきた。

「殿下。掃除、終了しました。」

とエレミヤに報告する。
エレミヤはニーガンを見て笑った。

「ありがとうございます。」

そしてエレミヤは会話を続けるためにバラックに向き直る。

(やれやれ、どこまでも平和だな…。)

バラックは長い間対立していた国の王子たちの様子を見て、孫を見守るような気分になった。

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