氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

9.ミイロの壊れた理由

「じゃあ、まっくん、この席ね!」
「と、隣…?」
「え、駄目?」
「えっと…その………。」

入学式直前。9組に割り振られた状況が飲み込めていないエレミヤとすでに状況を飲み込んでいる深色は席を決めていた。

(なんでみぃがここに?)

深色は死んだのか?いや、あの体つきは深色そのものだ。
それに、いつもの深色とは、なんか違う。
自己中心というか、欲望に誠実というか。

エレミヤは深色が心配になった。
それに、あの右目……。
ずっと気になっていたけど、標準が定まっていない。
なにがあったのだろうか。

しかし、エレミヤのそのしどろもどろになる様子を見てジリアスはニヤニヤ笑っていた。
そのジリアスは入学式終わるとすぐに帰っていった。
エレミヤたち生徒はその後、ホームルーム的なことをして即解散になったのだが……。

「みぃ…?なんでついてくるのかな?」
「んにゃ?だって私の滞在場所、王宮だし。つまんないし。」
「………。」

王宮って……。
エレミヤは深色が、転移者なのではと疑った。 
氷蓮もその予測に十分ありえると言う結論を出していた。

エレミヤと深色はジリアスのうちに帰っていった。

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その夜、ミイロはエレミヤの部屋に遊びに来た。

「やっほ、まっくん!」
「…みぃ。どうしたの。こんな時間に…。」

深色は照れたように

「ちょっと…お話したくて!」
「お話し?」

ミイロはこくんと頷いた。

「…分かったよ。どうぞ。」 

ミイロは行儀よく

「失礼します」

と言って入ってきた。
エレミヤはベッドに腰掛けてたあと、ミイロに紅茶を淹れて渡しつつ、エレミヤは自分の右横を空け、勧める。
ミイロもベッドに座り、紅茶に口をつけ、ため息をつく。

「…ふぅ…。まっくん、私が甘いのが好きってこと、覚えていてくれたんだ。」

ミイロの様子が昼間とは全然違う。
何かあったのか。
やっぱりあのミイロは深色とは違う人だったのか。

「みぃ…いや、深色。昼間のは…誰だったんだ…?」

ミイロは顔を上げ、きょとんとする。

「誰って…私だよ?」

彼女の目は先程まではどれだけ普通に見えるように努力しそうとしたのか、もう雰囲気が壊れた深色に戻っている。
やっぱり、壊れていたのかな……。 
エレミヤは顔を背ける。

「なんか…いつものみぃと雰囲気とかが全然違ったからさ…。心配になって。」

ミイロは笑う。

「うん。そうだね。私は感情を抑えられなくなった。人を殺したときから。ほら…今も。」

エレミヤはミイロの横顔を見る。
遠い昔の事のように話すミイロ。
彼女の手は汗ばみ、何かを堪えるように震えていた。

しかし、ミイロはそんなこと関係ないと言わんばかりにあぁ、と声を出してから呟くように言う。

「いや、まっくんが死んでしまったときから…だね。」

予測はしていた。
深色が壊れたのは自分のせいだと。
しかし、いざ言われると身体を鈍器で殴られるような衝撃が来る。

「でも、まっくんのせいじゃないよ。」

嘘だ。僕が死ななければこうはならなかった。

「大丈夫。まっくんは私が守る。」

守らなくていい。
自分を壊した人間を守るなんて…そんなことするな。

「ほら、私さ、弓道まぁまぁ上手かったでしょ?だからさ、矢でスパーンって一瞬で殺せるんだ。」

どんどん近づいてくるミイロ。
エレミヤの肩に頭を乗せ、彼の腕を抱きしめる。

「もう…。まっくんを失うのはね、嫌なんだ。世界を引き換えにしても君を守る。だって私、勇者なんだよ?それくらい出来るもん。」

なんでだ。僕の何がいけなかったんだ。
あぁ。そうだ。


彼女は真龍のこと第一に考えてくれていた。
真龍はそんな彼女に甘えていたのだ。

(はは…最低な男だな…僕は…)

なら彼女を壊したのが僕なら、なんとかしなければ…しかし…。
どうするか分かっていたらとっくにやっていた。
なにも解決策が思い浮かばないのだ。

(僕は…どうすればいい!)

頭を抱える。
するとエレミヤの中から声が聞こえた。

〔治せばいい。簡単でしょ?〕

この声は…。
氷蓮か?
いや、違う。正体のときの声でも、可愛いときの声でもない。
じゃあ、この声は…誰だ?

〔私はルティーエスだ。よろしくね、エレミヤ。微力ながらも君の手伝いをされていただく。〕

手伝い?なんのだ?

〔君の人生全てをさ。まさか私の身体に君が入ってくれるとは。嬉しい限りだよ。〕

エレミヤは目を見開く。

だったら…この身体の前の持ち主って…君だったのか?

〔うん。そうだよ。あーぁ。勝手に死んちゃって…父様に怒られる。〕

父様がいたのか。

〔そりゃいたさ。〕

貴族だったのか? 

〔まぁ近いって言えば近いかなー。あ、そうだ。私のことは誰にも言わないこと。王様にもね。〕

何故?

〔…誰にも言えない秘密ってあるだろ?〕

あぁ。たしかにな。

〔そうそう!よし、契約完了っと!これから君のこと、何でも手伝ってあげるよ!なんならテスト中に答え教えちゃうよ〜♪〕

僕はそんな卑怯なことはしないよ。

〔あ、そうなの?〕

僕はそんな男に見えるのか?

〔いや、全く。〕

だったら何故。

〔だって、このほうが気が紛れるでしょ?〕

気が紛れる?

〔そうそう。ほら、私にばっかり構ってないで彼女の方にもかまってあげたら?〕

え?何を…。

「わっ!」

いきなり右肩から圧力がかかってた。

気がつくとエレミヤはミイロによってベッドに押し倒されていた。

「みぃ…。何をしてるんだ…。」

深色はニコッと笑い、

「ごめんごめん。ちょっと足が滑っちゃって。」

微笑む彼女を見てルティーエスは慌てた様子で呼びかける。

〔エレミヤ、あの子、相当壊れているね。それに、彼女は自分の欲望に逆らえていない。あのままでは危険だぞ。エレミヤ。それを治す方法は1つ。あの瞳を取り除け!〕

瞳だと?!

〔あぁ!人の心を覗く眼…。ガーフマインを!〕

なん…だと…!
ガーフマイン。あれがすべての元凶…。

〔たしかに彼女は並外れた欲望を抱いている。しかし、ガーフマインがその欲望を増幅させているのだ!早くしろ、早く取り除け!〕

でも…深色を傷つけたくない…!
それに…これがなかったら彼女は失明してしまう!

〔大丈夫だ。失明はしない!ガーフマインは片方の目を宿るものなのだ。彼女の場合、ガーフマインは右目だ。右目に宿っている!それに、右目では普段は見えない。ただ、欲望を見るときだけに使うのだ。その欲望を見るときでさえ、ガーフマインに写った映像を左目付近で投影、再生するというもの。作り物だし、彼女の右目に嵌っているだけだ!だから、取り除く事に関しては、痛みは感じない!〕

…そうか。ならやれる!

〔ああ、早く取り除け!そうしないと彼女は人殺しを再開することになるぞ!君も、どうなるか…。〕

ミイロはその時、エレミヤに覆い被さっているときだった。

「あぁ…まっくんの香りがする…まっくんと一つになれた…!」

そう聞こえる。
エレミヤはミイロの名を読んだ。

「みぃ…」

深色はニコリと笑い、

「なぁに、まっくん?」

と彼女も真龍の愛称を呼ぶ。
エレミヤは深色の右目を手で塞ぐ。

「え?なに?」

キョトンとする深色にエレミヤは笑いかける。

「おまじない。僕らがずっと一緒にいられる、おまじない。」

深色はきゃっと笑った。

(さぁ。開放してあげる。)
と心の中で唱える。

【氷蓮。今までの会話、聞こえていたろ?】
『うん。』
【頼むぞ。】
『分かった!』

氷蓮は力強く答えた。そして…。
エレミヤの手から短すぎる氷柱が伸びてきて、ガーフマインを破壊した。
パリンという軽い音がした。

「え…?」

と驚きながら倒れてくるミイロ。
エレミヤは彼女を受け止め壊れたガーフマインを見つめる。
そしてエレミヤはミイロの右目からガーフマインを抜き取った。
ルティーエスの言う通り、ただ右目に嵌っているだけでするりと抜けた。

(さて…これでみぃはもとに戻るはずだ。戻って…くれ!)

と思いながらエレミヤはガーフマインを氷の中に閉じ込め、ゆっくり圧力をかけていき、粒子レベルに破壊した。
エレミヤは国宝を破壊したので少し罪悪感を感じた。
その時だった。
エレミヤの腕の中で声が聞こえた。

「まっくん…?」

と。深色がうっすら目を開け、こちらを見ている。
その目には先程まであった狂気はなく、真龍が知る本当の深色だった。

「みぃ!起きたのか!」

エレミヤは嬉しそうに笑った。

「あれ…?なんでまっくんにとっても似た人がここにいるの…?」

ガーフマインが装着された日から記憶が向けているのか? 

「え…?まっくん…??ちょ、うそ…。わ、私は……あいつ等をこ、殺して…異世界……に…来て…。…え、えそ…うそ!これは…夢…?夢なら覚めないで……。」

エレミヤは笑う。

「夢じゃないよ。みぃ。ここは異世界で、僕、三野真龍と再び会った。これは…現実なんだよ。」

半信半疑なのか深色は容赦なく己の頬をつねった。
深色は痛みに驚いたのか、目を見開くと涙をこぼし始めた。

「うそ…。ゆ…め…じゃないの…?やった…。やった!!まっくんだぁぁ!」

深色は泣き出しながらエレミヤに飛びついた。
目の前の人が真龍であると分かったのは別に心の声を聞いたのではなく、幼馴染みの直感だろう。
そしてエレミヤとして初めて会った深色に改めて挨拶をする。

「…はじめまして。エレミヤ・ロガーツです。三野真龍の…生まれ変わりです!」

エレミヤに抱きついている深色は涙声でエレミヤに言った。
正常な深色はエレミヤに笑い返す。

「…はじめまして。小野原深色です!勇者をやっています!」

二人はしばらく抱き合ったあと、お互いに笑いあった。

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