氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

12.ジリアスの乱入

「じゃあ、これから真剣の素振り500回!」

先生がハキハキと宣言した。
エレミヤは少し驚きつつ満足そうに笑い、ティナはムスッと口をゆがめた。
バラック含む生徒たちは不満そうに顔をしかめた。 

「「「えぇ〜〜〜〜〜…」」」

すると先生はため息をつき、

「えぇーじゃない。剣の素振りは基礎中の基礎でまた一番大切なものなんだぞ!」

生徒たちはキョロキョロと顔を見合わせると

「…はぁい……。」

と頷いた。 
するとバラックがエレミヤに話しかけた。 

「普通の素振りだってよ。エレミヤ。」

エレミヤは笑って答える。

「いや、普通じゃないでしょ?」

と言いながら 腰から剣を抜く。
バラックはエレミヤの言葉に驚いたように声を上げる。 

「なんで?」

エレミヤは腰から抜いた真剣を軽く回しながら笑って言う。

って先生言ってたよ?」

普通は木剣で素振りをする。
木剣のほうが軽いし振りやすい。
バラックは目を瞬かせた後驚き、先生を見る。

「「「真剣で素振り500回ぃー!?」」」

ほかの生徒にも聞こえていたようで皆が声を上げる。

「真剣で500回素振りだと?!」
「う、腕が壊れる…」
「腕に筋肉ついちゃったらどうするのよー!」

男女それぞれ悲鳴を上げ、先生がニヤリとする。

「異能力者のクラスなのになんで500回も!しかも真剣で!」

とバラックが呻き、先生は心外だ、と言うようにに片眉をあげる。

「異能力は魔獣が己の中に憑依することで使えるようになる。それは知ってるな?我が生徒たちよ。」
生徒全員がコクリと頷く。
これは誰もが知っている常識だ。

「その魔獣は力が強いものを好んで憑依する。だから素振り真剣で500 回で力をつけなきゃならんのだ!」
「うっ…理屈が通ってる…。」
「…どんまい。ラック。」
「無理だよ…。騎士目指している人はそんなの簡単にできるだろうけど…。」

そしたら先生が笑う。

「この世界で最も強い戦力、それが異能力者だ。そして…君たちの中に、もう異能力を持っている者もいる。」
先生が明かした事実に生徒達は全員目を見開く。

「しかも、だ!あの世界最強にして最凶にして最狂の氷竜を宿しているものもいる!…そいつはもちろん、シノハナ隊員だぞ。…あ、そういえば世界最速の風鷹ふうおうを宿しているシノハナ隊員も居たな…。」

もちろん、前者がエレミヤで後者がティナである。
ティナは風鷹という風を操る異能力を持っている。
先生の言葉を聞いた生徒はクラスはどよめき、それぞれ周りを見渡す。
しかし、入学式初日から自分は雷の異能力者だーと騒いでいた異能力者は違うと分かっているため、彼の他に異能力者、しかもシノハナ隊員が居るとは夢をも思わなかっただろう。
もちろんバラックもその一人で興奮してエレミヤに話しかけてきた。

「すげえな!あの氷竜を宿す異能力者がいるなんて!すげぇ興奮する!な、エレミヤ!」

エレミヤがその当人なのを知らずにものすごい笑顔でバラックは言う。

「そう…だね…。凄いや、ははは…」

ここは合わせておかないとバレてしまう。
しかし、やはり自分を褒めるというのは気分が良くないものであり、照れてしまう。
後からティナがエレミヤの背中をなぜか蹴ってきてエレミヤがそちらを見るとティナは少し顔を赤らめて恥ずかしそうにしていた。

「風鷹の異能力者も凄いね!」

とティナにぎこちなく笑いかけるとティナはそっぽ向いた。

「そ、そうね。」

バラックはエレミヤの肩に腕を回し、興奮していた。

「先生ー!誰ですかー?」

聞いてきた生徒に先生は首を振る。

「答えられないな。言ってしまったら本人に氷漬けや、瞬時に詰め寄られて殴られるな。」

 いやいや、そんなことしませんよ。氷球すいきゅうを投げつけるかもしれませんけど。

エレミヤ以外の人間を俺は殴らないっつうの。風刃ふうじんは食らわせるかもだけど…。

シノハナ隊員二人が危ない思考を巡らせていると、生徒達はなるほど、と首を縦に振りつつ、顔を青ざめさせた。
特に、ゴルゴたちは青通り越して白くしていたのだが。

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するとそこに、

「はぁーい、生徒共ー、やってるかー?」

と普通に歩いてきた一般人がいた。
その姿を見て、ティナはため息をつき、エレミヤは顔を赤くした。
その一般人…ジリアス・ガルゴスは弟子の姿を目視し、諸手を上げた。

「うぉぉぉぉぉい!エレミヤー!我が弟子よー!」

エレミヤとティナ以外の生徒達は、その男を見て目を見開き、大声で叫ぶ。

「「「シノハナ元隊長、炎のジリアス・ガルゴス?!」」」 

エレミヤは生徒たちのその大声を無視して師匠に叫び返す。

「なんで師匠がここにいるんですかぁ!!!」

先生はポケッとしてるし、絶対許可もらってないでしょ?というか、僕が師匠の弟子ってバレましたけど、いいんですかね?
エレミヤのにらみ顔を見てけらけら笑う師匠にエレミヤは心でこう誓う。

家に帰ったらこの人氷漬けにしよう。
そしてお酒を全部氷にして飲めなくしよう! 
と。
クラス中の視線がこちらに集まる中、エレミヤはジリアスにこう言った。 
「師匠がどんな理由でここにいるのだとしても、僕があなたの弟子ということを明かした時点であなたの弟子ははらわたが煮えくり返っています。故に…ロンガットさんに言って、ここ一ヶ月、飲酒禁止、以上!師匠がこっそり飲もうとしても飲めないように細工しておきますから!」
「わぁ!エレミヤ、それは勘弁!」
「嫌ですっ!」
「じゃあ、前言撤回するから!」
「そんなこと言ってもみんなの記憶には根強く残るんですよ!」
「じゃ、じゃあ、皆、忘れろ!いいな!忘れなかったやつは物理的に忘れせっからな!」
「師匠の馬鹿!何考えてんですか!意味ないですよ、そんなんでも!というか、みんなを傷つけたら僕は師匠に物理的、そして間接的に攻撃しますから!」
「こ、怖えぇ、怖ぇよ、エレミヤ!じゃあ、どうすればいいんだー!」

泣きそうになるジリアスにエレミヤなとどめを刺す。

「どうもできませんね。」

うわーんと泣き始めたジリアス。
生徒たちは彼らを唖然としてみていた。
ギャンギャン怒鳴りまくってる師弟をサカナに皆が話している。

「す、すげー…」
「ロガーツってガルゴスさまの弟子って…まじかよ!」
「って…なんかあのガルゴスさんを手玉にとってるし…」
「エレミヤ君、有能…。」

バラックははは、と笑った。 

「エレミヤ、すげー。な、ティナ。」

ティナはそっぽ向きつつ、

「そうね。うちのとこじゃ、あいつに勝てない人なんて居ないからね。」
「ウチ?」

ティナは小さく頷く。 

「なんだか訳のわからない集団よ。変な言語を使うし、座るのも床に座るのよ。全く…あんたは来ないでね。将来の為にも。」
「……?」

首を傾げるバラック。
そこにまだ怒っているらしいエレミヤが帰ってきた。

「全くもう…全くもう!」

と呟きながら。
ジリアスは鼻を啜りながら涙声で生徒たちに言った。

「えーと、ジリアス・ガルゴスです。エレミヤから“2ヶ月に伸ばされたくなければ僕含め皆に真剣の素振りを教えろ”と言われたので教えようと思います。」

皆が苦々しく笑い、ジリアスが先生に軽く頭を下げた。
先生はペコペコお辞儀をしている。 
ジリアスは軽く咳払いし、皆に笑いかけた。

「えーと、早速だけど、木剣の違いと真剣の違い、みんな言えるかな?」

一人の少年が手を上げた。

「はい、そこの少年!」
「重さ!」

ジリアスは深く頷き、

「うん。全然違うよね。じゃ、他には?…お、そこの眼鏡っ娘!」
「は、はい!えと…材質!」
「うんうん。木剣は木、真剣は主に鉄から作られてるね。」

少女はぱぁぁと笑い、にっこり嬉しそうに座った。

「他にはー。…あれ、居ないの?じゃあさ、エレミヤ。答えをすべて言いなさい。」

エレミヤは軽くうなずいた。

「形状、刃の有無、重量、手の内、材質、管理の仕方、柄の長短《ちょうたん》などです。」

おおぉー!という歓声が沸き起こり、エレミヤは軽く頭を下げる。

「おい、エレミヤ。全部って言ったろ。」
「師匠はこれしか教えてくれませんでした。面倒臭いとかなんとかって。なら全て教えてから言ってください。習っていないものを答えろ、と言われましても。」
「…………………………教えたぞ!」
「その間はなんでしょうか。師匠。頑張ってお酒の分の仕返しをしようとしていると思うのですが、幼いですよ?師匠。」
「俺より生きていない弟子に言われた!」

まだ喧嘩が続きそうだったので耐えかねたティナがジリアスに拳一発入れた。
バタンと倒れるジリアスと、ティナとハイタッチするエレミヤ。
何もかもが異常すぎてここにシノハナ隊員がいるという事をすっかり忘れていた1年9組のみんなであった。

❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅

「…395、396、397、398、399、400、401 ………」

ヒュンヒュンと素振りを続けている生徒達。
彼らを見てジリアスは一言呟く。

「ふむ。今回の新入生は中々筋がある。」
「ジリアス様もそうお思いですか!」

ジリアスは彼らの担任であるニールセン・ゴートに頷いた。
「おや、エレミヤ、あいつ、素振りに癖が出てないか?………まぁいい。ティナは…一振り一振りが綺麗だが力が籠もりすぎて、前に居る生徒にいつ当たるかヒヤヒヤする。」
「はは…。そうですね…。」

ジリアスは自分の身近な生徒を評価した後、ニヤリと笑う。

「しっかし、あのバラックって奴は結構やるな。エレミヤの素振りを真似してやがる!」
「え、本当ですか?」

ジリアスはエレミヤの隣でエレミヤをチラチラ見ながら素振りしている金髪の少年を見た。
その目は真剣そのものでエレミヤもその少年を見て満足そうに笑った。
みんな汗をかいているが、エレミヤはそれほど汗はかいておらず、まだ余裕と見える。

「まさか…エレミヤの野郎、あのバラックって少年の体型や性格から一番彼にとって有効な剣の使い方を教えてる…?」

ジリアスは額に手を当て、笑う。

「…お前にゃ、敵わんな、エレミヤ。いや…氷花の鬼神。」

ジリアスは既に自分を越してしまった世界有数の強さを持つ弟子に改めて感激させられた。

「…こりゃ、俺も頑張らないとな。」

ジリアスは嬉しそうに笑った。

「まさか手塩にかけて育てた弟子に追い越されるのがこんなに嬉しくて寂しいとはな…。弟子って良いもんだ。」

ジリアスは生徒たちが500回素振りを振り終わると声をかけた。

「おらー!ガキ共、集まれー!」

ワイワイと集まり始めたぐったり組の諸君にジリアスはニヤリと笑った。

「おし、これから模擬戦を始める!」

エレミヤは額に青筋をたて、ティナはため息をつく。
バラックたちはえ〜…。という気力もないらしい。ずっとハァハァ肩で荒く息をしている。

「こんなにストイックにする必要、無いでしょーっ!」

地面に両足をつけているまだ元気なエレミヤが英語混じりに叫んだ。

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